2020年3月18日、新型コロナウイルス陽性だと知りながら、「ウイルスをばらまいてやる」と話し、フィリピンパブを利用していた愛知県の50代の男性が死亡した。それだけではなく、「コロナビーム」と騒いだ男が逮捕されるなど、同様の事件も複数起きている。
彼らの心理状態はいったいどのようなものなのだろうか。精神科医の樺沢紫苑氏が分析する。

■自暴自棄になった人間が取る行動は2つ

「まず、感染を自覚しながらウイルスをばらまいた男性ですが、一言でいうと自暴自棄に陥ったのでしょう。相手は目に見えないウイルスなのだから、その釈然としない不安な気持ちの矛先をどこにぶつければいいかわからなかった」

新型コロナウイルス感染拡大により、閉鎖されるエリアも出てきた。(AFLO=写真)

わかりやすく説明すれば、動物が天敵と遭遇したときに分泌されるノルアドレナリンという物質が不安の原因だ。戦うか逃げるか、どちらかを選ばないと死ぬ。そのため、脳がすぐに行動しろという指令を出す。

「私が見てきた患者さんでも多いのが、『不安が治まりません』という人ほどなにも行動を起こしていません。家にこもってどうしようと考えているから、余計不安になっていく。なにかに対し、一心不乱に行動をしていれば、不安というものは消えていきます。いまの状況も同じです。自分でできることといえば、手洗い・うがいと外出しないことくらいで、基本的にありません。なにも行動できないことがどんどん不安を大きくしてしまうのです」

男性は新型コロナウイルスの陽性判明後、保健所から自宅待機を要請されていた。治療もできないうえに、なにも行動が取れず、不安が増長していったと考えられる。

また樺沢氏は、「極端な話、自暴自棄になった人間が取る行動は自傷か他傷の2つに絞られる」と話す。人間は、不安・焦燥・怒りの感情が急激に高まったときに、それを抑える方法がほかに浮かばなくなってしまうのだ。リストカットを例に見るとわかりやすい。本当に死にたいと思って手首を切っているのではなく、なにか行動を起こすことによって不安を鎮めているのだ。

■コロナビームはただの冗談

「コロナビーム」に関しては、ウイルスに感染していないにもかかわらず陽性を装い、公共に迷惑をかけ逮捕されるケースが相次いでいる。こちらは愉快犯(自分の行為で世間が慌てふためき、大きく騒がれる様子を見たいがためにする迷惑行為)であると予想できるが、樺沢氏は「それは少し違う」と分析する。

「本人にとっては単なる冗談にすぎないはずです。『こんなこと言ったら驚くんじゃないの』といった程度の短絡的な発想であり、ツイッターのバカッター投稿と同じ心理でしょう。これほど大事になるとは思っていなかったでしょうし、大事にしたかったわけでもない。まして逮捕されるなど想定外だったでしょう。おそらく、本人が一番驚いているのではないでしょうか」

目立ちたいという承認欲求でもなければ、ムシャクシャしてやったというわけでもない。周囲の人間にとっては迷惑でしかないが、本人にとってはあくまで「冗談」なのだという。

「想像力が著しく欠如しているのです。常識で考えれば、このご時世にどんなことが起こるのかわかるはずなのですが、それができない。後のことなどまったくといっていいほど考えていない。その瞬間に面白いことを思いついたので言ってみた、というまでです」

同月16日には、新型コロナウイルスに感染したと偽り、ライブイベントに参加するとツイッターに投稿後、「コロナから復帰しました。行きマウス」と再度投稿した男が偽計業務妨害の疑いで逮捕された。「感染はうそでした」と釈明し、逮捕後の調べで「後先考えず投稿してしまった」と供述している。

「この男性も、逮捕されるくらいの覚悟を持って犯行には及んでいない。ライブ会場を本当に困らせようとは思っていないので、愉快犯とはいえないでしょう」

冗談にも程があるとはまさにこのことだ。

(プレジデント編集部)