空気を読み違えていた、ということだろう。

 ヨーロッパのビッグクラブが4月18日に発表した『スーパーリーグ』が、わずか2日で行き先を失った。イングランドの6クラブが脱退を表明すると、イタリアの3クラブとスペインのアトレティコ・マドリーも続いた。

 日本時間23日正午時点で残っているのは、クラブの会長フローレンティーノ・ペレスがスーパーリーグ初代会長を務めるレアル・マドリーと、そのライバルのバルセロナだけだ。ドイツ・ブンデスリーガの巨人バイエルン・ミュンヘン、フランス・リーグアンを牽引するパリ・サンジェルマンが当初から参加を見送っていることも踏まえると、SL構想を再び立ち上げるのは不可能と言っていい。

 12のビッグクラブがSL発足を加速させた導火線が、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大にあるのは間違いない。パンデミックによる減収では、予算規模の大きいクラブもダメージを被る。収入が多いから経営に余裕があるとは、必ずしも言い切れない。

 むしろ、毎シーズンのように大型補強をし、ビッグネームを引き留めるために、ビッグクラブは巨額の予算を投じている。安定的かつ持続的な収入源を得るために、彼らはスーパーリーグ構想を進めようとした。国内リーグの成績に関係なく出場が保証される意味で、SLはメリットが見出せるものだったのだ。
ところが、特権階級とも言うべき巨大なクラブが利益を確保する動きは、パンデミックだからこそ苦々しく映る。「自分たちが良ければいい」という意識が見えてしまう。そこまで利己的でないとしても、各国リーグやCLを戦ってきたパートナーたちへのリスペクトを、著しく欠くのは間違いない。

 チャンピオンズリーグから脱退するのだから、UEFAからの反発は覚悟していただろう。だが、各国リーグやFIFAから猛烈な反発を受け、クラブの足元を支えるサポーターからもここまで拒絶されることを、彼らは想像できなかったようだ。空気を読み違えたとは、そういう意味である。

 ヨーロッパ各国のサッカーリーグには、戦力均衡を促すドラフト制度はなく、サラリーキャップ制度も導入されていない。健全経営を促すためにクラブライセンス制度があるが、リーグ全体で選手のサラリーを抑制しようという動きは乏しい。

 その結果として、ビッグネームの移籍に高額の移籍金が飛び交い、戦力維持のために複数年契約で巨額の年俸を保証せざるを得なくなった。

 SL構想をブチ上げたクラブが今後すべきなのは、マネーゲームに歯止めをかけることだろう。ひとつの選択肢に成り得るのは、サラリーキャップ制だ。クラブごとの総年俸を区切れば、その範囲内で経営をすればいい。サラリーキャップの範囲内に収められないクラブからは、MLBのように贅沢税を徴収し、集まった税金はリーグ全体の利益に適う使いみちを考えていく。

 贅沢税の金額についても、MLBのデザインを当てはめる。課税率を1度目より2度目、2度目より3度目のほうが大きくなるようにして、追加金額がどんどん膨らんでいくようにする。

 さらに罰則を加えてもいい。たとえば、贅沢税の金額に応じてホームゲームが1試合ずつ減るような仕組みにすることで、「贅沢税を払っても、いい選手を獲ったほうがお得だ」という考えを揺さぶることができると考える。

 大切なのは、特定のクラブのみが利益を上げるのではなく、リーグの統括のもとで各クラブが健全な経営をしていくことだ。ウィズ・コロナ、アフター・コロナの時代では、なおさら協調路線が求められる。