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アメリカ車のプレミアムEV対決勃発

text:Kenji Momota(桃田健史)

本当にこれで良いのか?

ハイパワー、ハイトルク、超加速、それに伴う大型電池の採用。

フォード・マスタング・マッハE    フォード

相次ぐハイパフォーマンス系EV(電気自動車)の登場に対して、ある種の違和感を持っている人は、日本のみならず、世界各国に大勢いると思う。

例えば、ゼネラルモーターズ(GM)のGMC「ハマー」

米時間の今年(2020年)7月29日、同社のプレス向けサイトに動画を公開し、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で遅れていた発表時期が今秋であることを明らかにした。

ボディ形状として、旧ハマーの「H2」や「H3」を彷彿させるSUV形状と、SUVとピックアップトラックを融合したSUTの2種類があることが分かった。

最大出力は1000ps、0-97km/h加速が3秒台という動力性能を強調した。

フォードは「マスタング・マッハE」の予約販売を開始。最上グレードのAWD車は346ps、0-97km/h加速は5秒以下。

また、ワンオフモデルとして「マッハコブラジェット1400」を公開。7基のモーターを搭載し最大出力1400psとした。

プロモーション動画では、NASCARマシンや、ケン・ブロックのドリフトマシンなどと競演し、EVならではの加速や動きを存分に披露した。

なぜ、EVなのに、GMもフォードもこうしたハイパフォーマンス性能を主張しなければならないのか?

それぞれにベンチマークモデルが存在

GMCハマーも、マスタング・マッハEも、こうした商品性としたのは、EV市場でベンチマークが存在するからだ。

当然、筆頭はテスラだ。

テスラ・モデルS    AUTOCAR UK編集部

テスラは大手自動車メーカーがまったく想定していなかった、高い動力性能を持つプレミアムEVという市場を開発した。

車体を含めて自社開発した「モデルS」を皮切りにモデルラインナップを拡充。ついに時価総額でトヨタを抜くまでに成長した。

テスラをベンチマークとしたのは、GMCハマーやフォードより、ポルシェの方が先だ。

フォルクスワーゲングループの中期経営計画として、2016年からEVシフトを推進する中、「ミッションE(量産車名称タイカン)」が生まれた。すでにタイカンは日本での販売も始まっている。

このポルシェが、急速充電で新たなるベンチマークとなった。

充電の出力を350kWに設定して商品企画がスタートした。これまで、直流による急速充電では、日本が主導するCHAdeMOが30-50kWで使用されてきた。テスラは自社規格で120kW(CHAdeMO協議会調べ)である。

対するポルシェは大出力化で、充電時間を一気に短縮する戦略に出た。

それに伴い、充電ケーブルの耐久性と安全性を考慮し、電流を下げる目的で電圧を800V化するという考え方もポルシェがベンチマークとなった。

日産「アリア」もトレンドを追った?

テスラ、さらにポルシェをベンチマークとする、プレミアムEV。

当然、日産が満を持して発表した「アリア」も、こうしたトレンドを強く意識している。

日産アリア    日産

第一に、外観デザイン。いかにも、プレミアムEVである。

第二に、AWD。日産お得意のマーケティング用語として、e-4ORCEと名付けた。

第三に、加速性能。0-100km/h加速は最上位グレードで5.1秒。

第四に、大出力の急速充電。CHAdeMOでの150kW充電器で、130kW充電を想定した充電時間を公表した。

注目は価格だ。

エントリーモデルの実質的な購入価格は約500万円見込み、という表現だ。つまり、国や地方自治体からの環境車対応の購入補助金などを想定しており、車両価格は600万円程度になるだろう。

こうした価格設定は、直接的なライバルになる、テスラの各モデルや、マスタング・マッハEをベンチマークとしていることは間違いない。

ただし、このようなベンチマークに対する商品開発はガソリン車と変わらず「EVならでは」という発想が見えてこない。

これがプレミアムEV市場の現実だ、と思えば良いのかもしれない。

だが、EVという次世代の乗り物を考える上で、疑問が残る。

いわゆる、EV三重苦という言い回しがある。

航続距離が短い、充電時間が長い、価格が高い、という3要素だ……。

EV三重苦 解決するために2つの流れ

技術者はこれまで、EV三重苦を解決するため様々な開発を進めてきた。

その結果、EVには大きく2つの流れができた。

ホンダe    AUTOCAR UK編集部

1つは、これまで紹介してきたプレミアムEVだ。

航続距離を稼ぐため、電池容量を大きくした。そうなると充電時間が長くなるため、充電器の出力を上げた。価格について、プレミアムという商品カテゴリーとすることで吸収した。

もう1つが、電池容量を抑え価格を抑えた、シティコミューターとしてのEVだ。

商品の幅は広く、小さいものではトヨタが今年後半に発売する超小型車。中小型になると、ホンダ「e」、マツダ「MX-30(EV版)」、さらに「リーフ」(ノーマル)も含まれると思う。

本来EVは、ガソリン車/ディーゼル車の代替という発想ではないはずだ。

コネクティビティ技術を活用し、効率的な移動と充電を計画的に行い、環境負荷を下げる。そうした観点で訴求されてきたはずだ。

ところが、現時点でEV市場をけん引しているのは、ガソリン車の代替的イメージが強いプレミアムEV。

一方、シティコミューター的イメージが強い、中小型EVの普及の方向性は、未だ不透明だと言わざるを得ない。なぜならば、ユーザーが生活における移動の考え方を変える必要からだ。

まさに「新しい生活様式」という発想だ。

そんな時代は本当にやって来るのだろうか?