鳴海サキ(仮名)は、20歳の現役大学生だが、山手線の内側で「リフレ店」を経営した経験がある。「リフレ」とは若い女性が密室で男性にマッサージをするという体裁を取りつつ、「裏オプ」と呼ばれる性風俗サービスを行う場合もある店だ。なぜ彼女はそのような店の経営に関わるようになったのか。そこで分かった「リフレ」の実態とは――。
写真=iStock.com/Sebastian Kropp
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■15歳で夜の新宿へ

小学校から高校まで、都内の一貫校に通っていた私。周囲の人は上昇志向が高く、高校一年から大学受験を意識する同級生が多かった。だが私は、「勉強していい大学に行かないと」「そのためには今はやりたくない勉強を頑張る」という周りの空気になじめずにいた。

高校の空気の居心地が悪く、授業はサボり気味。学外の友達とよく遊んでいた。外の世界をもっと知りたくて、高校1年の大晦日、友達と新宿・歌舞伎町に繰り出した。「高校生」という肩書を捨てて、ただの「お姉さん」として、バックグラウンドや肩書を気にせず接してくれる夜の人たちが好きになった。

高校で今やりたいことを我慢して、「やりたい研究や勉強はないけど、とりあえずいい大学に行った方がいい将来があるから」なんて言って勉強している学校の子たちよりも、「あのホストをナンバーワンにしたい」「貯金してお店を開きたい」という確固たる目標があって毎日を生きている夜の人たちの方が、当時の私にはキラキラして見えた。

当時の私は風俗の平均的な収入も、お客さんが払った金額のうち何割がお店に入るのかも知らなかった。けれど、漠然と「店のスタッフがウザイ」「イマイチ稼げない」などの愚痴を聞いていて、「女の子が働きやすい店を作ってみたいな」なんて漠然と考えていた。

■ひょんなことから経営者に

大学に入り、周りにも研究テーマとして性産業やそこにまつわる社会学に興味があると公言していた。そんな折、たまたま知人から「新しくリフレを出店するから、一緒にやらないか」と誘いを受けることとなった。そして私は、「リフレ」という業種を知る。

リフレとは、若い女の子(18歳〜20歳が最も多く、見た目が幼くみえるほど需要が高い)から密室空間でマッサージを受けられるというコンセプトの癒やしサービスだ。基本プレイは店舗によって異なるが、マッサージのみとする店が多く、客から嬢(女性従業員)に触れることは一切できないなど多くのルールがある。

店舗型リフレと派遣型リフレという2種類の業種があるが、私が誘われたのは派遣型リフレだった。派遣型であれば、店舗を構える必要がなく、初期費用を格段に抑えることができるからだ。またリフレであれば、デリヘルと異なりツイッターで集客できるため、大手風俗情報サイトに掲載料を支払う必要がない。この点でも初期費用を抑えられる。

■客の期待を煽るツイッターの宣伝文句

実際、開業にあたり使用したオフィスは2畳に満たない部屋。家賃は月々4万に満たない。風俗店舗として使用できるレンタルオフィスを押さえた。家賃と開業届、ウェブサイトのドメイン費用が初期コストで、合計15万円ほどだった。

集客はツイッター。JKビジネスと隣り合わせのリフレ業界は、NGワードに引っかからないよう注意しながら、それとなく違法な感じを漂わせる。「今なら特別サービスが!」「超絶ロリっ子」といった調子である。

「この店ならアンダー(18歳未満の女性従業員)がいるかも……」といった期待を煽るには、ある程度怪しい宣伝文句がうってつけなのだ。デリヘルでは難しくても、リフレならアンダーがいるかもしれない……という期待を抱く客はいる。わかってはいたが、実際に電話で「13歳いますか?」という問い合わせを受けたときは衝撃を受けた。

■開業届をデリヘルと同じ形態で出した理由は…

料金システムはマッサージ料金が60分で7000円、うち嬢の取り分が3000円。それ以上の行為によるオプション代はすべて嬢の取り分になるという価格設定だった。「オプション」には「ハグで1000円」「膝枕で2000円」という値段がついている。嬢によっては、「ハグとキスセットでし放題で5000円」などと組み合わせて客に交渉することもできる。

中には「裏オプ」をつくる嬢もいる。いわゆる性的なサービスの提供だ。「裏」といいながら、店側も存在はわかっている。ただし店側は「知らぬ体」を徹底する仕組みになっている。

開業届はデリヘルと同じ「無店舗型性風俗特殊営業」の許可を申請していた。性的サービスを一切提供しない場合は、この営業許可を取る必要はない。しかし、風営法に抵触する「異性の客の性的好奇心に応じてその客に接客する役務を提供する営業」をしているのなら届け出の必要性がある。

■個人の交渉力がモノを言う業務

リフレとデリヘルの最大の違いは「基本プレイの少なさ」にある。オプションは「私これやってないんですよ」と言えば回避できるので、提供する客を嬢が選ぶことができる。このため「風俗より楽でソフト」というイメージがあり、女の子が流入してきやすい。

「風俗はちょっと……でもキャバクラとかじゃ稼げないし」という女の子に対して、「嫌なお客さんは断れるし、デリヘルみたいにガッツリサービスしなくても手軽に稼げるよ!」という文言で誘う。女の子が実際に入店をして接客をすると、最初は知らないオジサンに「ハグをされる」だけでも嫌だったのが、だんだんとお金をもらっていくことで擦れていき、割り切れるようになっていく。

そうして徐々に慣れたタイミングで「裏オプ」の誘いに乗る子が多い。デリヘルのようにいきなりハードな性サービスをしなくていいとはいえ、「女性性を売る」ことに変わりない。徐々に慣れていくことで、性サービスに対するハードルが下がりやすくなるようだ。

また客も、「素人とイケナイことをする」というスリルが通う動機になっているパターンが多く、嬢の収入もデリヘルより高額になるケースが多発する。その一方、交渉が下手な女の子は安く買いたたかれてしまうため、収入の多寡は個人の力量によって大きく変わる。

■キャストに寄り添い「働きやすい店」を目指した

事務作業やサイトの更新は共同経営者の仕事、女の子のメンタルケアや稼ぎ方の相談に乗ること、サイトのデザイン制作などは私の仕事だった。共通の業務としては、女の子の送り迎えやキャストおよび顧客の集客があった。「女の子が働きやすい店づくり」を目指していた私は、男性には相談しづらいようなセンシティブな悩みを、友達のような感覚で聞いていた。

そうして始めた店は比較的女の子が長期で在籍してくれるようになり、まずまずの売り上げがあった。オープンからずっと働いている子もいたし、他の風俗店に勤めつつも空き時間に出勤してくれる子もいた。

女の子が店を辞める理由は、主に「お金を稼がなくてよくなった」「今の稼ぎに満足していない」「お店が嫌い」などだった。他店で働く女の子から、「稼げるけどスタッフのセクハラが嫌だ」といったボヤキを聞いていたので、店での居心地をよくすることは常に心がけていた。

■経営の仕事に圧迫され、精神的に追い詰められる

基本的に休みなく、共同経営者の知人やキャストの女の子と常に仕事の連絡を取り続ける。昼間は大学の授業に出席し、放課後はリフレの業務にいそしむ。仕事の連絡を取らない日は1日もないという月が続いた。

ミスをすると年上の共同経営者に淡々と責められ、「休めない、ミスができない」という強迫観念にさいなまれた。被害妄想が加速し、精神的に仕事を続けるのが困難になった。仕事の電話が来ると過呼吸が起きる。精神科を受診したところ、適応障害と診断された。

そこから仲介人を挟み、共同経営者と話し合ったうえで、私はリフレの経営から抜けた。精神的療養も含めて、大学を休学した。その間に一種の療養手段としてホスト遊びにハマった訳だが、それはまた別の話。

■突然舞い込んできた衝撃のニュース

休養してしばらくたった後、衝撃のニュースを知る。共同経営者が逮捕されたのだ。そのリフレ店で17歳を雇ったという内容だった。私と彼がそれぞれスカウトしていた女の子がいたが、私は自分のスカウトした女の子の年齢しか確認していなかった。

摘発のきっかけになった17歳のキャストを雇ったのは、私が辞めた後だった。しかし自分がいた頃から働いていたほかの元キャストに話を聞いたところ、「当時自分も17歳だった」と話す子がいてショックを受けた。

雇ったことには関与していないし、逮捕のニュースが流れるまでその事実を知らなかった。とはいえ、日頃から女の子と接していた自分がその事実に気づけなかったことにショックを受けたし、倫理感に欠ける店の経営に携わってしまったことは、深く反省している。

共同経営者の逮捕を機にそのリフレ店は閉店した。「夜のお店」の営業にはグレーな部分が多い。経営に関わるにあたっては、法令遵守の意識を欠いてはいけないと痛感した出来事だった。

■「私って汚いよね、何してるんだろう」

リフレで働いていた女の子は、本当にいろんな子がいた。キャバクラで働いていたけれど、ホストに貢ぐためにリフレに足を踏み入れた子。そこで「慣れた」のか、いつの間にかソープ嬢に転身していた。毎回予約が完売する人気嬢だったあの子は、稼いだお金で整形してさらにかわいくなった。

軽い気持ちで初めて、いつしか擦れていく女の子たちがいた。私自身、若さはお金になること、女性性は売れることを知っていたし、お金を稼ぐには「そういうこと」をするのがいつしか普通になってきていた。

ある時、処女の女の子が入店してきた。「デリヘルだと性器を触られるから」と選んだリフレ。その子が初めてのお客さんを接客した後、私に泣きながら電話を掛けてきた。

「私、初めて好きじゃない男の人とキスをした」「私って汚いよね、何してるんだろう。バカみたい」電話を受けてハッとした。最初から平気で働ける女の子などいないのだ。

■夜職で頑張る女の子の背中を押したい

徐々に、徐々に感覚がマヒしていく。消費されていく。だけど、そんな擦れた彼女たちは稼げるようになると少し自信がつくようだった。「指名」されるというのは選ばれること。たくさん稼げるのはそれだけ価値があるということ。キャバクラ時代は売り上げも全然なかった女の子が、リフレに転身したら人気になって数倍稼げるようになった。彼女は私に「働かせてくれてありがとう」と言ってくれた。

若い女の子が大金を稼ぐ手段の1つが夜職だ。せっかくその世界に入って頑張ると決めたのなら、1円でも多く稼いでほしいというのが私の考えだ。かわいくなるためだったり、夢をつかむためだったり、大好きな人の笑顔を見るためだったり。理由はそれぞれだが、働いてくれた女の子が幸せになってくれることを私は祈っている。

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鳴海 サキ(なるみ・さき)
大学生
2000年、東京生まれ。小学校から高校までを都内の一貫校で過ごす。窮屈な毎日に嫌気が差し、高校1年生の大晦日に初めて歌舞伎町に足を踏み入れる。以来、歌舞伎町で働く夜職の人々に惹かれ、自身も一通りの職種を経験し、リフレを経営した経験もある。歌舞伎町で幅広い人脈を持ち、大学では性産業の社会学を専攻している。
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(大学生 鳴海 サキ)