永明寺(福岡)の掲示板

 緊急事態宣言の解除が進み、人々は徐々に日常を取り戻しつつあるように見える。だが、新型コロナの影響はあまりに深刻。世に蔓延した不安、不信は、しばらく払拭できそうにない。

 そんなとき、少しでも心の平穏を取り戻そうと、励ましの言葉をかけてくれるのが「お寺の掲示板」だ。ふだんは気にしていなくても、今なら、ふとした言葉に気が安らぐはずだ。

 2018年から「輝け! お寺の掲示板大賞」を主宰する、仏教伝道協会の江田智昭氏は語る。

「お釈迦様は、『人生は苦である』と説いておられますが、この『苦』とは『思いどおりにならない』ということで、現在多くの人々が痛感していることでしょう。

 仏教は『思いどおりにならない人生をどう生きるか?』を説いています。この機会に、ぜひふれていただければと思います」

「新しい生活様式」も大事だが、まずは自らの胸に手を当て、これらの言葉を口にしてみては。

●永明寺(福岡)
 志村けんさん死去の翌日、3月30日に掲示されたという。

「父が『ひょうきん族』より『全員集合』派だった影響もあり、私も幼いころからずっと笑わせていただきました」(松崎智海住職)

「不安な時代を生きている私たちへのメッセージのようにも受け取れます。ちなみに『涅槃経』では、『大丈夫』という言葉が仏の異名として登場します」(江田氏)

●超覚寺(広島)
「出典はなく、そのままの意味。いま一度自らを見つめ直すことも必要でしょう」(和田隆恩住職)

「『コロナに打ち勝とう』という言説も目にしますが、私たち人間が、多くの生物に有害な存在であることを忘れてはなりません。すべては、縁起(つながり)の中で生きています」(江田氏)

●西光寺(東京・谷中)
 今を全力で生きることこそが、明日へと繋がる道――とのお言葉。

「多くの人が不安を抱えていると思いますが、お笑い芸人のオードリーの若林さんが著作の中で、『ネガティブを潰すのはポジティブではない。没頭だ』と述べていました。いま没頭できるものを探しましょう」(江田氏)

●妙慶院(広島)
「未知の疫病と対峙しているなかでは、臨機応変に対応していくことが大事では」と加用雅信住職。永田町の先生方にも聞かせたい。

「現時点で、何が正しいか間違っているかは、誰にもわかりません。この世は『諸行無常』。変化にできるだけ対応する姿勢を維持したいものです」(江田氏)

雲西寺の掲示板(撮影・原浩二さん)

コロナ禍の今を頑張る、理由を教えてくれた言葉がある

●雲西寺(大分)
 この掲示板を書いた前住職いわく、「苦しいとき、つらいことがあったときによく聴いた曲です」。5月27日は、ZARDの坂井泉水さんの命日だ。

「こちらは、有名なZARDの曲のタイトルですね。心が折れそうになる状況ですが、こういうときこそ、『分断』ではなく、『つながり』を大切にしながら、一日一日を生きたいものです」(江田氏)

●長慶院(京都)
 住職によれば、出典は、禅宗に関する短歌などを収めた『禅林世語集』とのこと。

「今のような状況だからこそ、思いやりのある言葉をかけ合いたいものですね」(小坂興道住職)

「『法句経』には、『生まれたときから口に斧が生えていて、愚者は悪口を語って、自分を断つのである』とあります。発する言葉には、くれぐれも気をつけましょう」(江田氏)

●西遊寺(京都)
「うちは駅前にあるので、学生さんを多く見ます。甲子園大会中止など、目標を失いがちな状況ですが、いまの努力は必ず自らの道を作ると信じて、頑張っていただきたいです」(和田恵聞住職)

「『中部経典』の『一夜賢者の偈げ』のなかに、『過去を振り返るな、未来を追い求めるな』とあります。先が見えない状況で、“いま” に集中したいものです」(江田氏)

※「輝け! お寺の掲示板大賞2020」は、今年も7月1日からTwitterとInstagramで、お寺の掲示板作品を募集。受賞作品は12月に発表。詳細は仏教伝道協会HPで。

(週刊FLASH 2020年6月9日号)