本田圭佑がカンピオナート・ブラジレイロ(ブラジル全国リーグ)で初ゴールを挙げた。本田は11日、スポルチ・レシフェ戦にキャプテンマークを腕に先発で出場。そのまま90分間をプレーした。それはブラジルに来て以来の本田のベストマッチと言ってもいいものだった。チームも2−1で勝利を挙げた

 この日、本田が活躍したのは、いくつかの条件が重なったからであると私は思う。


スポルチ・レシフェ戦で先制ゴールを決めるなど、活躍が脚光を浴びる本田圭佑(ボタフォゴ)photo by AFLO

 まず、なによりも一番大きかったのは監督の交代だ。今年2月、パウロ・アウトゥオリがボタフォゴの監督に就任したと聞いた時、これは本田にとってグッドニュースだと思った。アウトゥオリは日本のサッカーを知っている。日本人のメンタリティも知っている。日本語も多少はわかるし、英語で意思の疎通もできる。そして何より本田を知っている。

 しかし、それはどうやら思い違いだったようだ。アウトゥオリは本田をエース扱いしなかった。アウトゥオリは34歳の本田を、その経験の豊かさからリスペクトはしていたが、期待はしていなかった。彼のフィジカルも信じておらず、だから消耗の少ないボランチとしてプレーさせ、それも90分使うことは少なかった。

 たぶん本田もアウトゥオリに期待していたことだろう。しかし、すっかり当てが外れてしまった。ポジションは自分本来のものよりかなり後方を指示され、フルタイムプレーもさせてもらえない。本田はアウトゥオリに怒りにも近い不信感を持っていたのではないだろうか。実際、2人の間にほとんど親しい会話はなかったと、本田に近いスタッフは言っている。確かに数カ月も同じチームにいながら、本田とアウトゥオリが並んでいる写真は一枚も出回らなかった。

 アウトゥオリは、他のブラジル人監督に比べると難しい性格をしている。ブラジルの監督は多くはオープンで、選手とのコミュニケーションもよくとるが、アウトゥオリはあまりそういうことはしない。おまけにとてもプライドが高く、そのために何度かチーム幹部らと問題を起こしてきた。

 彼自身は、使われる立場の監督ではなく、使う側のチームマネージャーに方向転換をしたい考えだが、ボタフォゴに来る前にスポーツディレクターをしていたサントスでは、やはり経営陣やホルヘ・サンパオリ監督と問題を起こして辞めさせられている。ボタフォゴでは1年間監督を務めた後にテクニカルマネージャーに就任する契約だったが、それも待たずに彼自身から10月1日に辞任を申し出た。

 ボタフォゴは最下位に近い状態だったが、「それは自分の手腕というよりも、チーム自身がそのレベルにないからだ」とアウトゥオリは判断したのだ。一方、ボタフォゴも結果を出せないアウトゥオリをどうにかしたかったが、なにせ金がないので契約途中に自分たちから解任はできない。その矢先にアウトゥオリのほうから辞任を申し出てくれたのである。

 アウトゥオリの後任となったブルーノ・ラザロニ監督は、アウトゥオリが監督に就任するまではボタフォゴのユースの監督を務め、その後もチームに残っていた。ボタフォゴには新しい監督を雇う資金はないため、彼を監督に昇格させた。余談だが、彼の父のセバスティアン・ラザロニはかつて横浜F・マリノスを率いた経験がある。

◆「横浜FMのチアリーダーたち」>>

 40歳の新米監督は、本田を大事に扱っている。これまでずっとチームにいるので、本田のこともよくわかっている。「彼ほどのプロはいない。練習には、いつも最初にやってきて最後に帰る」と、高く評価している。

 ラザロニが本田のポジションを、中盤の前より、いわゆる背番号8の位置にしたことも大きかったろう。本田は左右を自由に動くことができた。また、難しい戦術を駆使するアウトゥオリに比べ、戦術より選手の特徴を生かしたラザロニのサッカーは非常にシンプルだ。入り組んだ戦術を説明するには、言葉の理解度が必要だが、それも必要ない。監督交代により、本田のモチベーションが高くなったことは明らかだろう。

 本田にとっていいことはまだ続く。ラザロニが監督に就任したのと同じタイミングで、トゥーリオ・ルストーザがチームマネージャーに就任している。彼はかつてのボタフォゴの選手だが、2005年から2シーズン、大分トリニータでプレーした経験を持つ。日本を知る人間がまた近くにいることは心強いだろう。

 スポルチ・レシフェ戦の本田はフィジカルの強さもみせ、いつも以上にスピードも速かった。ケガで数試合を欠場していたため、十分な休息が取れ、体調面も万全だったのではないかと思う。

 本田は27本のパスを出した。これはMFとしてはそう多くない数だが、うち24本は有効なパスであり、そのうちの5本のパスはゴールチャンスにつながっている。そして前半29分にゴールを決めたことは、なにより本田の力になったであろう。その後の動きはそれまで以上によくなった。よくボールをもらい、75分にはもう一度ゴールに近づいている。

 また、このスポルチ・レチフェ戦の前に、エジムンド(浦和レッズなどでプレーした元ブラジル代表)が本田のことを酷評した。彼はテレビの解説で「本田と(ソロモン・)カルーはボタフォゴに何ももたらしていない」と言い放ったのだ。本田はそのコメントを聞いて、ひそかにリベンジを誓っていたのかもしれない。

 しかし、すべてはこれからだ。カンピオナート・ブラジレイロはまだ先が長い。本田はスター選手としてリオに降り立ったものの、コロナ禍で試合の中断、アウトゥオリのもとでの低調と、これまで多くの困難に遭遇してきた。その本田がついに真価を発揮してくれるのか。ボタフォゴサポーターは期待している。