東京電力グループで、新型コロナウイルスの感染者が相次いで発生している(撮影:今井康一)

東京電力グループで、新型コロナウイルスの感染者が相次いで発生している。

東電はこれまで、送配電会社「東京電力パワーグリッド」や火力発電・燃料会社「東京電力フュエル&パワー」など主要グループ企業に限って、感染が確認された人数や状況をホームページ上で開示してきた。

だが、東洋経済の取材により、グループ全体では4月30日までに公表していた数字(11人)の倍に相当する22人(委託先企業の社員を含む)の感染者が出ていたことが判明した。

柏崎刈羽原発でも感染者が判明

これまでに感染が確認されたのはいずれもグループ中核企業のうち、前出の2社に加え、持ち株会社の東京電力ホールディングス、東京電力エナジーパートナー(電力・ガス販売業務)などだ。それ以外にも、東電がグループ企業と位置づけている関電工で6人、東電タウンプランニングで2人、東光高岳で1人、東電物流で1人、テプコ・ソリューション・アドバンスで1人(同社の業務委託先企業の社員)の感染が確認されたことが東電への取材でわかった。

現時点で保健所から「クラスター」(集団感染事例)と認定された事例はないものの、東電ホールディングスの新潟本部(柏崎市)や東電の本社建物内にある東電フュエル&パワーでは、同じ職場に勤務する複数の社員の感染が確認されている。部署は別であるが、柏崎刈羽原子力発電所(新潟県柏崎市・刈羽村)でも、社員2人の感染が明らかになっている。

柏崎市内ではこれまで、地元の保健所によって感染が確認された5人が全員、東電関係者(うち4人が東電社員、うち1人が家族)であることが判明している。事態を重く見た櫻井雅浩・柏崎市長は4月24日付で東電ホールディングスの小早川智明社長宛てに対策強化を求める要請書を提出。同日の緊急記者会見で櫻井市長は「(東電の情報開示などの対応は)もどかしい」と苦言を呈した。

櫻井市長の指摘を踏まえ、柏崎刈羽原発では急きょ、再稼働に向けて進めている安全対策工事の8割(件数ベース)の中断を決めた。同時に、小早川社長名でグループ各社の社員宛てに「対策の強化のお願い」と題する文書を出した。

現在、もっとも懸念されているのが、電力供給の生命線である発電所の中央制御室や送配電子会社の中央給電指令所の運転員らに感染が広がる事態だ。運転員は交代勤務制となっているが、機器に精通した運転員の人数は限られており、万が一感染が発生すると、チームごと業務から離脱せざるをえなくなる可能性がある。

医療体制は十分だったのか

現時点でそうした重要業務を担う職員の感染は確認されていないものの、柏崎刈羽原発構内で2人の社員(広報および防災業務担当)の感染が確認されたことは、東電社内のみならず、立地自治体にも衝撃を与えている。

東電は、原発の中央制御室の天井の耐震化など一部の重要な工事を除き、柏崎刈羽原発構内で8割に相当する工事の中断を決めた。これに伴い、原発構内で働いていた約4000人の協力企業の作業員のうち約2700人が、ゴールデンウィーク明けの5月10日まで自宅や寮で待機することになった。

社員に対する東電の医療サポート体制も十分とは言えなかった。東電はこれまで、社員に体調把握のためのチェックシートを配布し、37.5℃以上の発熱や咳などの症状の有無を上司を通じて報告させていた。体調不良が見られる場合、本人がかかりつけの医療機関を受診するのが通例だった。

だが、体調不良が続いていたにもかかわらず、新型コロナウイルスの感染有無を判定するためのPCR検査を受けられないまま日数が経過する事例があった。

東電の柏崎市内の事業所に勤務していた50代男性社員は、保健所が運営する「帰国者・接触者相談センター」に3度にわたって相談したものの、PCR検査に必要な基準に該当していないとして、体調不良から検査までに10日もかかった。

東電によるチェックが十分でなかったと思われる事例もある。柏崎刈羽原発内で勤務する広報担当の30歳代社員は微熱があったものの、翌日に解熱したことからその後の4日間出社していた。

【2020年5月1日20時02分追記】初出時の表現の一部を見直しました。

その後、PCR検査で家族の陽性が判明したことから本人も検査を受けたところ、同じく陽性であることがわかった。この社員の場合、解熱後に本人が体調不良を感じていなかったことから上司が出社を認めていたが、その判断が妥当だったかが問われる。

経営陣のリーダーシップが問われる

櫻井市長の指摘を踏まえ、東電は柏崎刈羽原発および新潟本部(柏崎市)における対策の強化を打ち出した。工事の中断と並ぶ対策の一つが、社員向けの医療体制の強化だ。原発構内で新型コロナウイルス感染が疑われる症状があった場合、東電の産業医が診察するとともに、必要に応じて東電の健康管理室に所属する医師や看護師がPCR検査のための検体を採取する。

また、社員の行動履歴を把握するためのアンケート調査を実施するとともに、社員には家族を含めて新潟県外との往来を原則禁止とした。さらに東電では柏崎刈羽原発所長名で協力企業にも県外との往来禁止を要請した。

東電グループで判明した22人という数字は、関西電力の7人、中部電力の0人と比べても多い。感染者の個別ケースを踏まえても、これまでの東電の新型コロナウイルス対策は十分だったとは言いがたい。

東電などの電力会社は、新型コロナウイルスなど感染症対策の特措法による指定公共機関として位置付けられており、電力を安定的に供給する重責を担っている。それだけに、今こそ小早川社長を初めとした経営陣の力量が問われている。