日本酒を醸造する酒蔵の業績が持ち直しつつある

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 国内で進む人口減や若者のアルコール離れ。こうした悪条件下のさなか、ブームで持ち直した焼酎やウィスキーとは対照的に苦戦してきた日本酒。しかし、近年日本酒を醸造する酒蔵では、密かに業績が持ち直しつつある。

 帝国データバンクの調べでは、日本酒を醸造する全国の「酒蔵」約1千社における、2018年の売上高合計は約4379億円。4年連続で減少したものの、大きな落ち込み幅を見せた2000年代に比べると、その減少幅は緩やかだ。各社の業績動向を見ても、「増収」とした酒蔵の割合こそ約2割にとどまるものの、業況を維持した「横ばい」は約5割に迫り、2000年以降で最高となっている。

 国内アルコール市場が低迷傾向にあるなど、依然として逆風が強い日本酒業界。それにも関わらず業績悪化に歯止めが掛かりつつある背景には、旺盛な海外需要の獲得と、品質志向へのシフトが一定の成果を上げたことが背景にあるようだ。

「プレミアム化」へのトレンド変化で単価アップ、 海外市場の拡大も追い風に

 国税庁によれば、2017年の国内清酒(日本酒)出荷量は52.6万kl。ピーク時の1975年(167.5万kl)から3分の1以下にとどまっている。ビール類なども総じて減少傾向にあるものの、「日本酒離れ」には歯止めが掛からない。

 対照的に、蓋をあけてすぐに飲める、缶チューハイなど「RTD飲料」の原料として多く使われるウォッカなどリキュール類の出荷量は近年急速に増加。2017年は264万klに達し、酒類販売量全体の3割を超える好調ぶりだ。RTD飲料は近年「ストロング系」に代表される、アルコール度数が9%にも達する缶チューハイの需要が急速に増加。ビール類や蒸留酒などに比べ、安価で手軽に酔える点が若年層をはじめ幅広い世代に支持されたためだ。こうした「コスパの高い」酒類に、一般消費者や飲食事業者の国内需要が流出している点が、日本酒にとって大きな弱点となっていた。
 こうした逆風下で各酒蔵が取り組みを進めてきたのが、日本酒の「プレミアム化」による単価アップだ。国税庁によれば、日本酒全体の出荷量が落ち込むなか、吟醸酒や純米吟醸酒など特定名称酒の出荷量が占める割合は相対的に拡大傾向を辿っている。1988年には約3%だった特定名称酒のシェアは30年間で約7倍に拡大。17年で34.6%を占め、同期間で2倍超に拡大した。

 特定名称酒市場では、一般的な普通酒と比べ、中〜高価格帯の商品が主戦場となる。販売量の減少を1本あたりの価格アップで補えるため、技術や味に自信を持つ中小酒蔵にとっては、品質重視へのトレンドの変化は大きなプラス要素になる。

 実際に、銘柄のブランド価値が市場に認められ、プレミアム化に成功したことが増収要因となった中小酒蔵の事例は多い。東北地方の酒蔵では、自社醸造の純米酒が日本酒コンテストで上位入賞したことをきっかけに引き合いが増加。別の酒蔵では、自社銘柄の純米大吟醸がヒット商品となり、業績の底上げにつながった。

 二つ目の取り組みは海外市場への進出だ。100兆円を超えるとされる世界のアルコール市場の中で、日本酒市場のシェアは約4000億円と1%未満にも満たず、その多くが国内消費で占められる。他方で、近年は和食ブームに伴い海外で日本独自の「SAKE」が注目を浴び、欧州ではワイン同様の評価を集めるケースもある。

 こうしたなか、2018年の清酒出荷量は約2万5千kl、前年度比1割増で過去最高を更新。輸出金額は222億円で同2割も増えるなど、海外市場は拡大が続いている。

 プレミアム化と輸出強化―二つの取り組みが奏功し、業績悪化に歯止めが掛かりつつある要因の一つとなっている。

プレミアム化や海外市場開拓で更なる販売増に期待  “オンリーワン”武器に需要取り込む中小酒蔵も

 こうした日本酒マーケットの変化に、酒蔵各社も敏感に反応している。最大手の白鶴酒造(兵庫)は、大吟醸や山田錦ベースの日本酒など「プレミアム群」の商品展開を進める。業界中堅の永井酒造(群馬)は、日本古来の純米酒製法にこだわったスパークリング清酒を完成。また、和食だけでなく、世界のコース料理に合わせて「米の酒」を提供する“ナガイスイタイル”を貫き、日本酒への新たなアプローチを消費者に提案する。その銘柄ならではの「オンリーワン」を武器に新たな需要を取り込むことで、一層のシェア拡大を狙っている。

 ただ、中小零細酒蔵の中には海外での販売活動に明るい人材が不足するなど課題も残り、海外販売支援が欠かせないケースもある。こうしたなか、政府は輸出用の日本酒ボトルに貼る、味や産地、最適な温度などを示すラベルの参考案を公表。2020年度の与党税制改正大綱には、輸出メインの日本酒醸造に限り、新規参入を認める規制緩和や酒税法改正も視野に入れた、官民一体での日本酒産業活性化を全面的に支援する。

 産地ごとに多種多様な香りや風味が楽しめる日本酒。これまで国内で低迷を続けた日本酒が個性あふれる日本の「SAKE」として、世界のアルコール市場にどこまで風穴を空けることができるか。世界に挑む中小酒蔵の戦略が注目される。