タクシー車両はもともとすべて改造車だった

 大昔のタクシーと言えば、トヨタ・クラウンや日産セドリックが当たり前であった(小型タクシーではトヨタ・コロナや日産ブルーバード、三菱ギャランなどもあったが)。後席ドアの開口面積など、タクシー車両としての要件に関する規制が厳しかったことが背景にある。

 2015年に国土交通省はタクシー車両の要件緩和を行った。すると、街なかには個人タクシーだけでなく、法人タクシーでも多彩な車両がタクシーとして走るようになった。とくに目立ってきたのがミニバン系。もともと片側(助手席側)もしくは両側の後部スライドドアが自動で開閉できるということで、タクシーとしての自動ドアへの改造が必要ないというのも大きかったようだ。

 かつてのクラウンコンフォートやY31セドリックといっても、“タクシー専用車”ではなく、あくまで“営業車”というカテゴリーでラインアップされていたので、タクシー車両として使う前には、自動ドアに改造する必要があった。つまり、“タクシー車両=改造車”であったのだ。現在ラインアップされている日産NV200タクシーの基本スペックは、ガソリンエンジン仕様となり、LPガスで走らせたいならば、LPガスタンクなどを設置してLPガスも燃料として使える“バイフューエル仕様”に改造することになるが、この改造を請け負っているのは、走り屋のみなさんにはお馴染みの、あの“HKS”となっている。

 おもに個人タクシーとなるが、乗務員の好みに合わせてさまざまな改造を施しているタクシーも目立つ。違法改造はもちろん御発度だが、合法的な範囲でそれぞれ行っているものと考えられる。

 足まわりなど、メカニズムの改造だけでなく、車内オーディオにこだわり真空管を使ったシステムなどで、“おもてなし”をしようとする個人タクシーもあったりした。

 ただ、いまだにタクシーと言えば、法人タクシーではトヨタJPNタクシーへ切り替わりつつあるが、個人タクシーではクラウンが圧倒的に目立つ。これはタクシーとしての販売台数が多いので、とくに東京などの大都市では販売店のバックアップが手厚かったり、タクシーとして走っている台数が多いので、再生部品も豊富にあるなどのメリットもあるが、日本の道路環境にマッチした、とくに乗り心地の良さも大きいようだ。

不特定多数の人が乗るためこだわりは抑えられている

 かつて、先代メルセデス・ベンツEクラスをタクシー車両として導入したタクシー会社を取材したことがある。実際にベンツタクシーに乗って、都内を走ってもらい、その間に乗務員に聞き取りを行ったのだ。その時の乗務員は「ロング(長距離利用)のときは、高速道路も使いますので、高速道路では確かにベンツの走りは素晴らしいです。ただ都内で一般道路を走っていると、足まわりの硬さが目立ってしまいます。実際その旨を話されるお客様もいらっしゃいます。その面ではクラウンは日本の道路にあった足まわりになっているのだと改めて感じました」とのこと。

 メルセデス・ベンツは中国などの市場拡大に伴い、以前よりはだいぶソフトな乗り味になるなど、だいぶ変わってきているとの話も聞く。その一方で、クラウンは明確にメルセデス・ベンツやBMWを意識するようになってきており、最新モデルでタクシーとして乗り比べると、また話が少し変わるようだ。

 前述したNV200タクシーも単純にライトバンをタクシー仕様にしただけでなく、足まわりも入念に客を乗せて走るタクシー向けに調整しており、一見するとライトバンと同じに見えるが、実は別ものに近いと以前関係者から聞いたことがある。

 個人タクシーは法人タクシーと異なり、クラウンのロイヤルサルーンなど、豪華なものが多いので、“どうせ乗るなら”と好んで利用するひとがいる一方で、乗務員の好みで“いじっている”のを嫌い、法人タクシーを好んで利用するなど、利用者個々で趣向性も異なるので、“いじる”ことの賛否はなかなか語ることはできない。

 ただ、あまりにこだわった車両にしてしまうと、“お得意さま”を持つことの多い個人タクシーでは、いじることによる“個性”は一定の客層が望めるだろうが、より不特定多数の利用となる法人タクシーでは、“個性”はネガティブになりがちだし、そもそも保有するタクシー会社が“いじる”ことを許さないはずである。

 タクシー乗務員の多くは、やはりさまざまな価値観を持つ、不特定多数のお客を乗せるということで、クルマへのこだわりは抑えめにしているのが一般的といえるだろう。