■新型コロナから快癒したのに復帰しない富川アナ

ジャーナリストはどこまで自分の行動に責任を持つべきだろうか。

最近起こった2つの事件を見ていてそう考えた。「報道ステーション」(テレビ朝日系)のMCを務めていた富川悠太アナ(43)が、新型コロナウイルスに感染していたのに、ぐずぐずしていて、感染を拡大してしまった件と、黒川弘務東京高検検事長と、コロナ自粛の最中、賭け麻雀をしていたことが発覚した、産経新聞記者と朝日新聞元記者の件である。

テレビ朝日「報道ステーション」HPより

まずは、富川問題から見てみよう。

報道ステーション」のMCだった富川悠太が、番組から姿を消してから2カ月近くが経つ。

番組は、金曜日を担当していた小木逸平アナと徳永有美アナ、森葉子アナで回しているが、新型コロナウイルスの騒ぎで、視聴率は好調のようで、富川を復帰させろという声は、視聴者からも、社内からも上がっていないようだ。

古舘伊知郎の後を受けて、局アナの富川がMCを引き継いで、早4年が経つ。風呂上がりのようにさっぱりした富川のMCぶりは、可もなし不可もなしという無難なものだった。

共同通信出身の後藤謙次(3月に降板)との差し障りのないやりとりを見ていて、私はテレビの前で、「もう一歩踏み込め」と怒鳴ったりしたことがあったが、局アナの限界だったのだろう。

朝の「モーニングショー」に“テレ朝の顔”は持っていかれたが、夜のニュースショーとしては、ゆるぎない地位を築いていた。

だが、それが一変したのが4月初めだった。

■無理して出演した結果、感染を広げてしまう

富川は、在宅勤務だった4月3日から38度の熱があったのに、すぐに平熱に戻ったため、6日から番組に出演していた。だが、痰が絡むようになり、9日に番組のプロデューサーに体調不良を訴えたが、出演を強行し、翌日の10日に病院に行き、肺炎と診断された。

即、慶應病院に入院してPCR検査を受けると、次の日に陽性反応が出たのだ。発熱からすでに9日も経っていた。その後、番組のチーフプロデューサーなどにも陽性反応が出ため、全スタッフを自宅待機させ、テレ朝本社を3日間封鎖する大騒動になった。パートナーの徳永有美も自宅待機になり、「報道ステーション」は崩壊寸前までいったのである。

視聴者に、新型コロナウイルスの怖さをレポートし、症状があったらすぐに検査を受けてくださいといっていた当人が、うすうすかかっていることを心配しながら、無理してテレビに出て、関係者たちに感染を広げてしまったというのでは、富川にはきついいい方になるが、ジャーナリストとしては失格である。

■「局側に出したくない事情があるのでしょう」

テレビ朝日の早河洋代表取締役会長は、4月13日の朝、テレビ朝日の関係者たちに文書を配ったと、文春オンライン(4/14)が報じている。中にこんな文言があるという。

「当社は日々の番組で視聴者の皆さんに、感染防止の重要性を訴えてきましたが、その番組の当事者がこのような事態になってしまったことを重く受け止めます」

社の責任者としては、「バカヤロー」と怒鳴りたい気持ちであろう。

富川も一時は、かなり重篤だと伝えられたが、4月21日に退院したといわれる。その後は、自宅で療養しているようだが、社からお呼びがかからないそうである。

日刊サイゾー(5/22 21:05)によると、テレビ局関係者がこう話している。

「テレ朝が富川アナを復帰させたいのなら、とっくにしていますよ。ほかのキャスターと一緒にさせたくないなら、リモートワークで出せばいいんですから。局側に出したくない事情があるのでしょう。(中略)上層部の信頼は失墜、片や、富川アナ、徳永有美アナらの不在を支えた代役の小木逸平アナの評価はうなぎ上りです。仕切りのうまさ、アナウンス力、冷静な対応などは富川アナの比ではありません。(中略)早ければ、『報道ステ』は7月から新体制になって、富川アナは降板の可能性が高くなったようです」

■妻の怒鳴り声で警察官が駆け付ける事態に

非情なようだが、視聴率1%に一喜一憂するテレビ業界では、よくあることだ。だが、富川には、家庭にも問題があると、ダメ押しのように、文春オンライン(5/11)が報じたのである。

文春オンラインの内容を要約すると、概ねこうなる。

小池百合子東京都知事がゴールデンウイーク中は「STAY HOME」と呼び掛けていた5月3日(日)の午前1時ごろ、都内の高級住宅街の一軒家に、警察官と児童相談所職員が駆け付けたという。「黒い家」と呼ばれるこの家の主は富川悠太だ。彼の一家は3年前にここへ引っ越してきたそうで、中学生と小学生の男の子がいる。3階建てで屋上付きだが、近隣との距離は近い。

「『だからお前は脳みそが腐ってんだよ!』という、富川さんの奥様の怒鳴り声が聞こえてきたのです。ビックリして外を見てみると、富川さんの奥様がご自宅の屋上で、中学生のほうのお子さんを叱っていたんです。『早く寝ろ!』とも怒っていらした。その声の大きさとただならぬ雰囲気に他の住民も何事かと外に出てきて、“黒い家”の様子を窺っていました。そして、その絶叫から10分後くらいに、2人組の自転車に乗った警察官が駆け付けてきました」(近隣住民)

真夜中に近隣住民を怯えさせるような大声をあげて、子どもを叱るというのは、DVの可能性もあるのではないか。だから児相の職員も駆け付けたのだろう。

この怒声は、引っ越してきた早々から、聞こえてきたという。

■「虐待の疑いがあると通報が入っています」

「『馬鹿!』『おめぇ!』『ふざけんじゃねぇ!』などと、とにかく乱暴なんです。以前、秘書に暴言を吐いて話題になっていた、女性の国会議員みたいな怒り方ですよ」(別の近隣住民)

この日は、富川も病院から退院して、家にいたはずである。だが、彼が退院して家にいるようになってから、妻の怒声に拍車がかかったという。駆け付けた警察官が、「近隣の方から虐待の疑いがあると通報が入っています」とインターホンで伝える。

富川の妻は、「子供が寝ないから注意しただけです」というが、玄関先まで出てくるよう促された。児相の人間も駆け付け、妻がコロナの濃厚接触者だと分かると、児相の人間は頭の先まで覆うことができる白い防護服を着て、玄関先で聞き取りをしたという。

児相の人間が、「ご長男を呼んでください」と伝える。子どもが出てくると、10分ほど聞き取りをして、再び、妻と話をして、警察官たちと帰って行った。その前の、富川が退院して3日後の4月24日にも怒鳴り声が聞こえ、警察官が駆け付けている。そのときは富川と話していたそうだ。

■まるで「コロナDV」の典型のようだ

富川の妻が普段見せる顔は、このようなものではないと、富川家と交流のある住民が語っている。

「富川さんの奥様は普段はとても礼儀正しい方で、性格はサバサバしている方ですよ。もともとタレント活動をしていたそうで、とてもお奇麗でスタイルも良い。最近はプリザーブドフラワーを扱うお仕事をされていると話していました」

昼の顔は、礼儀正しい妻だが、夜になると、鬼母の顔に変身するのだろうか。

富川が療養から帰ってきて、家にいることが多くなってから、妻の怒り声は激しさを増したそうだが、まるで、「コロナ離婚」「コロナDV」の典型のようではないか。

近隣住民たちは、「家を閉めていても声は聞こえてくる」から、仕事に集中できない、「警察官が頻繁に来るので、子供さんの様子も心配ですし、こちらもノイローゼになりそうです」と嘆く。

新型コロナウイルスに感染していたのに、ずるずると検査もせず番組に出続け、次々に感染者を広げてしまったため、慙愧(ざんき)に堪えない思いが富川にはあるのだろう。また、番組への復帰が見えないための焦りや、不安から、妻との諍(いさか)いがあり、妻のはけ口が、子どもへ向かったのかもしれない。

■復帰しても権力批判ができるのか

私を含めて、安倍晋三首相を批判する常套句に、「妻(昭恵)も御せないのに、国民を御せるわけはない」というのがある。富川が番組に復帰して、権力批判を口にすれば、「お前にそんなことをいう資格があるのか」「批判する前にカミさんを何とかしろよ」という声が飛んでくるに違いない。

昔、「報ステ」の前身である「ニュースステーション」をやっていた久米宏が、短いフレーズでチクリと当時の政権批判をいって、話題になった時、どこかのインタビューで、「僕はジャーナリストじゃない、単なるアナウンサーです」といったことがある。

富川も、ここに紹介した問題について聞かれたら、「僕は局アナで、ジャーナリストじゃない。私生活まで書かれては迷惑だ」と答えるのだろうか。

■ジャーナリストにあるまじき“賭け麻雀事件”

いま一つは、黒川弘務東京高検検事長が、親しい新聞社の人間たちと、コロナ自粛の最中、賭け麻雀をしていたと週刊文春(5/28号)が報じた“事件”である。

当然ながら、黒川は辞任したが、麻雀をやっていた産経新聞の2人の記者と、朝日新聞の元司法記者(現在は経営企画部)は、名前も公表されず(ネットでは実名が出ていたが)、自粛の最中に賭け麻雀をしていたということについて、両紙が詫び文を出しただけである。

社内的な処分はなされるのだろうが、ジャーナリストとしてあるまじき破廉恥行為をした肝心な点については、どうやらお目こぼしのようである。

私は、この問題は、コロナ自粛中に取材対象と賭け麻雀をしていたというだけで済む問題ではないと考える。ジャーナリストとして、絶対やってはいけない一線を越えてしまったのである。

毎度、ノンフィクション作家の本田靖春を持ち出して申し訳ないが、彼が読売新聞の社会部記者時代の取材者の心構えについて触れておきたい。彼は、政治部の記者を蛇蝎(だかつ)のごとく嫌っていた。それは、こういう考えからである。

「赤坂の料亭で有力政治家にタダ酒を振る舞われ、政局に際しては、その政治家の意に沿った原稿を書く。取材先でコーヒーの一杯もちょうだいしないようおのれを律している私たちからすると、彼らは新聞記者ではない。権力の走狗である」

■わざと負け、ハイヤーまで呼び、提灯記事を書く

週刊文春によると、産経の司法担当記者は、かつて黒川の提灯記事を書いていたそうである。赤坂の料亭ではなく、産経の記者の自宅マンションになったが、月に何度か賭け麻雀をやり、わざと負けて幾ばくかのカネを黒川に貢ぎ、ハイヤーまで呼んでご帰還いただく。その上、黒川の提灯原稿を書くのでは、本田のいう「権力の走狗」と同じではないか。

正力松太郎読売新聞社主の新聞私物化を批判して本田靖春が読売を去ってから、社会部を抑え、力を持ち始めたのが政治部の渡邉恒雄であった。渡邉は、大物政治家たちの懐に入り込み、側近のように振舞うことで有名だった。彼は、NHKのインタビューで、相手の懐へ入り込まなければ、いいネタは取れないとしゃべっていた。

だが、取材相手との距離感を忘れ、大物政治家を動かし、自分の考える社会を実現するという傲慢な取材手法には、私だけでなく、多くの批判があるのは当然だろう。今回の3人の記者たちの行動は、取材者と取材対象者との距離の取り方という観点からも議論され、厳しく批判されて然るべきである。

この連中はこれまで、黒川と親しいことを社内で吹聴し、いっぱしの司法記者の顔をしていたのであろう。だが、中には、そうした権力ベッタリの取材方法を苦々しく思っていた記者がいたことは想像に難くない。その一人が、週刊文春に情報をリークしたのであろう。

■ジャーナリストの自殺行為で懲戒免職に相当する

私はJ−CAST(5月22日)の「元木昌彦の深読み週刊誌」という連載でこう書いた。

「朝日新聞は5月22日付朝刊の社説で、この問題に触れ、自社の社員が参加していたことを詫び、『社員の行いも黒川氏同様、社会の理解を得られるものでは到底なく、小欄としても同じ社内で仕事をする一員として、こうべを垂れ、戒めとしたい』としている。朝日に産経新聞広報部のコメントが載っている。『相手や金銭の多寡にかかわらず賭けマージャンは許されることではないと考えます』としているが、この中の『今後も取材源秘匿の原則は守りつつ』という文言が気に入らない」

「朝日も昨日のお詫びの中で、『勤務時間外の社員の個人的行動ではありますが』と、『逃げ』をうっていたが、新聞記者(元社員も含める)という職業は、ここまでは取材、ここからは個人の自由な時間だから、何をしてもいいということにはならないはずだ。ましてや、黒川という渦中の人間とコロナ自粛の中で『賭け麻雀』をやるのだから、個人的行動だから『お咎めなし』でいいはずはない。ジャーナリストとしての自殺行為で、懲戒免職に相当すると、私は思う」

■富川氏と賭け麻雀の記者3人にある共通点

「私にも覚えがあるが、メディアは、都合が悪くなると『取材源の秘匿』で逃げることがよくある。だが、ジャーナリズムとしての矜持があるのなら、黒川検事長と自粛を無視して賭け麻雀していた自社の記者を解雇するぐらいのことをすべきではないか。彼らは、黒川について“ヨイショ”記事ばかりでなく、批判的な原稿を書いたことがあるのか。朝日と産経は、それも調べ上げて、公表するべきである。

この問題は、黒川にばかり焦点が当てられ、記者と元記者の取材者としての“歪み”が見逃されているのは、私としては納得いかない」

富川と、黒川前東京高検検事長と接待賭け麻雀をやった3人とは共通点がある。ジャーナリストはかくあるべしと大上段に振りかぶるつもりはないが、メディアに携わる人間ならば、自分たちのとった行動が、世の常識から逸脱していないか、日頃の自分の言動に反していないかを、常に自らがチェックする責任と分別がなければいけなかった。だが、4人とも、それを怠ってしまったのである。

富川悠太にはこういいたい。もう一度ジャーナリズムの現場に戻りたいのなら、一記者になり、背広をジャンパーに着替え、貧困や格差、この国が抱える多くの矛盾を“可視化”するために現場を這い回ることから始めることだ。(文中敬称略)

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元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)などがある。
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(ジャーナリスト 元木 昌彦)