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コロナ禍で例年のようなレジャーや遠出が難しい昨今。在宅勤務を続ける会社もあり、家にいる人数と時間はいつもより増え、必然的に家事も増える……。つい、イライラする人もいるのでは。筆者もその1人だ。そこでこの時期を「家での過ごし方を見直す機会」と捉えて、家族で家事シェアについて考えてみてはいかが。筆者も実践してみた。

コロナ禍であらわになった、夫婦間や家庭内の問題

まず、家族が仲良くなければ、家事シェアは成り立たない。コロナ禍で気をつけるべき家庭内のストレスについて、社会心理学や精神保健福祉を専門とする大手前大学准教授の武藤麻美先生に聞いた。

夫婦ともに自宅にいる時間が増加したコロナ禍では、「コロナ離婚」や「コロナDV」といった問題もメディアで取り上げられていますが……。

「『コロナ離婚』について先に注意しておきたいことは、コロナはあくまできっかけであって、これが原因で離婚になるのではないということです。何らかの形ですでに存在していた夫婦間の問題が、在宅勤務の増加や休校、外出自粛などによって浮き彫りになってきたと考えられます」

ドキリとするお話だ。そして、この「夫婦間の問題」があらわになった原因として、次の2点が考えられるという。

「1点目は、在宅勤務が増えたことで、夫婦によっては家事シェアの配分がもともと対等でなくうまくバランスが取れていなかったところに、さらに片方に家事の負担が集中し、精神的な不満や体力的な限界などの問題が深刻化したという点です。特に共働き家庭の女性においては、家事と仕事 (テレワーク) のほかに、休校で子どもが日中も家にいることから増えた育児や、場合によっては夫の分の食事づくりなどまで行うことになり、いっそう負担がかかることになりがちです。ここで以前から夫婦でよく話し合っていて、家事のシェア配分が対等であったり、うまくバランスが取れていたりするカップルは、基本的にはそう大きく関係性が変わらず、逆に互いに補い合って、不安や緊張をほぐし合うことも可能です。

2点目は、各自がパーソナルスペース (心理的な縄張り) を思うように確保できないことから、フラストレーションがたまっていることが挙げられます。例えば、テレワークを行う自分専用の部屋やスペースがないことや、オンとオフの切り替えがうまくできないこと、周囲の音が気になって仕事に集中できないといったことなどから、男女ともに在宅勤務によるストレスを感じてしまうということが考えられます。

大手前大学現代社会学部心理学専攻准教授、武藤麻美先生。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。博士 (人間科学)。専門は社会心理学と精神保健福祉。公認心理師や精神保健福祉士、社会福祉士の国家資格も持つ(写真提供/武藤先生)

コロナ禍以前は、共働きまたは片働きをしていたことで、夫婦が子どもも含め、自然に適度な心理的距離を取ることができていました。日中は別々の空間や時間を過ごし、自分のペースやリズムを確保し、精神的な安定やバランスを取ることができました。しかし、コロナの問題により、急激な生活環境の変化が起きて、一つの場所・環境を皆で共有せざるを得なくなりました。各自がパーソナルスペースを確保できず、時間のリズムも狂うことになり、フラストレーションがたまって、喧嘩などを引き起こしてしまうのではないでしょうか」

(写真/PIXTA)

「Iメッセージ」で素直な気持ちを伝えよう

では、家事の負担が家庭内で偏りがちな場合、バランスを取り直すにはどんな心がけが必要なのだろう。

「テレワークが増えたことで、家庭内の家事シェアのあり方を再考する機会にもなるのでは。これを機に、今後の家事・育児のシェアの配分について話し合うことも対策となるでしょう。これは夫婦だけでなく、子どもも良い意味で巻き込み、話し合うといいと思います」と武藤先生。

家族間での話し合いにあたり、ポイントを教えていただいた。

「自分の考えや意見を伝える際には、YOUメッセージではなくIメッセージを使用するといいですね。 『あなたは〜をしてくれない!』と伝えるのではなく、『私は〜をしてくれたらうれしい』『私は〜を協力してくれたらすごく助かる』などと伝えると、相手が受け取る印象も大きく変わります。もちろん、パートナーだけでなくほかの家族、子どもに対しても、自分の考えや意見を伝える際に応用できますので、実践してみてください」

相手への非難や攻撃的な言い方になってしまいがちなYOUメッセージに対して、Iメッセージでは発信者目線の素直な気持ちを伝えることができるのだ。

「また、例えば子どもがお手伝いをしてくれた場合に、感謝を伝えるなどのポジティブな声かけを積極的に行うことで、子どもは自分の行動が人の役に立ち、喜んでもらえるという貴重な体験をすることになります。これは自己肯定感(自分のあり方や存在意義を肯定する感情)や自己効力感(ある状況下で自分は必要な行動がうまくできるという予期や自信)を育むことにも繋がりますから、ぜひお子さんとコミュニケーションを取りながら、家事シェアをされるといいのでは」

普段からよく手伝いをしてくれる、筆者の10歳の娘。娘専用のスポンジを買い、久しぶりに並んで洗い物をしてみたら、「家事シェアって楽しいね」とご機嫌に(写真撮影/倉畑桐子)

ほかにも、コロナ禍で長くなる家族の時間を心地よくするために、大切な考え方や取り組みを聞いてみた。

「家族全員におすすめのリフレッシュ対策としては、少しでもいいので、各々が自分の空間と時間を確保することです。例えば、一つの部屋に皆でとどまり過ぎないことや、時間を決めてリビングやダイニングに集まり、そのほかは自分の部屋で過ごしたり、社会的距離を保ったうえでの散歩や買い出し、ベランダやバルコニーで日光に当たること、目を閉じてゆっくり深呼吸する時間を設けることなどが効果的です。また、イヤフォンをして音楽を聴いたり映画やドラマを見たりして、自分だけの世界を確保することも効果があると考えられます」

「現状のコロナ禍に、家族間でよく話し合う姿勢を身につけることができれば、より良いパートナシップの構築につながるはずです。また、きちんと説明してあげるのであれば、テレワークは、子どもにとっては親が日ごろどのような仕事をしているのかを間近で見ることができる好機ともいえます。そして、親が家族のためにどのような家事をしているのかも、一緒に経験できる貴重な機会といえるでしょう」

コロナ禍での家庭内の問題は、家事シェアで家の中を快適にすることでカバーできる面も多いのかもしれない。

まずは家事の全体像を見せて「相談」を

具体的な家事シェアの方法を、「知的家事プロデューサー」として、妻と夫、それぞれの立場からの意見を聞くことも多い本間朝子先生に取材した。

「ウィズコロナで、家族が長時間家にいるので、家は汚れるし料理の回数は多くなり、家事は増えますよね。一方で、みんなが家にいることで『自然と家事シェアが進んでいる』という話も聞きます。『在宅ワークになった夫が家の中のことに興味を持った』という話や、『給付金で家の中を過ごしやすくプチリフォームをした』というも聞くので、今は家族で家事シェアがしやすい状況だとも言えます」

確かに、ステイホーム中に家族で大掃除をした家も多いはず。

自身が仕事と家事の両立に苦労した経験から、時間と無駄な労力を省く家事メソッド「知的家事」を考案。TVや雑誌、セミナーや著書を通じて、時短家事のアイデアを伝えている本間朝子先生(写真提供/本間先生)

「とはいえ、いきなり大きく家事の割合を変えるのは難しいかもしれません。そんなときは掃除や洗濯、食事の支度といった家事以外に、ストレスの元となる『名もなき家事』の解決策から始めてもいいですね。『名もなき家事』は大和ハウス工業さんが名付けたものですが、例えば、話を聞いていると『僕はゴミ捨てを担当している』と言いつつ、すでにゴミをまとめたゴミ袋を回収場所まで運ぶだけしかしていない夫が多くいます。でも担当するなら、各部屋にあるゴミを集めて、空になったゴミ箱に袋をかけるところまでやってください。『捨てに行く』のはゴミ捨てのほんの一部です」

本間先生はこれまでも、「家事を積極的にやる意思があるか」「基本的なスキルを持っているのかどうか」など、パートナーの資質を見極めて、名もなき家事の負担を軽減するよう提案している。

「年代によって、パートナーがどのカテゴリーに当てはまるかによっても状況が変わってきます。現在30代半ばくらいのミレニアル世代であれば、共働きは当たり前に考えていて、家事シェアも自然にできているケースも多いのです」

ここはミレニアル世代以上に向けたお話をお聞きすることに。

本間先生が制作した「家事シェアリスト」を見せてもらった。これは最初の家事シェア会議にオススメだ。

家庭ごとに項目をカスタマイズしてつくってみたい「家事シェアリスト」の例。家事の全体像をお互いに把握し、歩み寄って、理想の割合に近づけていく(画像提供/本間先生)

「特に男性は家事の全体像が見えていないことが多いので、全体像を見せるということが大切です。現状、女性の方が家事の比重が多いのであれば、今お互いが担当している家事を書き出して『こんな風に、自分の方が多くて辛い』と現実の姿を見せること。セミナーの参加者さんに聞くと、男性は7対3の3くらい家事ができていると思っているけれど、女性に聞くと9対1で自分が9だという話をよく聞きます。それを5対5にするのはパートナーも抵抗があるかもしれませんが、8対2や7対3の割合にできたら自分がラクになりますよね」

「多くの男性は、女性に喜んでほしいと思っています。また、褒められる機会が少ないので、女性が思う以上に、褒められたり、感謝されたりすることに喜びを感じます」と本間先生。だから、例えばパートナーの男性が掃除してくれたなら「すごくキレイになったね!」「ありがとう!」などと伝えるといいそう。

そして本間先生は、男性からの意見として、「家事を褒める以前に怒らないで」という声があると話す。
「男性は、せっかく取り組んだ家事を見て、女性からがっかりされると傷つきます。また、そばで見ていられると監視されるような気分になる人もいます。だから『買い物に行ってくるから、その間にここを掃除しておいて』などと任せると、『出かけている間にキレイにしてやろう』と張り切ってくれる人も多いですよ」とのこと。

料理の時短ができ、掃除がしやすい道具の配置になっている本間先生宅のキッチン。道具の置き場所を家族と話し合って決めているため、シェアしやすい(写真提供/本間先生)

本間先生宅の冷蔵庫の脇にはスプレーモップが。「キッチンの床が汚れたらひと拭き。ボトルから水が出るので、夫も水鉄砲感覚で楽しみながら床掃除をしてくれます」という。家族のテンションが上がる道具を用意することも大事(写真提供/本間先生)

筆者の家でも、娘が掃除しているといつも乱入する息子用に、キャラクター付きのフロアモップを購入したところ、張り切った(写真撮影/倉畑桐子)

家族への思いやりを家事シェアの前提に

本間先生のセミナーでは、グループワークで参加者と家事アイデアを共有している。
パートナーとの家事シェアで気をつける点として、以下のことを挙げてくれた。

・「なぜやらないの?」のYOUメッセージではなく、「私はこうしてほしい」のIメッセージで(前出の武藤先生のお話と同様)
・家事のやり方を直してほしいときは、「やり方が違う」ではなく「惜しい!」と伝える。そのあとに「こうしてくれたら、次は120点」などと明るく足りない点を伝える
・ケンカの元を避けるため、自分のこだわりがある家事は相手に頼まない
・素直に褒め言葉や感謝の気持ちが言えないときは、「ナイスサポート!」などの声掛けから始める

疲れていたり自分の心に余裕がなかったりして、感謝の言葉を口に出せないときでも、スポーツの「ナイスボール!」の感覚なら相手に伝えられそう。どれも子どもに対しても応用できそうだ。

「ただそれらも、パートナーがテレワークになるなどで、家事シェアがしやすい環境であることが前提です。そもそもハードな仕事であるとか、帰宅が遅い、単身赴任をしているなど、家事への参加が難しいケースもあると思います。また、家事スキルが低いパートナーもいます。その場合は『今のままでは大変だから、便利な家電やキットを取り入れたい』と相談してみては」

自動調理の電気鍋やロボット掃除機、食材とレシピがセットで配達されるミールキットなども、家事をかなり助けてくれるので検討しよう。

また、「共働きにも色々な状況があるので、踏まえておきたいことがあります」と本間先生。

「どちらかが家計を、半々ではなくメインで支えているという場合、やはり重責は一家の大黒柱の方にかかってきます。仕事でプレッシャーを抱えて働いてきた人たちが、『帰ってすぐに家事をするというのは辛く感じる』という声も耳にします。共働き=家事を半々ではなく、お互いが歩み寄り、納得いく形にするということが大切。家事シェア表もそのためにあるので、『自分はこれだけやっている!』と主張するのではなく、『今はこうだけど、もう少しこうできない?』と相談から始めてください」

子どもたちの自立と、未来のパートナーのためにも

次に、子どもやパートナーと一緒に取り組む家事シェアのアイデアと、子どもの年代によってオススメの家事をご紹介。「子どもと家事シェアすることは、本人の自立のためでもあるし、その子の未来のパートナーのためにもなります」と本間先生。

「給食当番表のような家事当番表をつくってローテーションをすると、家族で飽きずに家事シェアできますよ。頑張った人には特典があったり、1週間の家事が済んだらみんなにご褒美を用意したりするのも楽しいと思います。子どもには最初は教える必要があるので、やはり大変ですが、だんだん任せる範囲を広げていき、家庭内でやりやすいような形に合わせていってください」

ネット上のアイデアを参考につくった我が家の家事当番表。「弟も読めるように」と、娘がひらがなで家事の内容を書いた。子どもたちはまだ全部はできないので、「当番の週は親のサポート」でもOKに(写真撮影/倉畑桐子)

家事シェアのアイデア

1)家事の候補を提示し、選択してもらう
「これをやって」ではなく、「洗濯物を干すのと洗うのではどちらがいい?」のように選んでもらうと、「自分はラクな方を選んだからいいか」「1/2個ならやろう」と納得してくれるもの。

2)制限時間を伝える
「4時までに床を拭いておいて」のように時間を伝えると、相手も自分の好きなタイミングで取りかかることができる。本間先生より、「相手がすぐ取り掛かってくれると思うのは間違い」とのこと。また、制限時間を過ぎたときには注意もしやすい。

3)肩書き制度を導入
子どもに「洗濯マイスター」「秘書さん」(パートナーには「チャーハンの匠」)などの肩書きを与えることで、本人もノリノリで家事に参加できる。肩書きのおかげでお願いもしやすくなります」と本間先生。

夏場は大量になりやすい、ペットボトルのラベルを剥がす作業。姉弟に「どっちが早いか競争。用意、スタート!」と声を掛けると、あっという間に終わった(写真撮影/倉畑桐子)

未就学児にオススメの家事

・箸を並べる
・食器を選ぶ
・料理の盛り付けの手伝い
・タオルをたたむ
・植物の水やり
・フロアモップで拭き掃除をする
・ペットボトルのラベルを剥がす

小学生からオススメの家事

・テーブルを拭く
・配膳の手伝い
・水出し麦茶をつくる
・料理のサポート
・ご飯を炊いて味噌汁をつくる
・使った食器を食洗機に入れる
・食器を洗う
・洗濯物を畳んで仕舞う
・床や窓を拭く
・自動掃除機が通る場所を片付ける
・ゴミ箱からゴミを集め、新しいゴミ袋をかける
・スプレーするだけの洗剤を使ってお風呂の浴槽洗い

タオルを畳む息子。バスタオルはまだ荷が重いのか、「小さいのだけ」と言ってカゴから選び、予想より丁寧に畳んだ(写真撮影/倉畑桐子)

「子どもに好きなスポンジを選んでもらい、親子で一緒に食器洗いをしてもいいですね。並んで家事をするとコミュニケーションの時間にもなります。未就学児なら、割れない食器を子どもの手が届くところに配置するなど、家事シェアしやすい環境づくりも大切です。いきなり難度が高い家事をシェアするとトラブルの元なので、本人ができることや、得意なことから始めましょう」

家族でホットプレートを使って料理するのもオススメだという。
「普段はお好み焼きなどをつくることが多いと思いますが、チャーハンや野菜炒めもホットプレートでつくりましょう。そこから、パートナーや子どもがキッチンでもつくりやすい流れができます」

3歳によるダイナミックなホットケーキづくり。生地を混ぜてホットプレートに落とすところまで自分でできた(写真撮影/倉畑桐子)

前出の「家事シェア表」を子どもに見せるのも効果的だそう。
「子どもにも全体像を把握してもらうことで、『家族の健康のために、大人はこれだけのことをしてくれている』、『これから自分はこの部分に貢献するんだな』という意識を持ってもらう。これは、ウィズコロナの今だからこそ、より必要なことだと思います」

また、「家事シェア以前に、できるだけ家事を減らすことも考えてみてください」と本間先生。「その家事は必要なのか、みんなの取り組みで減らせないのかと見直すことも大切です。家事シェアの方法も、日々の中で少しずつ振り分けていくのか、週末に家族全員で取り組むのか、自分のことは自分で担当するのか。どのやり方が合うのかを模索しながら、家族に合う方法を見つけてください」とのことだ。

ホットケーキと一緒にソーセージも焼いて、ラクして楽しいランチに。ホットプレートは今後も家事シェアに活用していきたい(写真撮影/倉畑桐子)

「ゴール設定が家事シェアではないですよね」と本間先生はにこやかに話した。そう、ゴールは家族が健康で楽しく、仲良く暮らすことだ。

2人の先生に共通して教わったのは、コロナ禍は家事シェアのタイミングでもあるということ。これを機に家族が一丸のチームとして「一緒に乗り越えよう!」という気持ちになることで、絆はより深まるはず。

私と子どもが「家事当番表」をつくっていたら、夫はスッと立って食器を洗い始めた。普段からシーツを洗って干すなど大物の家事を担当してくれるが、これを機に「名もなき家事」にも目を向けてくれるとよりうれしい。

今回、「あれもこれも自分でやらなくては」という思い込みを手放すと、思ったより家事シェアが進むことに気がついた。そこには、孤独な家事の反対側にある、家族と一緒に取り組む楽しさが、もれなくついてきた。

●取材協力
武藤麻美先生 大手前大学
・本間朝子先生
(倉畑 桐子)