アフリカ南部に位置するボツワナ共和国政府が2020年9月21日に、同年5月ごろに発生した象の大量死についての調査結果を発表しました。当局の調べでは、象が相次いで死亡したのは密猟などの人為的な行為が原因ではなく自然現象によるものだったと断定されましたが、一部からは懐疑的な声も上がっています。

Botswana says cyanobacteria caused elephant deaths in the hundreds - CNN

https://edition.cnn.com/2020/09/21/africa/botswana-elephant-deaths-intl/index.html

Botswana says toxins in water killed hundreds of elephants | Reuters

https://www.reuters.com/article/us-botswana-elephants/botswana-says-cyanobacteria-cause-of-mysterious-elephant-deaths-idUKKCN26C0WA

356 Elephants Dropped Dead. Did This Bacteria Poison Them? - The New York Times

https://www.nytimes.com/2020/09/23/science/dead-elephants-botswana.html

ボツワナ政府は2020年7月に、同年5月上旬から6月下旬にかけて象が不審死しているのが相次いで見つかっていたことを発表しました。分かっているだけでも合計356頭の象が死んだ原因は当初不明でしたが、「象の死骸の約70%が水飲み場付近で発見されている」ことが指摘されていました。

謎の「象の大量死」が続く、確認された死骸は350頭超 - GIGAZINE



ボツワナ野生動物・国立公園局のシリル・タオロ副局長は9月21日の会見で、象の死骸には銃創や牙を切除して持ち去った形跡が見られなかったことを指摘し、象が密猟で死んだとの仮説を否定。象の死は人間が関与したものではないとの見方を示しました。

また、会見に同席した野生動物・国立公園局の主任獣医師であるムマディ・ルーベン氏は、死んだ象の血液から神経毒が検出されたことや、水辺が乾燥する時期である6月下旬頃から象の不審死が発生しなくなったことなどから、「象の死因は水辺で繁殖したシアノバクテリアの一種による水質汚染です」と報告しました。シアノバクテリアは、海や陸上の淡水などに広く分布し、光合成を行う単細胞生物です。

科学者らは、自然界に当たり前のように存在している微生物が、巨大な象を大量死させるほどの毒素を生み出したのは、気候変動が引き金になっていると考えています。気候変動に関する政府間パネルの調査によると、南アフリカの気温は世界平均の2倍のペースで上昇しているとのこと。

また、メリーランド大学環境科学センターのパトリシア・グリバート教授は、ロイター通信に対し「条件がそろうと、ある種のシアノバクテリアは増殖します。広い地域で頻繁にシアノバクテリアが増殖する条件がそろうようになったことに伴い、世界中で有害な藻類ブルームの発生が見られるようになりました」と述べて、気温や水温の上昇が有害なバクテリアの増殖を誘発していることを示唆しました。

しかし、シアノバクテリアを死因とする見方には不明な点も残されています。ルーベン氏は会見で、「なぜ象だけが影響を受けたのかは依然として不明です」と発言。象を専門とする保全生物学者のキース・リンゼイ氏も、アメリカのテレビ局であるCNNの取材に対し、「水辺に入っている何かが原因なら、一体なぜ象だけが被害を受けたのでしょうか?」と述べています。

象だけが死んだ理由について、南アフリカにあるプレトリア大学のロイ・ベンギス氏は、「毒素に対する耐性は、動物の種ごとに異なるので、象が特定の神経毒にとりわけ敏感だった可能性があります。また、象は1日に40ガロン(約150リットル)もの水を飲むので、小型の動物より大量に毒素を摂取することになるほか、象には泥の中を転げ回ったり泥を体に塗ったりする習性もあるので、皮膚から神経毒が吸収されたおそれもあります」と説明しました。



一方、リンゼイ氏は「象にあって他の動物にはない習性として、農地に作物を探しに行くという行動が挙げられます。もし農業者が毒をまいたら、あらゆる年齢の象がその毒を摂取した状態で水場に戻るでしょう。いずれにせよ、ボツワナ政府は研究者コミュニティに非協力的だったので、実際に象の身になにが起きたのかを知る機会は失われました」と述べて、象が人間の手によって死亡した可能性が残っていると主張しました。

また、アメリカの日刊紙ニューヨーク・タイムズによると、ボツワナ当局は今回の調査結果を出した研究機関を伏せているほか、シアノバクテリアの具体的な種類などの詳細情報も公表していないため、一部からは批判の声も出ているとのことです。

ボツワナより小規模ですが、隣国のジンバブエでも象25頭の不審死が報告されています。ジンバブエで象の調査を行った野生動物保護団体Victoria Falls Wildlife Trustのクリス・フォギン氏は、「我々もシアノバクテリアが死因である可能性を検討しましたが、少なくともジンバブエではシアノバクテリアが死因であるという証拠はありませんでした」と話しました。

フォギン氏によると、ジンバブエ政府は現地で採取されたサンプルをイギリスに送付したほか、さらに別の2カ国に調査を依頼する手続きを進めているとのことです。