地方議員の報酬の実態を知っているだろうか。神奈川県秦野市議会議員である写真家の伊藤大輔さんは「議会活動の日数で計算すると、年間38日の労働で762万円の年俸をもらっていることになる。地方議員は報酬と仕事内容のバランスに疑問点が多く、地域住民の信頼を得るためには改革が必要だ」という――。

※本稿は、伊藤大輔『おいしい地方議員 ローカルから日本を変える!』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/DenKuvaiev
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DenKuvaiev

■年俸を労働日数で割ると、日給およそ20万円

次のような求人広告があったとしよう。

年俸:762万円
労働日数:38日(注1)
任期:4年間
兼業:あり
募集定員:24名
競争倍率:1.17倍

仕事の内容はともかく、どうだろうか?

「おいしい仕事だ」と思った人もいるだろう。

これは僕が勤める秦野市議会議員の“給与体系”だ。特筆すべきは、年俸を労働日数で割ると、日給およそ20万円。さらに時給換算すると、約2万9000円/時(勤務時間9時〜17時、休憩1時間の1日7時間労働と仮定)。

経験上、議会の開会日や議員連絡会は、ほぼ午前中に終了し、委員会や一般質問のある日でも17時を回ることは稀(まれ)なので、実際の時給はおそらくもっと高い。

こういう話をすると、「議員の仕事は議会活動だけではない」という声がすぐにでも飛んできそうなので、あらかじめ断っておくが、「議員の仕事で一番大切な仕事も議会活動である」。

資料1を見てください。地方議員は「兼業あり」であるにもかかわらず、市議会議員の約44%は議員専業である。町村議会議員→市議会議員→都道府県議会議員の順に専業率は高まる傾向にある。

『おいしい地方議員 ローカルから日本を変える!』(イースト・プレス)より

僕は写真家を続けながらこの仕事をしているが、昨今の自由な働き方を考えると、現在の仕事を続けながらでも十分に議員の仕事を兼業できる人は多いのではないか。

■非常勤なのにボーナスも出る、謎の多い議員報酬

【秦野市議会議員報酬】
月額:44万4000円
年額:532万8000円
期末手当(年2回):約114万5000円×2
報酬(年額)と期末手当の合計:約762万円

資料2を見てください。議員報酬は人口の数に比例し、各自治体によって違う。秦野市の人口は約16万人。まずはあなたの街の議員が実際にいくらもらっているのかを確認していただきたい。

『おいしい地方議員 ローカルから日本を変える!』(イースト・プレス)より

常勤職である国会議員には歳費(給与)が支払われるのに対して、非常勤である地方議員には報酬が支払われる。本稿のテーマは地方議員なので、国会議員の給与には言及せず、あくまで地方議員の報酬にフォーカスして話を進めたい。

報酬とは本来、労働の対価として労働日数に応じて支払われるべきものである。それがなぜ月額で支給されているのか。なぜ非常勤なのにボーナスまで支給されるのか。疑問点は多い。

議員報酬を給与として考えるべきなのか、それとも労働の対価として考えるべきなのか。そこが大きい。

しかし、議員は落選すると失業保険も健康保険もないタダの人。議員年金は廃止され、退職金もない。現在の秦野市議会議員の平均年齢は62.4歳(令和2年4月1日現在)。落選したら多くの議員は再就職先を見つけることすら困難であろう。

■賃上げの可決理由を市民は納得できるか

報酬だけで生活する専業議員の不安(リスク)は大きく、この不安が議員を保身へと走らせ、ベテラン議員が若手へ席を譲らないなど新陳代謝の阻害に繋がっているとしたら、今の制度自体を考え直さなければならない。

伊藤大輔『おいしい地方議員 ローカルから日本を変える!』(イースト・プレス)

では、実際に議員は自分の報酬をどうみているのだろうか。

令和元年度12月に行われた秦野市議会第4回定例会では、議員の期末手当の賃上げを議員自らが提案し、賛成多数で可決された。

びっくりするのが自分たちの報酬、手当は自分たちで決められるシステムなのだ。

もちろん可決したということは、現在の報酬を「少ない」と思っている議員が多数だということである。その賛成理由としては、「若い世代や多様な人材が議員をこころざし、市民の負託に応えて、より議員活動がしやすい環境整備をするため」と議事録には記載されている。

このステレオタイプな説明に納得のできる市民はいるのか。

■都道府県議会議員と町村議会議員の大きすぎる報酬格差

議員報酬に対する一般市民の風当たりは強く、「税金泥棒」などと安易に言われかねない。実際に議員になる前の僕もそう思っていたし、それは市民と議員の不幸な関係性である。

基本的に議員というのは、普段自分たちの報酬のことをあまり話したがらない。

しかし、我々には自分たちの報酬に対するアカウンタビリティー(説明責任)がある。

それがきちんと果たせない限り、議員に対する市民の信頼感など生まれるはずはない。

資料3を見てください。都道府県議会議員の報酬を「1」とした場合、市議会議員「0.5」、町村議会議員「0.25」である。

『おいしい地方議員 ローカルから日本を変える!』(イースト・プレス)より

町村議会議員の平均報酬月額は20万円余り。これでは議員を専業として生活していくのは厳しいと言わざるを得ない。それに対して都道府県議会議員の平均報酬月額は約80万円。

この「報酬格差」は「労働の質の差」なのか「議員の格の差」なのか。あるいはこれくらいの報酬額を出さないと「なり手」がいないなど、需要と供給の関係で決まる賃金のようなものなのか。いずれにしても、これでは「報酬格差」があまりにも大き過ぎる。

■地方議員はプロフェッショナルか名誉職か

議員報酬を語る上で、カギとなるのが議員定数である。

(1)アメリカ型「政策論議のできる少数のプロフェッショナルを高額で雇う」
(2)イギリス型「議会を平日夜間もしくは土日開催にして、より多くの議員で議会を開催。報酬はほぼ無償」

今の日本のシステムは、アメリカ型とイギリス型の中間であろう。定数は中途半端。しかし報酬は国際的に見ても高い。本物のプロフェッショナルでもなく、無償の名誉職でもないという「曖昧」さが自分たちの果たすべき役割の「曖昧」な認識へと繋がっている。

秦野市議会を見る限り、地域の世話役、相談役といった役割に甘んじ、行政の監視、政策立案、議案の審議が極めて重要だという認識の議員は、ほんの一握りしかいない。

そうである以上、今の制度は変えるべきだ。

労働時間が長く、市民の政治への関心が低い日本社会では、平日夜間や土日に地域のために無償で集まる人がどれほどいるのか。

■少数精鋭のプロフェッショナルが議論すべき

他国のことはよくわからないが、今の日本の制度だと議案の審議には目を通さなければならない書類や資料も多く、(2)のイギリス型はあまり現実的であるとは思えない。

(1)の少数精鋭のアメリカ型はどうか。

例えば秦野市議会の場合、定数24を8にして報酬を上げ、選挙を行えば、競争倍率は上がり、優秀な人材が本当に集まってくるのだろうか。

地方議会は我々の生活に直結する「水道料金」「学校運営」「医療・介護」など大切な問題を決定している場である。

秦野市の年間の一般会計予算は約500億円。この500億というお金をどう動かすのか。単純にこれだけを考えても、その役割の大きさが少しは想像できるだろう。

そして、その重要な決定は地域の世話役や相談役を得意とする議員がするのではなく、少数精鋭のプロフェッショナルが議論をして決定を下すべきだというのが僕の考えだ。

■専門職と名誉職の二部制はどうか

ここは思い切って二部制を取り入れてみてはどうだろうか。

一部には、8名の(専門職的な)プロフェッショナル議員。月額80万円。

二部には、50名の(名誉職的な)地域相談員。月額10万円。

現在の秦野市議会議員の報酬月額の合計(24名分)は約1100万円。これとほぼ同額の費用で二部制は実現できる。多くの地域相談員は、市民の意見を広く聞き、それを議会に報告する(自治会への加入率の低下が叫ばれる中、地域相談員は、地域活動の中心的な存在としても機能するであろう)。

その上で、少数のプロフェッショナル議員が議案を審議し、予算のチェックや政策の立案を行う。

こうすれば、アメリカ型(少数の意見しか反映されない)とイギリス型(素人には議案審議や政策の立案は無理)の両方の欠点が補え、「いいとこ取り」ができる。

■「長い」「慣例に反する」で発言を打ち切られた

つい先日の委員会での話。

僕の発言に「長い」とベテラン議員からの野次が飛び、発言が阻まれる場面があった。それに対し、「自治会の話し合いでもあるまいし、『長い』という個人的な感覚で発言が打ち切られてしまう、その根拠を示してほしい」と反論した。すぐさま別のベテラン議員が、理由は「慣例に反するからだ」と言い出す。これまでにこのようなケースでは、誰も長く?(5分以下)意見を話してこなかったからだと言う(あの場面における制限時間の規則は一切なし)。

地方議会(おそらく政治の世界全般)では、時にこのようなロジックが通用してしまう。

そして、このベテラン議員発の同調圧力は、すぐさま議事進行役(審判役)の委員長にまで及び、僕の発言にストップがかかったのだ。

そうではなく、真摯な議論を展開することが我々の仕事だ。課題に対するメリットとデメリットを明らかにした上でとことん話し合う。矛盾や疑問、他の選択肢の可能性などの指摘に的確に答えられるかどうかで、案の良否が判断される。的確に答えられず、納得が得られないなら、その案には欠陥があるはずだ。そうであるなら、修正なり撤回をしなければならない。

しかし、実際には「もういい加減にしろ」という感じで議論は一気に打ち切られてしまうのが現状である。

これが「彼らの常識」、これが日本政治の「負」の最前線。

我々はどうして年間762万円もの税金を使って、議論をしない(できない?)議員をわざわざ雇わなければならないのか。彼らがいなくならない限り、日本の政治は決してよくはならない。

■今の議会は「議論の場」ではなく「儀式の場」

僕たち議員がとことん話し合い、地域の課題を広く住民に明らかにするのなら議会の存在価値は高い。しかし、現在の議会は「議論の場」ではなく「儀式の場」になってしまっている。

原因は、議員が実力不足(勉強不足)なために、行政の手のひらの上で踊らされているからだ。行政側が出してくる情報を鵜呑みにし、自力で深く切り込めないために、問題の本質まで辿り着けない現状がある。

つまり、政治がまったく機能していないのだ。

僕には政治的なイデオロギーはない。自分が右か左か、保守か革新かを意識したことすらあまりない。目の前の課題や政策に対して、真実を追求する修行僧(サムライ)のような覚悟でこの仕事をやっているだけだ。

真実を見極めるのに、イデオロギーはいらない。

※注1
秦野市議会(令和元年度)の開会及び会議等日数。
個人35日(本会議23日、常任委員会4日、予算決算常任委員会2日、議員連絡会6日)
全体58日(本会議23日、常任委員会日、予算決算常任委員会6日、議会運営委員会5日、議会報編集委員会3日、議員連絡会6日、代表者会議3日)
代表者会議は、正副議長、各会派の代表者が出席。
常任委員会は、総務、文教福祉、環境都市と3つの委員会からなり、議長を除く議員はどれかひとつの委員会に属する。自分の属さない他の委員会への出席は通告制。傍聴は任意。
予算決算常任委員会は、議長を除く議員が属する。
議会運営委員会、議会報編集委員会は、原則、会派に属する議員が出席。
なお本会議及び委員会等以外の「公務」に関しては、所管事務調査(秦野市議会の場合2泊3日)がある。各種式典の来賓、各種研修への参加は任意。

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伊藤 大輔(いとう・だいすけ)
写真家、秦野市議会議員
1976年 宮城県仙台市生まれ。明治大学農学部卒業後、一般企業に就職するも退社。スペイン、バルセロナに渡り写真を学ぶ。2004年、ブラジル、リオ・デ・ジャネイロのスラム街を拠点に写真家としての活動を開始。2011年、文化庁新進芸術家海外留学制度研修員。2016年、帰国。秦野市民に。2019年1月、写真集『ROMÂNTICO(ホマンチコ)』をイースト・プレスより出版。2019年8月、秦野市議会議員に初当選。
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(写真家、秦野市議会議員 伊藤 大輔)