年々高まっていく喪中見舞いのニーズ(写真:YUMIK/PIXTA)

11月中旬をすぎたあたりから、各家庭に喪中はがき(年賀欠礼状)が届くようになります。吉永光彦さん(仮名、55歳)は、ここ数年、届いた喪中はがきに対して、インターネットで「喪中見舞い」を贈るようになりました。

「一昨年までは、喪中見舞いにお線香付きの電報を送っていたんですが、昨年からお菓子にしました。お菓子のほうが宗教・宗派問わず、選択肢も多いので」

吉永さんが喪中見舞いを送るようになったのは4年前、父親が亡くなった年からです。喪中はがきを出したところ、友人から喪中見舞いという形でお線香が送られてきたことがきっかけでした。

「葬儀は近親者のみで行ったので、あえて訃報を友人には知らせていなかったんです。喪中はがきで父の死を知って、お線香を送ってくれたんですね。すごくうれしかったです。その友人のことは父もよく知っていましたから、きっとあちらの世界でも喜んでいると思います」

それまでは「あえて訃報を知らせなかった人に対して、わざわざ連絡するのはかえって迷惑なのでは」と気を遣っていましたが、故人や喪主と親しい間柄であれば、率直に弔意を伝えてもよいのでは、と思うようになった吉永さん。「気負わず受け取ってもらえるよう、喪中見舞いに高額商品は選びません。故人とのご縁に感謝する気持ちで送っています」と語ります。

年々ニーズ高まる「喪中見舞い」

喪中見舞いのニーズが高まったのは、つい最近のことです。かつては喪中はがきが届いたら、遺族の方にどう弔意を伝えたらよいか悩む人は少なくありませんでした。

一般的には、喪中はがきが届いたら、年賀状の送付は控え、正月明け「松の内」(1月7日、もしくは15日)をすぎたあたりで「寒中見舞」として季節の挨拶状を出し、そこにお悔みの気持ちを添えるという人が多いのではないでしょうか。

しかし、年を明けるのを待たずに一刻も早くお悔みを伝えたいという人もいます。電話やメール、最近ではSNSなどで伝えることもできますが、より丁寧な形で弔意の気持ちを表現したいという人もいるでしょう。

そんな声を受けて、近年、喪中見舞いという新しい文化が誕生したわけです。

喪中見舞いのルーツを明かす前に、「喪中」について整理しておきたいと思います。似たような言葉に「忌中(きちゅう)」があり、明確に区別せず使われていますが、「喪中」と「忌中」の意味は基本的には異なります。

「忌中」とは神道でいう「ケガレ(穢れ、気枯れ、気離れ)」の期間のこと。一定期間の忌み籠り(いみごもり)の状態が終了し、忌みが明けることを忌明けと言いますが、その一定期間については、現代の神道では五十日間、仏教では四十九日間と一般的に捉えられています。昔の人はその間、出仕(仕事)を控え、殺生をせず、ひげを剃らず、神社に参拝しないで静かにすごしていたようです。

一方、喪中は「死者をしのぶ期間」であると言われています。故人のことを思い、通常の生活に戻るために少しずつ気持ちを慣らしていく期間のことで、近親者は喪服を着用し、できるだけ外出を控えてすごすべきとされていました。

喪中の範囲と期間については、地域や時代によって異なり、現代では明確に定義されていません。地域の慣習や、各家庭の事情、故人との関係によって異なり、近親者は没後6カ月から13カ月程度を喪中とするケースが多く、喪中はがきを出すかどうかもその状況によって判断します。

近親者を亡くしたときは、喪に服しているということをお知らせする意味で、年賀状を出すのを控え、その代わりに喪中はがきを送る習慣が戦後急速に広まりました。

喪中はがきで「故人の死」を知る人も

最近では、喪中はがきが届いて、初めて訃報を知るというケースが珍しくありません。家族が故人の交友関係のすべてを把握しているとも限りませんから、その中には「お別れをしたかった」「お悔みを述べたい」という人もいるでしょう。

前述の吉永さんも、「この歳になると、友人の親世代の訃報が毎年のようにある。喪中はがきで訃報を知るのは寂しいけれど、自分ができる範囲で感謝を伝えたい。喪中見舞いはご縁を再確認するいい機会だと思う」と語ります。

喪中見舞いの仕掛け人は、お線香で有名な日本香堂。線香市場は2003年の758万kgの出荷総数から年々減少し、2017年には505万kgまで減少しています。お線香を販売している仏壇・仏具店も、1994年の3669億円をピークに2016年は1794億円と大幅に減少。線香市場は先細りの傾向がありました。

各メーカーは煙や香りを抑えた「微煙」「微香」商品や、ラベンダーやバラの香りが漂う「アロマ香」などを投入し、市場の縮小化を避けようと懸命に新商品の開発に挑んでいますが、決定打はありません。

そんな中、近年はその減少幅が鈍化しています。日本香堂が「喪中はがきが届いたら」というキャンペーンを開始し、贈答用お線香のCMを流しはじめました。これに勢いがついたのが2013年から日本香堂と日本郵便がコラボレーションした喪中見舞いキャンペーンです。

日本郵便がラインナップした商品は喪中見舞いはがきのほか、お線香とお悔みカードをセットにしたもので、それぞれ切手を貼るだけで送ることができる手軽な商品ということもあって注目を集めました。

贈答用お線香から端を発した喪中見舞いは、電報サービスに広がり、弔電メッセージとお線香やお花をセットにした商品の開発が進みました。さらにカタログギフトや花キューピッドなど、さまざまな分野に広がり、認知度もアップしています。

少し前の調査にはなりますが、2014年の日本香堂の調査によると、喪中見舞いという言葉の認知度は4割強。さらに知っている人の4割近くが喪中見舞いの贈答経験ありと回答しています。

「喪中用おせち」まで登場

また、食の分野でも、「喪中」をテーマにした商品が出始めています。その代表が、「喪中用のおせち料理」です。

おせち料理は、祭礼など特別な時間と空間を意味する「ハレ」の時に振る舞われる料理ですから、「ケ」である喪中時に食することについては賛否あります。しかし最近では、家庭内で食する程度であれば、あまり気にしないという人が多くなっているような気がします。

さらに年々、日本の死亡者数≒喪中人口が増えているわけです。おせち料理販売業者としては、わざわざ売れ行きに水を差すまねはしたくないでしょう。

喪中用をアピールするためか、紅白や縁起物の食材を避けたり、飾りつけをシンプルにするなど工夫を凝らしたおせち料理を市販する業者まで出てきています。そうは言っても喪中用とは名ばかりで、実際の商品は色どり豊かでお祝い膳にしか見えないものがほとんど。喪中おせち料理が新潮流となるのかは、今後のラインナップ次第でしょう。