現在、さまざまな市場のApp Storeランキングでトップに位置するアプリ、Triller(トリラー)。インスタグラムのリール(Reels)やByte(バイト:6秒動画「Vine」の後継アプリ)と同じく、反TikTok感情の波に乗る、動画を基本とするソーシャルアプリのひとつです。8月1日、トランプ米大統領が中国発の動画アプリ、TikTokの利用を禁止する意向を公言して以来、Trillerは宣伝攻勢に出ています。同社の共同オーナーで映画プロデューサーのライアン・カヴァノー氏はTrillerを「TikTokの大人版」と公言するなど、ライバルとの違いを盛んにアピール。さらには、米国、UK、ブラジル、ドイツ、フランス、オーストラリアを含め50カ国のApp Storeにおいて、Trillerは8月1日現在、もっとも多くダウンロードされたアプリだったとするプレスリリースまで配信しています。 「Trillerはこの3週間、きわめてうまく立ち回っており、この3年間を上回る成果を出している」と、世界有数の大手広告代理店オグルヴィ(Ogilvy)のインフルエンス部門トップ、ラーフル・タイタス氏は説明します。「行くなら今しかないと、経営陣は覚悟を決めたのだろう――これでダメなら、伸びる見込みはないと」。Trillerへの関心がにわかに集まるなか、広告主が注目するのも時間の問題です。そこで、今回は入門編として、Trillerとは何なのか、類似アプリとどう違うのか、なぜTikTokの一番のライバルと目されているのか、いつもの一問一答シリーズで解説していきます。

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――Trillerとは、そもそも何ですか?

TikTokと同様に、Trillerは音楽(とりわけヒップホップ)が、そのエクスペリエンスの中心となっています。ユーザーが好みの曲に合わせて自らラップをするショート動画を複数テイク撮影すると、同アプリのAIがその中から最良の部分を自動でつなぎ、プロが制作したかのようなミュージックビデオに編集してくれるものです。ただ、TikTokと違うのは、Trillerがあくまで音楽中心という点であり、実際、スヌープ・ドッグ、21サヴェージ、ミーゴス[という人気ラッパー3組]が出資しています。商品というよりもむしろ、ヒップホップのファンダムに近い存在であり、マーケターが現在Trillerに大いに注目している理由もそこにあるのです。両アプリを併用する層も存在するのは確かですが、Trillerはよりエンゲージ率の高いサブセット、つまり音楽ファンにフォーカスしているといえるでしょう。

――なるほど。つまり音楽が両アプリの共通点であり、同時に相違点でもあると?

両者の戦略自体には共通点がありますが、その実行方法が異なります。Trillerはバイラル動画と音楽ストリーミングの溝を埋めることにフォーカスしており、ユーザーが好みの曲をApple MusicまたはSpotifyのプレイリストから(TikTokが15秒だけなのに対し)フルでダウンロードできるようにしています。TikTokは一方、親会社バイトダンス(ByteDance)が独自の音楽ストリーミングサービス設立を狙っているとの報道からも明らかなとおり、音楽業界の構造破壊を目論んでいるように思えます。とはいえ、両アプリの違いは曖昧になってきてもいます。Triller側はミュージックビデオプラットフォームであることに変わりはないと言い張るでしょうが、同社は先頃のアップデートにより、ユーザー自身が歌ったり踊ったりする姿を撮った風変わりな動画を共有できるようにしており、この姿勢はエンターテイメントビジネスを目指すTikTokのそれと酷似しています。今後、もしもTrillerがライバルTikTokと見分けがつかなくなった場合、この点がネックとなる可能性もありますね。「Trillerはいま現在、見かけ上は、市場に数多あるほかのアプリと変わらない」と、オグルビィのタイタス氏は指摘。「ただし、同社には成功に欠かせない確固たる基盤があり、クリエイターからハリウッドの重役まで、さまざまな有力者の金銭的後ろ盾を持っている」。

――Trillerが生まれた経緯は?

TrillerはTikTokが最近陥ったピンチを自身のチャンスへと巧みに変えたわけですが、誕生したのは2015年、ライバルが登場する2年前のことです。以来、カヴァノー氏が設立した映画スタジオ、プロクシマ・メディア(Proxima Media)から2019年に受けた多額の投資をはじめ、エンターテイメント関係者から膨大な資金を確保しています。そうしたコネクションを考えれば、TikTokと同じく、Trillerによるエンタメ業界進出の動きも理解できるでしょう。

――インフルエンサーはTrillerに関心を持っている?

Trillerとインフルエンサーコミュニティとの関係はいまだ黎明期ではありますが、2000万人超のフォロワーを誇ったジョシュ・リチャーズ氏をはじめ、TikTokスターの引き抜きに成功しており、これはTrillerの魅力が拡大中であることを裏付けています。とはいえ多くのインフルエンサーがTrillerに乗り換えた場合、オーディエンスが付いてきてくれないのではないか、との懸念があるのも事実です。つまるところ、Trillerのアクティブユーザーベースが6500万人であるのに対し、TikTokのそれは8億人と桁違いに多く、前者とは比べものにならないと、インフルエンサーマーケティングエージェンシー/TikTokのクリエイティブパートナー、タクミ(Takumi)のグループCEO、メアリー・キーン・ドーソン氏は指摘します。「使える限り、クリエイターはTikTokの利用を続けると我々は見ている――ただ同時に、バイトダンスとマイクロソフト(Microsoft)との交渉がまとまらない場合に備え、Trillerも試していくことになるだろう」と、キーン・ドーソン氏は予想しています。

――広告主にとって、大きなチャンスになる?

収入増を狙い、独自の広告ビジネスを推し進めるTikTokと違い、インフルエンサーを介して、ファンや広告主、提携関係にある音楽レーベルから資金を募る、というのがTrillerの基本的なコマーシャルモデルです。インフルエンサーマーケティングエージェンシー、ファンバイツ(Fan Bytes)CEO ティモシー・アームー氏はこう説明します。「Trillerではオーディエンスの拡大が非常に容易いし、その人気を利用して、ほかでオーディエンスをさらに拡大することもできる。Trillerで存在感を増し、そこからインスタグラムやTwitterに移行して成功を収めた例はいくつも目にしている」。Triller幹部チームがこうした利点をまとめ上げ、明確な形で広告主に売り込みをかければ、ある程度の成功は収められるでしょう。というのも、先頃のFacebook広告のボイコット運動や、少数派の多様なオーディエンスを対象にキュレートした市場が台頭している状況からも明らかなとおり、一部の広告主は自身の信頼性をはっきりと示せる、あるいは強化できるメディアパートナーとの連携に以前よりも注目しているからです。「クリエイターに、若手とベテランの別にかかわらず、コンテンツ制作で確実に収入を得られる機会を与え、同時に、彼ら個々の創造性と信念へのフォーカスを忘れない――それこそが、数々のソーシャルムーブメントが表面化している今、最高の取り合わせだ」と、デジタルエージェンシー、アイソバー(Isobar)のイノベーションディレクター、アレックス・ハミルトン氏は語ります。Trillerにとって、TikTokが米トランプ政権と衝突している今が広告主を惹き付ける好機なのは確かです。ただし、TikTokはいくつか特定の市場で資金不足に陥っている、との憶測だけを武器に、依然としてアクティブユーザー8億人という数字が頭にあるマーケター獲得に向けた戦略を立てるのは、早計と言えるでしょう。[原文:WTF is Triller?]SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:長田真)