新型コロナウイルスの感染拡大と、それに対する世の中の空気を読み取った判断と言えるだろう。Jリーグは入場者数の上限を「5000人または会場収容人数の50パーセントの少ないほうとする」とする現在の制限を、8月10日まで延長するとした。

 イベント開催の制限に関する国の指針によれば、8月1日以降は収容率の50パーセントまで観客を入れることができる。しかし、東京を中心に新型コロナウイルスの感染者が急増している。Jリーグが制限緩和へ慎重になるのも当然だ。

 ポイントは人の流れを増やさないことにあるだろう。

 現在の「超厳戒態勢」では、ビジター席を設置しないことになっている。アウェイチームのファン・サポーターに観戦を自粛してもらうことで、大人数の移動を抑止している。

 再開後は近隣クラブ同士で行われてきたJリーグは、8月1日から地域をまたいで対戦していく。チーム関係者の移動範囲は広がり、それに合わせてファン・サポーターも移動すれば、当然のことながら感染リスクが高まってしまう。

 東京都と生活圏の重なる神奈川県、千葉県、埼玉県、茨城県には、Jリーグのクラブが数多い。東京都にはFC東京、東京ヴェルディ、FC町田ゼルビアの3チームがあり、神奈川県には横浜F・マリノス、横浜FC、川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、SC相模原、Y.S.C.C横浜の6チームがある。千葉県には柏レイソルとジェフユナイテッド千葉が、埼玉県には浦和レッズと大宮アルディージャが、茨城県には鹿島アントラーズと水戸ホーリーホックがある。

 合計で15チームだ。リーグ戦が行われるたびに1都3県から地方へ移動するチームが、地方から1都3県へやってくるチームが出てくる。

 政府の「GoToトラベル」については、22日からの実施に否定的な意見が大多数を占めている。観光業をサポートしたいという気持ちはあっても、多くの人は「感染をしない、させない」との意識を強めていると感じる。

 そうしたなかで、Jリーグが入場制限を解除したら──賛同を得にくいのは確実だ。

 政府の運用見直しを待たずに、Jリーグが動いたことも評価できる。新型コロナウイルスの感染拡大に対して、Jリーグがどのような姿勢で臨んでいるのかを示せるからだ。各クラブのチケット販売を考えても、変更は早いほうがいい。

 リモートマッチと名付けられた再開後のゲームを取材してみると、観衆が上限に達しない会場は多い。「スタジアムで自分のチームを応援したいけれど、いまは感染予防を最優先にしたい」というファン・サポーターが多いと感じる。

 秋から冬にかけて第二波、第三波がやってくるとすれば──東京で感染者が増えているいまが、第二波なのかもしれないが──満員のスタジアムを取り戻すのは容易ではない。ワクチンが一般社会にまで広く流通し、感染しても重症化しない医療態勢が整うまでは、社会的距離を確保したうえでの観戦となるのではないだろうか。コロナ以前の光景が戻ってこないとしても、もはや驚きではない。

 スポーツ観戦の在り方は、根本的に変わっていきそうだ。スマートフォンやタブレットの普及で、自宅(テレビ)でもスタジアムでもない場所でも観戦できるようになっている。そこに「三密にならない」という条件が付いた。スタジアムや自宅でなく、パブリックビューイングでもスポーツバーでもない観戦方法を、ひねり出していく必要がありそうだ。
 
 集客のモデルも確実に変わる。たとえば、平日のナイトゲームでは「仕事帰りのサラリーマンやOLを、どうやって取り込むか」が大きな課題となっていたが、テレワークが広がっている。「仕事帰りの人」が減っていけば、違う方法でのアプローチが求められるはずだ。
 
 新型コロナウイルスとの並走を強いられるJリーグには、感染拡大防止に万全を期しつつ、新たなビジネスモデルの構築が急がれる。入場料収入(観客動員)が縮小しても、経営を健全化していけるか。コロナ対策と並行して、各クラブは新たな課題と向き合っていく。