「ハレー彗星の接近で大変なことになる!」明治時代の日本で、デマの恐ろしさに自殺した人までいた

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デマは時として人命まで奪う。ハレー彗星で自殺者が?

新型コロナウイルスの流行拡大が深刻なことになっていますが、人々の間に広まる「デマ」の流行もかなり深刻なことになってきているようです。

デマを信じている人たちは恐怖もあってか、デマを否定されると突然攻撃的になり、相手をネット上で名指しであり得ないほど叩くような行動に出る場合すらあります。

筆者がこのようにデマに覆いつくされていく日本を不安に思うことには、理由があります。1910(明治43)年のハレー彗星接近の際にも様々なデマが流れたことは「新型肺炎のデマで混乱…。日本における過去の有事で流れた「とんでもないデマ」」でも述べましたが、このときなんと日本国内にはハレー彗星怖さに自殺した人まで現れたというのです!

なぜハレー彗星で自殺!?まさかの事件の真相

ハレー彗星怖さに自殺した人がそこまで追い詰められた原因は、やはり「デマ」でした。

それまでにもハレー彗星は何度か地球に接近したことがありました。明治以前だと、新選組副長・土方歳三や慶應義塾大学の創設者・福沢諭吉、坂本竜馬などが誕生した1835(天保6)年にも、ハレー彗星は観測されています。

しかし1910(明治43)年のハレー彗星は、それまでと比べてかなり地球に接近したため、まず「地球に衝突するのではないか?」という噂が流れました。

また彗星の尾の部分には猛毒のシアン化合物が含まれていることがフランスの科学者によって明らかとなり、そこから
・尾に含まれる毒により、地球上の生物は全て窒息死する
・彗星が地球にぶつかって地球が割れ、海の水が全て流れ落ちる
・地球上の空気が5分間ほどなくなる
などの噂も流れたのです。

それを聞いた独り者のお婆さんが
「生き長らへても恐ろしい目を見るばかり」
と思ったらしく、首をつって死んでしまったという悲しい記録が、内田百輭の随筆『箒星(ほうきぼし)』の中に残されています。

実際のハレー彗星はどのくらい危険だったの?真相はいかに!?

このように、日本と世界を恐怖とデマで覆いつくしたハレー彗星ですが、実際の地球接近の際の危険度はどのくらいだったのでしょう?

結論から言えば、彗星の尾のガスは非常に薄くて軽いガス体のため、尾の中を地球が通過してもシアン化合物は何倍も密度の高い地球の大気に阻まれ、それを破って地表に到達することはできなかったのです。

だから地球の生命体には、何の影響もありませんでした。

この解説を掲載していた新聞には「珍談奇談」や「警告読み物」も載っていたため、真面目な解説が「安全デマ」のように受け取られてしまったのです。

私たちにも、なんだか耳が痛い話です。

『ドラえもん』の『ハリーのしっぽ(てんとう虫コミックス第33巻収録)』で自転車のチューブを買い占め、チューブ内に溜めた空気を吸って空気がなくなる5分間を生き延びようとしたスネ夫の先祖も、彗星通過の後は大量のチューブに囲まれ途方に暮れていたかもしれませんね。

参考:ザ・歴史トリビア―明治・大正・昭和のへぇー100連発/西沢教夫