■上司・同僚が自分より低学歴

学歴は多くの人にとって、程度の差こそあれ関心事の1つでしょう。世の中ではやはり高学歴の人ほど一目置かれるのは確かです。その結果、学歴コンプレックスを抱く人が出てきます。

人は誰でも「自己評価動機」を持っていて、自分を他人と比べて能力などを自己評価したいという気持ちがあります。自分の位置づけがわからないと不安だからです。その自己評価の軸は1つではなく、人柄や人望、仕事力などいろいろありますが、それらははっきり目に見えない。それに対して学歴は客観的ではっきりしているので、評価軸として非常にわかりやすいのです。

心理学用語で「対人認知」といいますが、人は他人を見るとき、「人間関係軸」と「能力軸」の2つの軸を使います。そして、その人の能力を判断する際、誰もが納得しやすい指標がやはり学歴なのです。学歴を見て「たぶん頭がいいだろう」とか、「それほどでもないだろう」と考える。

そして、職場で学歴コンプレックスの強い人が、高学歴の人の些細なミスに対して、「東大卒でもそんな間違いをするんだね」などと嫌みをいったり、うれしそうな表情をしたりして失敗を喜ぶ。周囲からすると非常に見苦しくてカッコ悪い行為なのですが、コンプレックスは無意識のうちに人を動かすので、本人はそれに気づきません。

また、コンプレックスに動かされると、人は「自己モニタリング」ができなくなります。これは、モニターカメラで自分自身を監視し、周囲の反応などを見ながら自分の言動をコントロールする心理的な機能です。ところが、強いコンプレックスに駆られると機能不全に陥り、先のような見苦しい態度や姿を平気でさらしてしまうわけです。

■鏡映自己で自信を高める

実は、高学歴の人が学歴をひけらかすのもコンプレックスの表れです。自分に本当の自信がなく、勉強に励んだ人は、学歴をひけらかさずにいられません。ちなみに、いまの若い世代は先々に対する冷めた考えを持ち、「学歴なんか意味がない」と達観しているように見えますが、大学や大学院の教壇に立っている私の実感からすると、学歴コンプレックスは根強くあります。

あなたが高学歴で、上司や同僚から嫉妬されている場合、一番いい対処法は“大人の対応”に徹することです。相手は学歴コンプレックスに苦しんでいるわけで、「学歴で優位な立場にある自分が、少しくらい嫌な思いをするのも仕方ないよな」と鷹揚に構えましょう。そして先のようなケースでは、「こんなミスをして申し訳ありません」と頭を下げてしまうのです。

また、学歴に振り回されないためには、それ以外で自信が持てる評価軸を確立しましょう。「誰とでも仲よくなれる」「取引先にかわいがられる」などは、ビジネスで大きな強みになります。でも、そうした評価軸を自分で探すのは難しく、同僚や友人に率直な意見を求めるのが有効な方法です。心理学では「鏡映自己」といい、人を鏡にして、その人の目に映る自分の姿を知るわけです。そうすれば、高学歴の人はさらなる自信を得て、周囲の学歴コンプレックスなど気にならなくなるでしょう。

【対策】学歴コンプレックスには、平身低頭に限る

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榎本 博明(えのもと・ ひろあき)
МP人間科学研究所代表
心理学博士。1955年、東京都生まれ。東京大学教育心理学科卒業。東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。『〈ほんとうの自分〉のつくり方』『50歳からのむなしさの心理学』など著書多数。
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(МP人間科学研究所代表 榎本 博明 構成=田之上 信)