ロジャーズ氏は「世界の覇権を握るのは、アメリカではなく中国だ」と言い切る。真の民主主義国家とは言えない同国だが、なぜそう考えるのか(写真:Luxpho (Takao Hara))

ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子です。前回の「日本は20年後、必ず没落する」に引き続き、『ジム・ロジャーズ 大予測:激動する世界の見方(東洋経済新報社) 』から天才投資家による世界情勢の見方をお伝えしたいと思います。

新型コロナ危機で「欧米の凋落」が決定的になる


「今から数十年後に振り返ったときに、これから起きる多くの出来事が『今回の新型コロナ危機が分岐点だった』と記録されているだろう。長期的な視点に立てば、世界経済の成長が大きく減速し、アメリカや欧州の凋落が決定的になる」

ロジャーズ氏はその根拠は歴史にあると言います。「人々が豊かになるのは国を開いて、人々の往来や交易がさかんになるときだ。」と言います。例えば、15世紀以降の大航海時代や19世紀の「第1次グローバル化」と言われる時代、コロナ前のグローバル社会における経済成長がそれを証明しているということです。

「しかし、第1次世界大戦後、あらゆる国が国境を閉じ始めると、すべてが逆回転するようになった。その結果、世界は第2次世界大戦という惨禍を引き起こしたのだ。その反省として、1945年に「各国が2度と国境を閉じるような過ちをしないように」と、国際連合が設立され、その後GATT(関税および貿易に関する一般協定)も発効した。しかし現在、第1次大戦後の1920〜30年の教訓を覚えている人は、すでに大半が亡くなってしまっている」

現在、スペインなどでは7月1日から外国人観光客の受け入れを発表しましたが、感染が収束している中国やニュージーランドなどでも国境を以前のように開くことには慎重にならざるをえません。感染についての監視システムをどうするかという問題もあります。それでも「アフターコロナ」へ向けて前進を図ろうとしています。しかし、現在の国際情勢は過去の歴史をないがしろにするような動きが止まりません。

「近年、国際社会に過去の教訓を無視するような問題が生じている。アメリカには貿易戦争で勝利できると考える(ドナルド・トランプ)大統領が誕生してしまった。歴史を見れば、貿易戦争に勝者など存在しないことは明らかだ。国を閉じて繁栄した例はない。しかし、アメリカの大統領は、歴史よりも自分自身のほうが賢いと思っているようだ。これはとても愚かな考えだ。そこへ、今回のコロナ危機が追い打ちをかけた。これをきっかけにアメリカはますます自分本位になり、国境に壁をつくるようになるだろう」

実際、米政府は新たな対中関税措置を検討すると同時に、世界の産業供給網から中国を排除する取り組みを加速させているようです。しかし、2018年から本格的に始まった米中貿易戦争では、「アメリカが中国に勝利した」とはとても言えない状況が続いたまま、コロナショックが起きました。今後もこうした状況が続くかもしれません。

ロジャーズ氏はアメリカだけでなく、英国を始めとした欧州経済の見方もネガティブです。

「経済的に疲弊した国民もまた、自己中心的になる。イギリスでは国民の半数以上がEUからの離脱を望んだ。排外主義やポピュリズムが蔓延したのは1930年代だ。歴史は繰り返されるわけではないが、歴史は韻を踏む。これはアメリカの文豪マーク・トウェインの言葉だが、世界の出来事のほとんどは、まったく同じではなく、少しだけかたちを変えてくり返される、という本質を突いた言葉だと思う」

アメリカの好景気はすでに終わりを告げた

それでは、ロジャーズ氏は、今後の世界の行方に最も影響を与えると言っても良い、アメリカの大統領選についてはどう見ているでしょうか。
「今回の危機が起こる前は、もしどちらかが勝つか、賭けろと言われたらトランプ再選のほうに賭けていただろう。なぜなら、1990年代以降、現職の大統領が再選されているケースが多いからだ。現職の大統領はホワイトハウスから、自身が再選するためにいろいろな手段を行使できる。公共事業に予算を配分し、株価を上げることで、再選に近づくことができるのだ」

しかし、コロナショックによって株式市場はいったん暴落しました。今はかなり戻ってはいますが、ロジャーズ氏はここまで落ち込んだ経済をもとの状態に戻すのは相当難しいと言います。

「アメリカはこの10年間、経済は好調で、株価もほぼ右肩上がりに上昇し続けてきた。アメリカ経済の好調を支えてきたのは、新興国など海外経済にお金を投資したリターンによるものだ。金融立国と言えば聞こえはよいが、投資の上がりで食べていく国に成り下がってしまったのだ。

また、もう一つの要因は、シェールガスやシェールオイルなどエネルギー産業が、バブルと言ってよいほどの好景気にあったことによる。しかし、ここへ来ての原油価格の急落で、その好景気も終焉を迎えてしまった」

再選に絶好な環境が整っていたにもかかわわらず、コロナ危機によって窮地に立たされてしまったと言うのです。

「トランプ大統領誕生の立役者と言われる中西部の白人たちの多くは、老後の年金資産を株で運用している。そのため、株価の下落は再選を目指すトランプにとって大きなダメージとなる」

アメリカではなく、中国が覇権を握る理由

ロジャーズ氏は、今回の危機からいち早く立ち直るのは中国だと主張します。確かにシャドーバンキングシステムなど負の側面も抱えるものの、長期的に考えると中国は覇権に向けて前進していくと考えています。

「中国は何年もの間、7%〜10%を超える高度成長を続けてきた。こうした社会では、人の質ははものすごく強くなるものだ。実際、私が初めて中国を訪れた頃に比べて、今の中国は別の国に見えるほど、人材のレベルは上がっている。豊かになったことで子供の教育にも投資するし、企業も研究や開発に多額のお金を投じている。いま世界でもっとも研究者・技術者を輩出している国は中国だ。アメリカではない。この事実が重要だ。中国はますます豊かになる。多くの企業もまだまだ拡大する。(『民主主義国家なのか』などという人がいるが)、国の体制、政治制度は関係ない」

私が住んでいるシンガポールでも、テマセクという政府が所有する投資会社のポートフォリオの内訳で投資地域をみると、中国が26%と自国と同じ割合が組み込まれており、北米とヨーロッパを合わせた割合よりも高くなっています。テマセクは1974年に設立されてからの平均年率リターンが15%、20年平均7%という実績を出しています。

「現在、中国経済を牽引しているのは、ファーウェイやテンセントといったニューエコノミーのビジネスで、ITや通信分野で優れた技術をもつ企業だ。日本はもちろん、アメリカよりも優位にあることを認識すべきだ」

ロジャーズ氏が指摘するように、投資で利益を出すためには、「投資対象の好き嫌い」に左右されるのではなく、成長性や割安などを見極める必要がありそうです。新型コロナが結果的に「後押し」をする形で発展していく中国経済からますます目が離せません。