新型コロナウイルスに端を発する景気後退によって、多くのメディア企業は緊縮経営に向かわざるをえない。ここ数週間で、何社ものパブリッシャーが一時解雇や一時帰休、減給、採用の凍結、内定の取消を発表するなど、苦渋の決断を迫られた。

一方で、攻めの採用を展開するメディア企業も少なくない。たとえば、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は全社的に新規採用を継続している。現在ある求人は174件で、うち20件は先週公開された。ワシントン・ポスト(The Washington Post)は、プロダクトデザインとエンジニアリングを中心に54人を採用する計画で、うち9件の求人は先週公開された。ブルームバーグメディア(Bloomberg Media)は、セールス、プロダクト、マーケティングの各部門で求人を行っている。また、2019年に記録的な収入増を果たしたポリティコ(Politico)は、編集スタッフを増員した。さらに、セールスフォース(Salesforce)の最高経営責任者(CEO)で億万長者のマーク・ベニオフ氏が後ろに控えるタイム誌(Time)も採用活動を活発化させている。

BBCニュース(BBC News)は、増大する新型コロナウイルス関連の報道ニーズに対応するため、450人規模の人員整理計画を保留した。また、ポリティコは、リモートワークの導入以来、全世界で在宅勤務する500人超のスタッフを統括させるため、編集部門の管理職者を少なくとも4人採用した。ただし、編集以外の部門では、対面での面接が可能になるまで、新規の採用は控えるという。

「この数週間で、我々は世界が一夜にして変貌しうることを目の当たりにした」。ポリティコでコミュニケーションとマーケティングを担当するバイスプレジデントのブラッド・デイスプリング氏はそう語る。「現状、ただちに採用する必要がある場合、あるいはぜひポリティコで働きたいという熱意ある候補者がいる場合など、すばやく動くべきときにはすばやく動くつもりだ」。

雇用に関する難しい意思決定

当然のことながら、新型コロナウイルスの世界的大流行のさなかにあって、人員を雇用するも解雇するも、それぞれの企業のビジネスモデルとバランスシートの健全性次第だ。多くのメディア企業にとって、人件費は大きなコストにちがいない。

この数週間、すべての企業が雇用に関する難しい意思決定を迫られてきた。今週に入ってからも、バッスルデジタルグループ(Bustle Digital Group)とG/Oメディアグループ(G/O Media Group)が人員の5%を一時解雇した。ストリートファッションのパブリッシャー、ハイスノバイエティ(Highsnobiety)はスタッフの25%削減に踏み切った。バイス(Vice)、グループナインメディア(Group Nine Media)、BuzzFeedなどのデジタルメディアも、先週、賃金カットを発表している。

さらに英国でも、ニュースパブリッシャーのリーチ(Reach)が1000人近いスタッフを一時帰休させ、タブロイド紙の「デイリーメール」を発行するDMGTは減給を発表した。

「この状況は単なる小休止」

ポリティコには、コーポレートアカウントが支える強力なB2B部門がある。しかも、多くの法人会員にとって、職務遂行上、必読のメディアでもある。パトリック・スティール最高経営責任者(CEO)が発信し、米DIGIDAYが目にした社内メモによれば、同社の第1四半期の収入は、法人個人の両部門で目標値を上回っている。

ニューヨーク・タイムズの広報担当者によると、同紙は採用活動を全面的にオンライン化しているという。面接は電話もしくはビデオ会議で行う。新入社員に会社、従業員、業務慣行を周知させるための研修も、新たに遠隔プログラムを開発し、自宅で受けられるようにした。

ワシントン・ポストにとって、リモート採用はいまにはじまったことではない。同紙で人事担当のバイスプレジデントを務めるウェイン・コネル氏はそう説明する。「我々は、以前から、いわゆる行動面接と技能テストをうまく掛け合わせて活用してきた。相手に直接会わないことの弊害を緩和するには、このふたつの組み合わせが重要であると繰り返し主張してきた」。

メディア企業の経営陣は、概して、大規模な人員整理は戦略的に賢明な策ではなく、あくまでも短期的な経営判断だと認めている。企業としては、景気が回復し、社会的な制限が緩和され、ウイルスが収束したときに備えて、消費者やクライアントのニーズに対応できるだけの十分な人員を確保しておきたい。だが残念ながら、長期的な戦略のために、そのような選択を行う贅沢が、すべてのパブリッシャーに許されるわけではない。

「誰もが短期的なコストを削って遣り繰りしようとしている」。そう指摘するのは、エグゼクティブサーチ(経営幹部や専門職のヘッドハンティング)を全世界的に展開するSRIで、欧州方面のメディアプラックティスを統括するアシュリン・オコナー氏だ。「長期的な視点で見るなら、メディア企業は何百年も前から存在しているし、その存在を脅かすデジタルの脅威も20年前から存在している。この状況は単なる小休止だ。ここを通り過ぎれば、D2C化とデジタルトランスフォーメーションはさらに加速していることだろう」。

ニューノーマルに対する姿勢

メディア業界では、役員クラスの人材探しはいまも進行中だ。オコナー氏のヘッドハンティング活動も、企業の経済状況がもう少し安定するまで、一部保留となっている案件はあるものの、中止された案件はひとつもない。役員や上級管理職の人材確保には、平均で4カ月から6カ月を要する。いますぐ準備に取りかかる企業は、社会的な制限が緩和され次第、すぐにも対面での面接をしたいと考えている。

「不確かさこそが難問だ。ビジネスに不可欠な人材採用であれば、クライアントは続行する」と、オコナー氏は言う。「これが新常態、いわゆるニューノーマルならば、企業は足踏みするわけにはいかない。必要なのが営業の最高責任者であろうが、財務の最高責任者であろうが、それは変わらない。この状況は一時的な混乱にすぎない」。

英国では、LinkedIn(リンクトイン)のデータを見るかぎり、メディアおよびコミュニケーション業界の雇用成長率は8.7%減で、全国平均の15%減よりはややましだ。一方、米国では、3月の採用状況は全セクターを通じて前年同月比1.1%減だが、特定の業界ではもっと深刻な数字も示された。

「いまはひたすら現実主義と熟慮のときだ」と、オコナー氏は言う。「ニーズについてじっくり考える時間があるいま、変革期にある企業にとって、CEOをリクルートする最適のタイミングかもしれない」。

LUCINDA SOUTHERN(原文 / 訳:英じゅんこ)