礼儀正しく、かつ好印象を持たれる人はどういったことを心がけているのでしょうか?(写真:mits/PIXTA)

「この人、礼儀正しいのに、いまいち好きになれないんだよな……」と感じさせる人がいる。また、「マナーを踏まえて接しているはずなのに、どうも相手との距離が縮まらない」と感じている側の人もいるだろう。

マナー違反もせず、礼を欠いてもいないのになぜか好印象を残せない人は、いったいどんな点が問題なのだろうか? マナーコンサルタントの西出ひろ子氏に聞いた。

マナーの基本は「相手に喜んでもらう」こと

社会人にとって最低限のマナーは必要です。

ですが、間違ってはいけないのは、マナーはルールでも規則でもなく、ましてや、自分をすてきに見せるためのものでもないということ。相手の立場に立って、相手にとってプラスになるであろうことを考え、イメージし、行動することがマナーの根本なのです。

相手がハッピーな気持ちになった結果、そんな気持ちにしてくれたあなたに対して好印象を抱きます。つまり、“自分をすてきに見せよう”とふるまうのではなく、“相手に喜んでもらおう”と行動することが、ひいてはあなたの印象をアップさせることにつながるのです。

ですから、基本のマナーに沿ってただ型どおりに行動するだけでは、相手の心には響きません。そこに、「相手に喜んでもらいたい」という気持ちが上乗せされることで、初めて“おもてなし”となるのです。

今回は、相手により喜んでいただき、その結果、自身も「すてきな人だな」と思ってもらえる“ワンランク上の気くばり”について解説しましょう。

以下に、<話をするとき><訪問直前にすること><おいとまするとき・されるとき><レストランで食事をするとき>という日常的な4つのシチュエーションを取り上げました。

それぞれ、基本的なマナーを踏まえた“最低限おさえておきたいふるまい”と、“ワンランク上のふるまい”を並べてみましたので、ご参考になさってください。

◆一方的に会話を勧めず「相手中心」に

<話をするとき>

●最低限おさえておきたいふるまい
相手に失礼のない姿勢や表情、身だしなみを整えて、相手が聞き取りやすい声の大きさやトーンで話す。

●ワンランク上のふるまい
相手の都合や終わり時間の確認をしてから話す。

話をするときも、大勢の前で話すとき、商談のときや職場の人と話すとき、また、プライベートの友人や家族と話をするときなど、それぞれのシチュエーションで話し方は変わりますね。どのシーンでも共通して言えることは上記のとおりです。

話をするときの注意点は「一方的にならない」ということです。一方的に会話を進める人は、自己中心的な人と評価されます。マナーは「相手中心」ですから、話をするときも、常に相手の気持ちや都合などを考えながら話をすること。相手を慮(おもんぱか)れる人はすてきですよね。

そのためには、話を始める前に、相手の都合や時間を伺い把握することです。友人であっても「今日は何時まで大丈夫?」などデッドラインを確認すると、相手は自分のことを優先して思ってくれているあなたのことを好きになりますね。

話をするときには、発音や発声の仕方やその内容うんぬんの前に、人として相手を慮る礼、すなわち思いやりが大事なのです。

◆相手の状況を想像してみる

<訪問直前にすること>

●最低限おさえておきたいふるまい
約束の時間に間に合うように、相手宅へ向かう。

●ワンランク上のふるまい
「本日は、時間どおりでよろしいでしょうか」と、30分前くらいに先方の状況を伺う。

相手に好印象を残せるかどうかは、相手の立場に立てる思いやりの気持ちを持てるかどうかで決まります。訪問をする際には、時間どおりに到着することだけを考えるのではなく、お迎えの準備をしてくださっている相手の状況を想像してみましょう。

事前の電話1本で訪問時により心地よい時間を過ごせる

事前に約束の時間が決まっていても、相手の都合や状況はさまざま。もしかすると、急用が入り時間を遅らせてほしいと思っているかもしれませんし、あと10分あれば、きれいに片付けができるのに……と思っているかもしれません。

こういうときに、あなたから電話でその状況を伺うと、相手は正直に「ごめんなさい。できれば、お約束の10分後にお越しいただいてもいいでしょうか?」などと時間変更を言いやすくなります。

あなたは「よかったです! ちょうど私も1件、電話をしなければならなくなったので。では、10分遅れて到着するようにいたします」などのコミュニケーションに発展する可能性がありますね。

対面したときには「お時間遅らせてもらって助かりました。ありがとうございました」など、感謝のプラスのエネルギーからスタートすることができるため、共に心地よい時間を過ごせることになるのです。

◆去り際まで気を抜かずに心遣いをする

<おいとまするとき・されるとき>

●最低限おさえておきたいふるまい
訪問者は「そろそろ失礼いたします。ごちそうさまでした」などのお礼を伝え、席を立つ。家主は「お構いもせず失礼いたしました」とあいさつをして、玄関へ誘導する。

●ワンランク上のふるまい
互いのあいさつ後、家主は「お化粧室はいかがですか」と先手でお声がけする。

「そろそろ帰りたいんだけど……」と思っても、訪問した側はなかなかそれを言い出すことができないときがありますね。

もともと自分がそのタイプだとわかっている場合は、訪問することを決めるときに、「当日は申し訳ないことに、次の予定があるため、一時間程度で失礼いたします」など、あらかじめ、帰る時間を伝えておくとよいでしょう。そうすれば、家主も「そろそろお時間ですよね」と言いやすくなります。

このように事前に帰る時間を伝えておくと、家主が気を利かせて言ったことが「早く帰ってほしい」からそのように促している、という誤解もなくなります。

家主は、お客様に気づかれないよう、事前にお客様の靴を履きやすい方向に向けておきます。お客様にお土産をお渡しするときは、帰り際にお部屋で渡してもよいですし、玄関で渡してもどちらでも構いません。持ち帰りやすいように、手提げ袋のままお渡しします。

また、お客様はトイレに行きたくても、なかなか正直に言えないことも。そこで、あなたから促してさしあげると、お客様も行きやすくなります。

◆店員さんも含んだ周囲への気くばりを

<レストランで食事をするとき>

●最低限おさえておきたいふるまい
飲み物やお料理を持ってきてくれたとき、お皿をさげてくれるときには「ありがとうございます」とお礼を伝える。

●ワンランク上のふるまい
「おいしかったです。ありがとうございます」など、感想も伝えて会釈をする。

食事のマナーで最も大切なこと。それは、その場にいる人たちと楽しい時間を過ごすことです。

そこに欠かせないのが、食材やお皿、カトラリーやお箸、料理人、給仕くださるお店の方などに対する感謝の気持ちです。お料理を作ってくださる人、店員さんやお店に対する感謝の気持ちを「言葉と行動」で示しましょう。

優先すべきは「相手がどう感じるか」

私がイギリス、オックスフォードで生活をしていたときのこと。当時、オックスフォード大学大学院の遺伝子学研究者だった、ビジネスパートナーのウイリアム博士やその仲間たちと、カジュアルなお店から超高級レストラン、アッパークラスの人たちが集うパーティーや会員制の紳士俱楽部まで、さまざまな社交の場に行っておりました。


世界トップクラスの彼らの立ち居ふるまいで最も感心したのは、お店の人が何かしてくれるたびに必ず「サンキュー」とお礼を伝え、ほかのテーブルなど、知らない方々ともすぐにコミュニケーションをとり、その場をみんなで楽しく過ごすことでした。

オーダー時には「お願いします」、料理が運ばれてきたら「わぁ! おいしそう! ありがとうございます」のひと言を。美しい人のテーブルマナーは、食事の仕方以前に、周囲への気遣いで決まります。

優先すべきは「自分がどう思われるか」ではなく、「相手がどう感じるか」です。ハッピーな時間を提供してくれた人に対しては、誰しも好感を抱くでしょう。

自分も相手も、そして周囲の人々もハッピーな気分になれるよう、マナーを上手に活用してください。