銭湯に必要不可欠だった、「三助」という存在

こんにちは。ライターのさくです。

皆さんが銭湯に通う理由は、さまざまだと思います。

私が銭湯に通う理由もたくさんあるのですが、中でも大きいのは頭をデジタルから切り離す時間を作るためです。
日頃は机に向かっている時間が大半を占めていることもあり、身体の疲れを取ることはもちろん、実はデジタルデトックスの側面が大きな役割になっています。

一度浴室に足を踏み入れてしまえば、そこからは個人の時間。
どんな順序で入浴をしても、どんなスタイルで時間を過ごしても良いわけです。

普段の営業時間では温度チェックなどのメンテナンスをのぞいて、銭湯のスタッフが頻繁に出入りするということはあまりありません。しかし、古くから銭湯には「三助」という従業員が、切り離せない存在としてありました。

 

時代とともに「三助」の役割も変化してきたようですが、基本的には入浴周りの雑用や、マッサージや「流し」と呼ばれる背中を洗うサービスが中心でした。
東京・日暮里の『斉藤湯』で勤めていた方を最後に、2018年頃に消滅してしまったと言われていますが、東京・自由が丘の『みどり湯』で現代版“Sansuke”として復活しているよう。さっそく話を聞きに行ってみました。

 

現代によみがえった“Sansuke”のサービス

『みどり湯』の三助は、2018年2月6日にスタート。詳細記事はこちら
当初は男性のみでしたが、今年4月に女性スタッフが指圧マッサージのサービスを開始しました。

男湯のSansukeデー当日は、まずはフロントで予約の有無の確認をし、木札を受け取って順番が来るのを浴室内で待ちます。私も取材を兼ねてさっそく体験!

体を洗って湯船に浸かり、体が温まったころにスタッフが順番がきたことを知らせてくれました。
まずは、三助さんが丁寧に背中にお湯をかけます。
それからタオルを使って背中をゴシゴシ。そして、背中から首周りを中心に指圧マッサージを受けながら流してもらいます。約15分程度の時間ではありますがあっという間で、いつもの銭湯ではあるものの、特別感のあるひと時を過ごすことができました。

付いてくれたのは、男性三助の月足さん。普段から患者さんの身体を診ていらっしゃる現役のあん摩マッサージ指圧師。元々目黒区にお住まいだっとこともあり、地元にほど近い『みどり湯』から声をかけられて始められたのだそうです。

「まずこの話をいただいたとき、三助がどういったものであったのか読み解くことから始めました。彼らがどういったスタイルで仕事をしていたのか、その所作を追究したんです」

 

「調べてみると、どうやら従来の三助は古いあん摩(注:古来中国にルーツを持ち、東洋医学的な手法で押す・擦る・揉むなどの施術によって血流を良くする手法)の技を基本としていたということが分かりました。その技術的な背景に関してはすんなりと理解することができましたが、苦労したのはむしろその動きやふるまいですね。実際に三助をされていた方のお話を聞きながら、自分なりの解釈を加える必要がありました。半年以上は費やしたかもしれません」

“銭湯事情”にも多少の変化があります。昔に比べれば、タオルや石鹸など衛生管理に気を配る必要性が出てきたこと、身体を診るという意味でしっかりとした技能を持った人が行う必要があったこと。それらを『みどり湯』ではオーナーを交えて吟味し、課題をクリアしていったのだといいます。

「三助といえば、昔はただ背中を流すだけの存在だったかもしれないけれど、お客さん一人ひとりの身体に合わせた施術を意識することで、いまできる三助のサービスを行っています。私たちが得意とする、指圧(注:指圧点というツボに圧を加え、自然治癒力を高めることを目指す日本独自の手法)の要素を多く取り入れているということもポイントですね」

 

「あとはマッサージを行うときに出す『パン、パン』という音。『叩打法』と呼ばれるあん摩の技法ですが、これが銭湯ではとてもよく響くんですよね。すると自然に周りの人の視線を集めるんです。子どもがちょっとびっくりしたり。ただ音を出しているだけじゃなくて、血行を良くするという効能があるという意味で、三助のイメージに貢献している象徴的な所作かもしれないですね」

 

指圧が教えてくれる、身体のケアの重要性とは?

『みどり湯』では女性客からの要望もあり、女性スタッフもSansukeとして浴室やロビーにて指圧マッサージをスタートしました。中盛さんは普段、横浜・戸塚区で施術しているあん摩・マッサージ・指圧師。

 

「一言でいえば、この『みどり湯』での活動は、あん摩・マッサージ・指圧師になりたてのころの新鮮さを思い起こさせてくれる場所ですね。普段は、お付き合いのある人を相手することが多いので、身体の癖を手で覚えているくらいなんです。けれどここでは時間も短いですし、来る方もその時々によって違いますので、そういう意味で新しさがあります」

私も取材を兼ねてロビーでの指圧マッサージを受けてみました。肩の痛みが気になっていたので事前に中盛さんへリクエスト。実際に施術が始まると、首から肩、腰などの状態を全体的にチェックしながら、気になる箇所を指摘してくださいます。

私の場合は肩かと思いきや、実は腰に問題あり。「脊柱の“S字カーブ”がきれいに出ていること」が健康の基本らしいのですが、ここに湾曲があることで血流の詰まりがあり、他の部位にも痛みが波及して生じているそう。ここでは腹側にカーブを戻してあげるため、背筋を鍛えてあげることが重要だそうです。運動は大事ですね……。

 

「ただ施術するだけではなく、今後のフォローまでしてあげるということが大事だと思っています。患者さんとお別れした後に、施術の結果は出てきますから。指圧の効果が出てくるのは、実は遅い。そういえばあのとき、あの人がそういうことを言っていたな、ということを思い出してくれるのが重要ですね」

「私からのアドバイスを送るならば、自分の身体のケアをするという習慣を早めに付けた方が良いということですね。病気を呼び込む身体、呼び込まない身体というのがあります。あん摩・マッサージ・指圧師的な立場から言えば、血流が良くなることで、傷や痛みの治りが良くなるんです」

しっかりとお風呂に入り、身体を温めて血流を良くすること。その発想自体は、指圧が目指す理念と、非常に近いところにあるものなのかもしれません。

 

ただし、入浴時の注意点も教えて下さいました。「指圧を行うと緊張した血管が拡張しますので、血流が良くなります。いわゆる湯あたりと呼ばれる状態が起こりやすくなりますので、無理せずに一度休憩を挟んだり、水風呂や給水で身体を冷やしてあげることが重要ですね。入浴前に1杯、入浴後に1杯の水を飲んであげ、ちょうど良い血管の状態を保ってあげることが効果的です」

自分の身体のことだけでなく、その可能性として今後起こりうることを知っておくということが、後々役に立つような気がします。もし健康のために入浴という手段を活用するなら、身体に詳しい方々のアドバイスを聞いてみると、納得感が違いますね。

 

「1人でも多く良くしてあげたい」から、Sansukeを続ける

お話をうかがってみると、お2人ならではのこだわりがありつつも、共通しているのはとにかくお客さん目線でサービスをされていること。三助らしい基本の型を重視しながらも、その時々に合わせて柔軟に、かつ実践的に内容を変えていくのが、現代版Sansukeのあり方なのかもしれません。

受付には木札を使い、サービスにはおなじみのケロリン桶ではなくヒノキの桶を使うなど、雰囲気のあるものを使うことで、しっかりと三助イメージの定着に役立てています。スタッフが身につけているTシャツも、良い意味で今らしさがある。Sansukeが銭湯で作り上げるパフォーマンス的な要素も、この場所ではしっかりと根付いてきているように感じられます。

「三助って、言葉は聞いたことあるけど実際はどんなものは分からなかったという人が多いと思います。でも最近は、遠方からウワサを聞いて来てくれる人や、前から気になっていて、チャンスがあったからやってみようかなと思う人も増えています」と月足さん。

 

どうしたらお客さんが心地良く、そして満足して帰ってもらえるか。銭湯文化の重要な一端を担った三助の文化を受け継ぎ、新たな形でよみがえったSansuke。東京・目黒区から始まった新しい銭湯文化のきざしとその理念は、スタンダードな形としてそう遠くないうちに浸透していくかもしれません。

 

江戸のマッサージ指圧「三助」体験

みどり湯のオーナーであり、三助プロジェクトメンバーの清水智子さんからのコメントとともに、次回の三助デーのお知らせです。

「男湯の三助デーはスタートしてから1年半。
復活したきっかけは、背中を洗ってもらったら気持ちいいだろうな。という単純な発想から。といっても気持ちいいいには理由があって、背中、特に背骨周りには無数の自立神経のツボがあります。三助が大活躍した時代にはその時代ならではの疲れやストレスがあり背中を洗ってもらうことは癒しになっていたのではないかと思いました。今は昔とは違い肉体疲労より脳みそを酷使するというまた違った疲れから疲労感を感じている人も多いため、今の時代こそ背中洗い&マッサージは必要かなと思ったのです(^^♪

実際受けた方からは好評!ですが一番の課題は三助の良さが言葉ではうまく伝えられないこと。三助という言葉を知らない人も多いし、浴室での背中流し&マッサージと言ってもいまいちピンとこない方が多いようで、受けている人をみてやってみたいとなるケースが多いです。

当初は女湯ではやるつもりはなかったのですが、ぜひ三助をやりたいという女性あん摩・マッサージ・指圧師の方を月足さんから紹介してもらい、急きょレディース三助を作りました。女性の場合男性より体が繊細にできているため、女湯の三助は、男湯とは内容を変えています。まだ試行錯誤なところもあるので、今後についてはお客さんの反応もみながら変えていく予定です。」

 

次回の三助体験デー

【女性Sansuke 中盛さんによる指圧デー】

日時:11月9日(土)15時〜20時
場所:自由が丘 みどり湯フロント
料金:10分 500円(最大30分まで受けられます) 
内容:指圧マッサージ

【男湯 男性三助(Sansuke)デー】

日時:11月16日(土)17時〜19時
場所:自由が丘 みどり湯 男性浴室内
三助(SANSUKE)料:500円(約10分)
内容:お背中流し/指圧マッサージ

どちらも当日空きがあれば可能ですが、事前予約されることをおすすめします。
フロントか、お電話でお問合せください。
TEL:03-3717-4516(営業時間内のみ)