森亮太(もり・りょうた) /杉浦医院(名古屋市昭和区)院長、NPO法人ささしまサポートセンター理事長。1970年、名古屋市生まれ。現在、名古屋市医師会理事の他、外国人医療センター理事、名古屋労災職業病研究会代表も務める。著書に『長寿大国日本と「下流老人」』(幻冬舎)(筆者撮影)

全国で新型コロナウイルスの感染が再拡大する中、陽性者の急増で心配されている名古屋市を中心とした愛知県。その現場の実態や直面している医療的、社会的な課題は何なのか。名古屋市医師会の感染症対策担当理事で、生活困窮者支援のNPO法人理事長も務める森亮太医師に聞いた。

「現場の感覚としては異常事態」

――名古屋の現状(インタビューは8月2日)についてどう見ていますか。

3月から4月にかけての第1波では、保健所がクラスターをまだ追跡できていた。しかし、7月に入ってからの陽性者の急増で、追い付かないほど市中感染が広がっているのは確かだ。現場の感覚としては異常事態だと受け止めている。

実際に軽症が多いのは事実だが、ほとんどが自宅療養で入院できていない。無症状から軽症、中等症へと刻々と変化する段階で、早急に対応できる態勢を整えなければならない。

――陽性率の高さやPCR検査の態勢不足が指摘されています。

名古屋の検査態勢は、市の衛生研究所やわれわれ医師会の検査を含めて何とか1日400〜500件。愛知県内には完全な民間のPCR検査機関がないので、検体は東京まで送って検査をしてもらっている。これが今準備中だが市内の医療組合の検査センターでできるようになり、唾液を使った検査も個々のクリニック単位でできるようになれば楽にはなる。しかし、市中感染が広がっていけば、それもすぐ足りなくなるだろう。

医師会としては、名古屋市に「もっと情報開示を」と訴え続けている。せめて市の何区のどこの施設で陽性者が発生したのかを、現場レベルに落としてもらいたい。しかし、市は医師会にも知らせてくれない方針を貫いている。

市中感染が広がっていない段階なら、「発熱や咳があるかどうか」はもちろん、「流行地域や人混みに行っていないか」「周りにコロナ感染者がいないか」などを診察の判断基準にし、これらに当てはまらなければ濃厚接触者ではないので大丈夫と言えた。しかし、いよいよそうではなくなった。少なくともこの店に行ったから検査が必要ではないかという判断基準としての情報が欲しい。本当は接触確認アプリ(COCOA)がもっと普及すればいいのだが。

――今はまだ夏だから深刻化していないという見方はできるのでしょうか。

夏だからコロナが重症化しないわけではない。むしろ、こんな真夏に熱が出る人というのは、コロナだと疑うことができる。

これから秋になって、ちょっとでも涼しくなると風邪をひく人が増えてくる。10月に入ればインフルエンザの季節で、インフルかコロナかわからない人が増えれば、クリニックでの対応は非常に厳しくなるだろう。

コロナでいちばん怖いのは、糖尿病や高血圧、心臓疾患などのリスクのある人が重症化しやすいこと。そうしたリスクのある人とコロナの患者が一緒の部屋で濃厚接触しないために、クリニックではまったく別の時間帯で診なければならないだろう。

――ハード面の整備で必要なものは。

医師会としては、今後の患者増に備えて医師会の急病センターや各区の休日診療所に陰圧テントを置けるようにしたい。患者が診療所の中に入ってしまうのではなく、外の陰圧テントの中で診療することでリスクはかなり減らせるからだ。

そのうえで、患者の血液中の白血球の数や炎症の有無を診る血液検査機器を充実させたい。白血球の数値が上がっていれば細菌性の発熱、上がっていなければウイルス性の発熱と分かるので、まずはそこを最低限のスクリーニングとして実施すれば、発熱者が増えたときに困らない。

「コロナかどうかは、抗原検査がいちばん早くわかる」

また、コロナかどうかの結果は、抗原検査がいちばん早くわかる。検査に来ても結果が1日後、2日後にしかわからなければ、その間にどんどん感染が広がってしまう。少なくとも抗原検査で陽性なら隔離など安全な措置を取り、陰性でも最終的にはPCRで検査する。そうした態勢が急病センターや休日診療所で取れなければ回していけないと市に訴えている。

検査機器などのハード自体は、それぞれお金さえ出してもらえれば手に入るもの。しかし、保険診療の改定などの制度的な問題もあるし、実際に診療に出てくるのは開業医の先生なので、人の問題もある。僕自身、今は月2回PCR検査に出向いているが、負担やリスクは常に抱えている。

――現時点でコロナを「正しく恐れる」には。

ドライブスルーのPCR検査をしながら思うのだが、タクシーに乗ったとしても、運転手と乗客がマスクをして、前後で距離を取り、窓を開けて換気していれば、仮に運転手が陽性であっても乗客の感染リスクは低い。そこで窓を締め切り、運転手と話をしながら乗っていたら濃厚接触になってしまう。

ドライブスルー検査でも、家族で来るなら検査対象の人は助手席でなく、後部座席に乗って、かつ窓は必ず開けてもらいたい。そして個々の家庭の中でも、マスクをして換気をし、接触をできるだけ避けた生活様式にしてほしい。そうすれば、仮に子どもや親がコロナであっても家庭内感染は広がらない。

國松淳和さんという内科医の先生が書いているが、手洗いの数にしても、今まで外出帰りなどで1日2回洗っていたのを、コロナ禍だから10回にすればいいかというと、その程度ではぜんぜん足りていない。

僕ら医療者は、何か行為をするたび、たぶん1日に50〜100回ぐらい、アルコール消毒を含めて手を洗っている。そこまでに達していればリスクは減るが、達していない人ならまだまだ洗い足りないので、自分がかかってしまう可能性も、人にうつしてしまう可能性もあるということだ。

「『Go To』をなぜ前倒しにしたのかわからない」

そこは過敏になってもなりすぎることはなく、「誰でもコロナ」と思って生活するしかない。そこまで対策が取られていればコロナは怖くないし、経済を回してもいいと思う。「Go Toトラベル」は、そうした意識づけが国民に徹底できていない時点でスタートしてしまった。なぜ前倒しにする必要があったのか、ぜんぜんわからない。

――コロナも経済も悪化する中で、生活困窮者支援の現場は。

私が理事長をしているNPO法人「ささしまサポートセンター」では、名古屋市内で行われる生活困窮者向けの炊き出しに毎週参加し、ボランティアの医師や看護師による医療・健康相談などを開いている。

炊き出しは屋外なのでリスクは少ないが、1人1人に手指消毒や距離を置いて待ってもらう対策を呼び掛けている。まだ炊き出しに来る人がものすごく増えている状況にはないが、こんな時代なので、誰もが同じ状態になり得る。生活保護のハードルはどんどん低くしていかないと。


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生活保護の受給は当然の権利であり、恥ずかしいことでも何でもない。保護を受けながら態勢を整えて、収入が得られるようになったら少しずつ元の生活に戻していけばいい。僕自身は、町医者として場末の診療所で例えコロナであろうが診療し、生活困窮者に対しては炊き出しに来てもらえれば無料で診察する。貧富の差があっても、誰にでも医療への道筋をつけてあげられるようなシステムを自分なりにつくっているつもりだ。