イランの絵本、手前2冊が日本で出版されたもの(撮影:吉川忠行)

写真拡大 (全2枚)

イランの絵本が3月から7月まで月に1冊ずつ、5カ月連続で出版されている。イランは、自国の核問題や日本での不法滞在などネガティブなニュースで注目される一方、ペルシャ遺跡や絨毯(じゅうたん)など、文化レベルの高さでも有名。最近では、国際的な評価が高いとされる同国の映画が、日本で上映される機会も増えている。

 2002年11月に『イラン映画をみに行こう』を出版したブルース・インターアクションズが、同国の芸術性の高さに注目し、絵本の出版を決めた。シリーズ5冊の翻訳を担当している愛甲恵子さん(29)に、イランの絵本を通じて主張したいことなどについて聞いた。

 愛甲さんは、02年3月に東京外国語大学大学院を修了。専門はペルシャ語で、現在はイランの絵本を紹介、販売するため、不定期に原画展などを開いている。

―― 出版に関わったきっかけは?

 偶然が重なった。長野県松本市で主催した展覧会で一度会ったことのあるイラン映画コーディネーターのショーレ・ゴルパリアンさんが、出版社に紹介してくれたことがきっかけ。イランの絵本に注目した出版社から頼まれ、“たまたま”私を思い出したらしい。

 以前からイランの絵本を紹介する活動をしていて、出版社の人に初めて会ったときは自分が好きな本を推薦した。それから1カ月ぐらいして「企画を会議に通したい。通ったら、翻訳をお願いしたい」と言われた。

―― “たまたま”ですか。

 松本で展覧会を開いたのも“たまたま”。大学時代に松本出身のクラスメートから、松本のNGO「シャマーレ・アフガニスタン」の仕事を依頼された縁があった。NGOの人に、イランの絵本を紹介したい旨を伝えておいたところ、「イラン映画祭2004」に合わせて展覧会を開くことを勧められた。

 こうして運良く絵本原画展を開いたところ、映画祭にゲストとして呼ばれていたショーレさんが原画展に寄ってくれ、会場で初めて彼女と話をした。このことが、イランの絵本を出版する“夢”を実現するきっかけになった。

―― どのような絵本?

 5冊のうち3冊は、リズムのいい絵本。詩の国イランのイメージに合致していると思う。他の2冊は物語調。イランの絵本はストーリーの長いものが多い。例えば、3月に発売した『フルーツちゃん!』は、詩ではないが、詩的なリズムが心地よく、フルーツや野菜を使って動物を表現している、かわいらしい作品。

―― 翻訳で苦労したことは?

 日本語はすべてに母音がついているので、ペルシャ語の子音による軽やかなリズムを表現するのに苦労した。(4月21日に発売された)『ごきぶりねえさんどこいくの?』などは、単純で長いストーリー。ペルシャ語だと子音だけで軽く読めるものが、日本語にすると冗長で重くなる。イランの絵本は全般的に長く、英語などと同じで「誰が」「いつ」「何を」「どうした」と、日本語なら言わなくていいと思えることも全部書いてある。

―― イランの絵本を紹介したいと思ったきっかけは?

 絵本への興味は、イランとは関係がなかった。“たまたま”イランの絵本の素晴らしさに気づくきっかけがあった。

 絵本に興味を持ったのは、学生時代に、論文という表現行為に行き詰まり、イランやペルシャ語から離れようと思っていた時期。そのとき、“たまたま”『絵本をよんでみる』(五味太郎・小野明著)という本に出合った。当時は自分の言いたいことを言葉で表現できず、追い詰められていた感があった。絵と言葉を一緒に表すことで、それぞれの枠を超えていける絵本は、表現の方法として可能性があると思い、興味を持った。

 というわけで、当初は日本の絵本しか見ていなかった。しかし、(途上国の作家支援のため、ユネスコ・アジア文化センターが隔年で主催する)「野間国際絵本原画コンクール」の展覧会に“たまたま”行った時、イラン人の作品が数多く入選していると知り、驚くとともに縁を感じた。