ワールドカップをかけた戦いなのだから、結果が最優先されるべきだろう。リーグ戦である以上は、得失点差も重要だ。勝ち点3を確実に確保し、6点差もつけたのだから、非の打ち所のない試合だったと言えるかもしれない。

 ただし日本代表にとって、アジア2次予選は勝って当たり前の試合。結果はもとより、限られた活動時間のなかで強化の歩みを進める必要がある。


モンゴル戦の右サイドハーフは堂安律ではなく伊東純也だった

 果たして、この試合は日本に何をもたらしたのだろうか。残念ながら、その答えを見出すことはできない。それほどまでに、モンゴル代表は歯ごたえのない相手だった。

 とはいえ、前向きに捉えれば、日本にとってこの試合が決して無意味なものだったわけではない、と受け止めている。

 戦前、この試合の焦点のひとつに、”ポスト大迫”が挙げられていた。負傷で招集できなかった大エースの代わりを誰が務めるのか。大迫勇也(ブレーメン)が不在でもチームは機能するのか。それは3年後を見据えれば、クリアしなければいけないテーマである。

 大迫の代わりに1トップを務めたのは永井謙佑(FC東京)だった。FC東京の躍進を支えるスピードスターは、スペースのないなかで持ち前の脚力を生かす場面は少なかったものの、40分に強烈なヘディングを叩き込み、代表3ゴール目を奪っている。もっとも、相手の実力を考えれば、手放しで称賛できないのも事実。”ポスト大迫”問題は、列強国との対戦を待たなければ解決することはないだろう。

 そんななか、この試合で唯一の希望として感じられたのは、伊東純也(ゲンク)の存在だったかもしれない。右サイドハーフとしてスタメン出場したドリブラーは、南野拓実(ザルツブルク)の先制ゴールを皮切りに、高精度クロスで3つのゴールをアシスト。固定されつつあった2列目のレギュラー争いに、風穴をあけている。

 森保ジャパン発足以降、日本代表の2列目は、左から中島翔哉(ポルト)、南野、堂安律(PSV)の3人がメインキャストを張っていた。

 恐れを知らぬ積極性と、相手を手玉に取るかのようなキレのある動きで日本の攻撃を活性化させ、それぞれが結果を残してきた。20代前半から中盤の彼らが形成する前線トリオは、長く続いた本田圭佑(前メルボルン・ビクトリー)、香川真司(レアル・サラゴサ)、岡崎慎司(ウエスカ)の時代を忘れさせ、”新ビッグ3”として受け止められつつある。

 メンバーを固定する傾向にある森保一監督だけに、格下相手の今回の試合でも、この3人がスタメンに名を連ねるかと思われた。ところが、スターティングリストにあったのは、堂安ではなく、伊東だった。右サイドハーフは、大迫不在のCFを除いて唯一、森保監督が手を加えてきたポジションだったのだ。

「戦術的な側面、コンディションの部分、いろいろな考えを含めたうえでの選手起用となりました」

 森保監督はその起用について、具体的な明言を避けているが、考えられるのは「対アジア」の戦略だろう。

 これまでの2列目は、中島と堂安の両サイドがともに逆足のアタッカーのため、攻撃が中央に寄ってしまう傾向があった。しかし、人数をかけて中を固める相手に、それは得策ではない。純粋なクロッサーをサイドに張らせることで、幅を取った攻撃を展開する狙いである。

 実際にモンゴルは人海戦術で中央を固め、日本の攻撃に対抗してきた。そこで右に入った伊東の存在がクローズアップされる。

 タッチライン際に張った伊東はフリーでボールを受ける機会が多く、単独での突破、あるいは同サイドの酒井宏樹(マルセイユ)と連係しながら、モンゴルの守備組織を横に間延びさせていった。中島のいる左サイドではなく右からの攻撃が増えたのは、それが理由である。

 それでも序盤はクロスが合わず、攻め込みながらもなかなか得点シーンは生まれなかったが、伊東はブレることなく、自らの役割をまっとうし続けた。

「1点目を獲るまでがいちばん大変だと思っていました。でも、チャンスが来る回数は多いので、そこで焦れずに何回もクロスを上げ続けたことが、得点につながったかなと思います」

 クロスの質にも工夫が見られた。

 南野の先制点は長距離の高速クロス、長友佑都の10年ぶりのゴールにつながったアシストはグラウンダー、そして永井のゴールはサイドを深くえぐったものではなく、ペナルティエリアの角のあたりから近い距離をピンポイントで合わせたもの。いずれも「決めてください」と言わんばかりの、質の高い球筋だった。

 これまでコンスタントに招集されながらも、どこか存在感の希薄だった伊東だが、この試合では堂々とした姿も印象に残った。

 ボールを受けたら、縦に仕掛ける――。その迷いなきプレーの裏には、ベルギーでの経験が大きいだろう。今年2月にベルギーのゲンクに移籍し、今季はチャンピオンズリーグも経験している。トップレベルの戦いを経験するなかで、確かな手ごたえを掴んでいるようだ。

 キャプテンの吉田麻也(サウサンプトン)も、伊東の成長を感じているひとりだ。

「純也に関して言えば、移籍して、優勝して、チャンピオンズリーグに出始めて、非常に自信を深めている時期じゃないかなと思う。こういう時がいちばん伸びるので、突き抜けてほしいと思います」

 とはいえ、モンゴル相手の活躍がどれだけ評価に直結するか、不透明な部分もある。日本の右サイドは堂安だけでなく、久保建英(マジョルカ)も主戦とするポジションである。両者を上回るには、さらなるインパクトが必要だろう。

 それでも、伊東はこの激戦区において、自身の存在価値を示す覚悟だ。

「ふたりとも左利きなので、カットインとかコンビネーションとかはうまくできると思います。でも、自分としては、縦に、縦にどんどん行って、相手の嫌なところにボールを入れていくという部分が強みなので、そこは試合に出たら出していかなければいけないと思います」

 異なる特性を備えた伊東が、日本の戦い方に多様性をもたらすとともに、ポジション争いの活性化も生み出した。その意味で伊東のパフォーマンスが、この試合を「意味あるものにした」と思うのだ。