新産業や新規事業の開発など新たなオープンイノベーション型価値創造を狙う、新産業共創スタジオによるネットワーキングイベント「INDUSTRY-UP DAY 2020 SPRING」が2月12日、東京都・日比谷で開催された。

この日は6つの新産業プロジェクトでセッションが行われ、プロジェクトへの参画を考えるビジネスパーソンらで賑わった。本記事では、美容サービス業界に関わる経営者や識者が登壇した、ビューティインテグレーション産業のセッションの模様をレポートする。

「INDUSTRY-UP DAY 2020 SPRING」が東京都・日比谷で開催


会場では、ビューティインテグレーション産業のほかにも、ユビキタスヘルスケア産業、フィッシュファーム産業、ハピネスキャピタル産業、共感トラベル産業、リジェネレーティブフードシステム産業のセッションも開催。新産業スタジオでは、個社の限界を超えた目的、チーム、事業作りを実現し、目的共創を通じてスケーラブルな事業を生み出すことを目指している。その目的を共にするべく参画するスタジオパートナーを、新産業共創スタジオでは求めているという。

○美容サービス業界の課題とは

まずは、現状の美容サービス業界の現状について、このセッションのモデレーターで、新産業共創スタジオを運営するSUNDREDの留目真伸代表取締役より解説があった。

モデレーターを務めた留目真伸氏(SUNDRED)


美容室は現在24万軒ほどあるが、美容師の平均年収は270万円ほど。離職率は1年で50%、3年で80%、5年で92%と非常に高く、劣悪な環境となってしまっている。一方で、1〜3カ月に1度、サロンで数時間の施術を行うという濃密な関係性はほかに類を見ない顧客設定であり、美容との隣接業界も多いため、今後のアップデートの可能性のある分野でもあるという。

古木数馬氏(LiME)


自身も美容師として働いた経験を持ち、現在は美容師のカルテ管理アプリの提供などを手掛けるLiMEの古木数馬代表取締役は、「劣悪な職場環境は自分自身も経験してきたが、サロンだけが悪いわけではない。美容サービス業界の構造上の問題がある」と語り、オペレーションの効率化などの必要性があると指摘した。

また、美容サービス業界は情報が均一化されておらず、広告モデルに頼った情報発信が基本となっているため、資本の大きなサロンが目立つ形になってしまう。そのため、小さなサロンが競争の中で表面化しないという問題があるという。

北村嘉崇氏(HuBeauuu)


さらに、美容室のCSOを務めたことのある北村嘉崇氏(HuBeauuu代表取締役)は「クーポンサービスの台頭で美容サロンの価格が低価格になり、顧客も安かろう悪かろうと期待値が下がっている」と分析。むしろ、価格帯を上げ、クオリティを求めるニーズへのサービス展開が必要ではないかと解説した。

徳田充孝氏(ダイアナ)


顧客のニーズについて、補正下着や化粧品、ヘアケア商品などを扱うダイアナの徳田充孝代表取締役社長は、「きれいになりたい、健康になりたい、というニーズは変わらない」と話す。さらに「コンビニがそうだったように、生活を変えるような変化が必要。新産業を作るには業態を変えるしかない」と語り、今後の業界の発展のためには大きな転換が求められることを示した。

平澤伸浩氏(ロート製薬・アノマリー)


とはいえ「サロンがコンビニのようになりたいのか、と聞かれれば、みなさん違うと答えると思う」と話すのは、ロート製薬 事業戦略部長兼アノマリー代表取締役の平澤伸浩氏だ。

「美容室が24万軒あり、信号機19万よりもはるかに多い。業態変換といっても、美容サロンは1対1の業態が魅力的なのであって、そこは大事にしないといけない」と述べ、美容サロンならではの魅力も考えていくべきだと意見した。これには、コンビニなどフランチャイズ展開する業態では、近年問題が多発しており、その仕組みでも疲弊している現状が見て取れると、同意の声が上がっていた。

金山宇伴氏(明治大学リバティアカデミー)


美容業界のリカレント教育制度などに詳しく、受託研修なども行っている明治大学リバティアカデミーの金山宇伴講師も、美容サービス業界を「意欲的な市場」と評価する。一方で、「いいものがあったとしても内製化しすぎる傾向にあり、連携が重要」と述べ、業界としての意識改革が必要だと訴えた。

○美容サービス産業はカウンセリングに大きな価値

日高圭悟氏(中小企業庁)


一方、官公庁の立場から「地方における経営者の世代交代が進んでいない」と、業界の問題点を指摘したのは、中小企業庁財務課統括補佐の日高圭悟氏。

美容サロンは小規模事業のため、どうしても生産性が低くなってしまう。地方では後継者のいないサロンが多数あり、世代交代を迫られているが、それをいかに集約していくかが課題となる。しかしながら、美容サロンは生活密着型で完全オーダーの稀有な業態。五輪関連で海外からの来訪者も多くなる今年、海外に向けたコンテンツとしての可能性もあると考えているという。

美容サービス業界の目指す形について、さまざまな意見交換が行われた


平澤氏は、美容市場の成長の見込みについて、次のように述べた。

「ヘアケアマーケットとしては、ドラッグストアなどの市場は4,500億円。サロンでの物販は1,400億円と言われています。ドラッグストアなどでヘアケア用品を買っている人が5%サロンで買うだけで、2桁水準の伸びとなるため、勝機があると思っている。しっかりとカウンセリングを受けてサロンでヘアケア用品を購入すれば、自分にぴったりのものを得られるというのは大きな提案となる」

平澤氏は現在、AIを用いたパーソナライズヘアケア事業を展開している。ヘアケア用品は、必ずカウンセリングしないと購入できない仕組みとなっており、カウンセリングこそ重要コンテンツであり、現在評価が高まっている部分だという。

また、製薬会社という立場から「ただ“健康になろう"と提案するだけでは消費活動につながりにくいが、“きれいになろう"は消費者の動機になる」と話し、「きれいになろう」「話を聞いてもらおう」「空間が心地よい」と思える女性のためのヘルスケアステーションとしてのニーズがあるとにらむ。

そういう意味で東京と地方とで大きな乖離はあるものの、金山氏からは、美容サロンの社会的意義を広げていくことが、業界創生の方向性となるのではないかとの考えも示された。

「目的のためには社会を見た方がいい。地域の抱える課題を美容室で解決できるように、"目指せ街の保健室"といった感じではないか。訪問美容など美容サービスが社会の解決策にもなるし、家族の悩みなどのヘルスカウンセリングにこそ価値がある」

徳田氏も「美容師は美容技術のスキルがありながら、カウンセリングで顧客に寄り添えるような存在を目指すべきで、その中心人物を業界は求めている」と述べ、業界のイノベーションを起こすために、それをけん引するような存在の必要性を強調した。

今後、美容サービス業界がどのようにステップを進め、変化していくのか、大いに期待したい。