後席や荷室の広さ、乗り心地はライバル車に分がある

 最近はコンパクトカーの売れ行きが好調だ。トヨタ・ヤリスは国内販売の1位とされ、2021年1〜5月の登録台数は、1カ月平均に換算して2万台を超えた。

 ただし日本自動車販売協会連合会が公表するヤリスの登録台数は、コンパクトカーのヤリス+SUVのヤリスクロス+スポーツモデルのGRヤリスを合計したものだ。ヤリスクロスはコンパクトカーではないから、ヤリスのみの台数を算出すると、 2021年1〜5月の1カ月平均は約9600台になる。

 そしてライバル車の日産ノートは同様の1か月平均が約8000台、ホンダ・フィットは約5300台だ。2020年に発売された全長を4m前後に設定するコンパクトカーの販売ランキングは、1位:ヤリス、2位:ノート、3位:フィットになる。

 ただし商品力を比べると、必ずしもヤリスが1位ではない。この3車で後席と荷室の広さを比べると、1位:フィット、2位:ノート、3位:ヤリスになる。ヤリスの後席は窮屈で荷室も狭く、ほかの2車種と違ってファミリーカーには適さない。

 運転するとヤリスはライバル2車に比べて乗り心地が硬く、とくに14インチタイヤ装着車は粗さが気になる。アクセルペダルを踏み増したときには3気筒特有のエンジンノイズも響く。外観デザインでは、サイドウインドウの下端を後ろに向けて持ち上げたから斜め後方の視界も悪い。

 その半面、ヤリスは操舵に対する反応が少し機敏で良く曲がるから、峠道などではスポーティな運転感覚を味わえる。ハイブリッドのWLTCモード燃費は35.4〜36km/L(2WD)だから、日本で買える乗用車では最良の数値だ。このようにヤリスにも特徴はあるが、商品力を総合的に考えると、コンパクトカーの1位にはならない。

 それでも登録台数で1位になった背景には複数の理由がある。

グレードの豊富さとダウンサイジングモデルの有無が明暗を分けた

 まずはグレードが豊富なことだ。エンジンとパワーユニットは、直列3気筒の1リッター、1.5リッター、1.5リッターハイブリッドの3種類から選べる。1リッターを搭載するX・Bパッケージは、衝突被害軽減ブレーキを省いたから推奨できないが、価格は140万円を下まわる139万5000円だ。

 その点でノートは全車がハイブリッドのe-POWERだから、最も安価なSでも202万9500円になる。フィットは1.3リッターノーマルエンジンでもっとも安いベーシックが155万7600円だ。ヤリスは価格が全般的に安く、とくに1リッターエンジンの搭載が利いている。

 そこで販売店に1リッターエンジン車の需要について尋ねると以下のように返答した。「1リッターエンジンは、基本的には法人のお客様を対象に設定されたが、装備の充実する1リッターのGも用意している。買い物など短距離移動が中心の場合、一般のお客様も1リッターのGを選ぶ。1.5リッターに比べて価格が約14万円安いからだ」。このようにヤリスは、ノートやフィットに比べるとエンジンやパワーユニットの選択肢が多く価格帯も幅広い。そこが好調な売れ行きに結び付いた。

 また今のトヨタ以外のメーカーは、軽自動車に力を入れる。2021年1〜5月の販売状況を見ると、国内で売られた日産車の42%、ホンダ車の57%が軽自動車だった。ノートやフィットといったコンパクトカーの需要が、同じメーカーの軽自動車に奪われている事情がある。

 この点について日産の販売店は以下のように説明した。「新型ノートはe-POWERのみで、先代型と違って150〜160万円のノーマルエンジン車が用意されない。先代ノートのお客様が新型のe-POWERに乗り替えようとすれば、予算がオーバーする。マーチは低価格だが、今では発売から10年以上を経過した。そこで先代ノートのノーマルエンジン車を使うお客様には、軽自動車のデイズやルークスを推奨している。価格は先代ノートと同程度で、安全装備はマーチよりも充実しており、運転支援機能のプロパイロットも選べる。実際に乗り替えが進んでいる」。

 ホンダでも軽自動車のN-BOXが好調に売れて、フィットの競争相手になっている。その点でトヨタは、一部のOEM車を除くと軽自動車は扱わない。パッソは発売から5年を経過したので、小さなクルマに乗り替えるユーザーがヤリスに集中している。

 トヨタでは2020年5月から、国内の全販売店が全車を扱う体制に移行した。この変更もヤリスの売れ行きを押し上げた。ヴィッツはネッツ店のみの取り扱いだから全国に約1400店舗だったが、今は全店の4600店舗が販売する。日産の2100店舗弱、ホンダの2200店舗弱に比べると、ヤリスの販売網は2倍以上になる。以上のように複数の理由に基づいて、ヤリスはほかのコンパクトカーよりも好調に売れている。