10月15日にスバルの新型レヴォーグの発表会は、JALの格納庫で行われた。レヴォーグは同社にとっては「日本専用のフラッグシップ」という位置づけの車だ(写真:SUBARU

「上半期の国内販売実績は全需(自動車販売全体)にも負けて非常に見劣りする内容だった」。SUBARU(スバル)の中村知美社長はそう語った。

同社が11月4日に発表した2020年4〜9月期決算(国際会計基準)は売上収益1兆2183億円(前年同期比24.1%減)、純利益が237億円(同65.3%減)となった。新型コロナウイルスの感染拡大で、販売台数が大幅減が響いた。

冒頭の中村社長の言葉が物語るように、国内販売台数は厳しい状況が続く。主力市場であるアメリカの販売台数は、5月から回復基調が鮮明となり、足元ではコロナ以前を超える水準となっている。一方、国内は5月に底を打ったものの、コロナ以前の水準まで回復していない。

そんな中、下期のスバルの国内販売を支える車がようやく出てきた。10月15日にスバルが発表した新型「レヴォーグ」だ。

最新技術がてんこ盛り

「新しい技術を惜しみなくつぎ込んだ」と中村社長が語る新型レヴォーグは、2014年の初代発売後、初のフルモデルチェンジで、今回が2代目となる。初代レヴォーグはヨーロッパでも販売したが、新型レヴォーグについては、海外での販売は予定していない。

今回のレヴォーグは新しい技術がまさに“てんこ盛り”だ。スバルの代名詞の1つである運転支援機能「アイサイト」は、新開発のステレオカメラに加えて、前後4つのレーダーを組み合わせるなど、これまで以上に幅広いシーンで安全運転をサポートする。


新型レヴォーグは一定の条件下で手放し運転が可能となる(写真:SUBARU

さらに、より高度な運転支援機能「アイサイトX」を備えたグレードも選択できる。アイサイトXは高速道路など一定条件を満たした自動車専用道路で、時速50km以下のときに手放し運転(ハンズオフ)が可能となり渋滞時の運転をサポートするほか、ステアリングを制御して車線変更のアシストも行う。いずれもスバルとしては初の機能だ。そのほか、新開発の1.8L水平対向直噴ターボエンジンを採用する。

価格はエントリーモデルのGTが310万2000円(税込み、以下同)、走行性能に優れアイサイトXなども搭載した最上級グレードのSTI Sport EXが409万2000円。初年度の販売目標は月2200台ながら、8月20日から10月14日までの約3カ月で8290台の先行予約が入った。そのうちアイサイトXを含むオプションの設定率が93%に上るなど、新技術への期待の高さが伺える。


1989年に登場したスバルの初代「レガシィ」(写真:SUBARU

かつて、スバルのフラッグシップといえば「レガシィ」だった。1989年の初代発売以降、国内販売の主軸を担っていたが、5代目からは同社の売り上げを大きく占める北米にターゲットを絞ったことで、車体が大型化。その代わりに日本向けモデルを開発し、登場したのが初代レヴォーグだった。

国内のフラッグシップに位置付けられていることもあり、初代レヴォーグはモデル末期になっても一定の販売台数を確保していた。2019年は量販車種「インプレッサ」(「XV含む」)、SUV「フォレスター」に次ぐ、年間1万2718台(2019年)を販売している。

ミニバンとSUVが台頭

とはいえ、レヴォーグが属する「ステーションワゴン」というカテゴリーは衰退の一途をたどっている。初代レガシィが登場した1980年代後半から1990年代にかけては、トヨタ「カルディナ」、日産「アベニール」、ホンダ「アコード・ワゴン」など数多くのステーションワゴンが登場。広い荷室と、高い走行性能の両立が多くのファミリー層に受け入れられた。

しかし、1990年代半ばから「ミニバン」が登場したことで、ステーションワゴンの売れ行きは徐々に落ち始める。全高が長いミニバンは車室空間が広いほか、多人数乗車もしやすい。ワゴンにない価値を訴求することで、ファミリーカーとしての地位を確立していった。

近年はかっこよさと実用性を兼ね備えたSUVも人気を博しており、こうした車種がステーションワゴンのユーザーを侵食した。日本自動車販売協会連合によると2015年に約34万台あったステーションワゴンの販売台数は、2019年に約23万台に減少するなど、各社ともラインナップを絞り込んでいる。

スバルでも「フォレスター」や「XV」など主力SUVの売れ行きは堅調だ。にもかかわらず、ジャンル自体が下火となりつつあるステーションワゴンに、スバル初となる最新技術をこれでもかと詰め込んだのはなぜか。

理由の1つはスバルが重視する「安全」を表現しやすいということだ。同社は「走りを極めれば安全になる」というポリシーを掲げており、走行性能の高さが安全の確保に欠かせないと主張する。ステーションワゴンはミニバンやSUVに比べて車高が低い。競合との差別化を図るうえでも、ステーションワゴンという走行安定性が高い低重心のカテゴリーに力を入れている面はあるだろう。


新型レヴォーグに搭載する新開発の1.8L直噴ターボエンジン(写真:SUBARU

さらに、スバル独自の水平対向エンジンを強く生かせるカテゴリーということも大きい。通常のエンジンはシリンダーと呼ばれる機構が原則として縦や斜め方向に配置されているが、水平対向はその名のとおり横方向にシリンダーが配置されている。エンジンの重心も低くなり、車高が低いステーションワゴンとの親和性は高い。

国内メーカーがステーションワゴンに力を入れなくなり競合車種が少なくなったことも追い風だ。人気は下火でも、一定の購入層がいるカテゴリーで最新技術を結集した車を打ち出すことで、スバルのような小規模メーカーでも独自性を強く打ち出すことができると判断したようだ。

ハイブリッドの設定はなし

今回の新型レヴォーグは、新開発の1.8L直噴ターボエンジンを採用した一方で、バッテリーを組み合わせたハイブリッドの設定はなかった。

スバルは2030年までに販売する車の40%を電動車とする目標も掲げている。その中で旗艦車種のレヴォーグにハイブリッドの設定がなかったことについて、中村社長は「車のキャラクター付けを考え、電動車の割合を判断していく。全部が全部ハイブリッド化するわけではない」と強調する。

スバルが最新技術を結集させた新型レヴォーグは国内販売の救世主となれるか。発売が本格化する年末から第4四半期(2021年1〜3月期)にかけてのレヴォーグ販売動向が、スバルの国内販売の回復を見定める大きなポイントになりそうだ。