U-17日本代表を率いる森山佳郎監督。強豪との対戦を歓迎するコメントを残した。写真:松尾祐希

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 今回で18回目を迎えるU-17ワールドカップは若手の登竜門として知られている。日本で開催された1993年大会に中田英寿(元ローマほか)が出場。1997年大会ではロナウジーニョ(元バルセロナほか)がブラジルの優勝に貢献し、カシージャス(元レアル・マドリーほか)やシャビ(元バルセロナほか)がスペイン代表としてプレーした。フェルナンド・トーレス(アトレティコ・マドリーほか)やアンドレス・イニエスタ(神戸)も2001年大会に参戦しており、大会を経験したスター選手の名を挙げれば、枚挙にいとまがない。

 近年はクラブ事情でU-20ワールドカップを回避する選手も多いため、よりU-17ワールドカップに“金の卵”が集まる傾向が強い。前回大会を制したイングランドの面々を見ても、既にハドソン・オドイ(チェルシー)らがチャンピオンズ・リーグやプレミアリーグで活躍している。16強入りを果たした日本も、現在A代表で活躍する久保建英(マジョルカ)やU-22日本代表の菅原由勢(AZ)が右肩上がりで成長中だ。世界的に見てもU-17ワールドカップの注目度は高く、新星たちの見本市と言っても過言ではないだろう。

 欧州のスカウトたちも目を光らせる2年に1度の祭典に、日本も2大会連続で出場する。前回の16強入りを超える成績を収められるのか。10月4日に発表された21名のメンバーはどんなサッカーを見せてくれるのか。彼らの戦いぶりに興味は尽きない。

 今回のチームの特徴は一言で表わすのであれば、組織力に秀でた集団だと言えるだろう。2大会連続でチームを率いる森山佳郎監督が「前回は個人でより高いレベルを目指せという方向性で戦ってきた」と明かす通り、2年前の大会は久保、中村敬斗(トゥエンテ)、宮代大聖(レノファ山口)など攻撃陣に個で勝負できる選手がずらりと揃い、守備陣にもCB小林友希(町田)やGK谷晃生(G大阪)などの圧倒的なタレントがいた。

 一方で今回のチームは、飛び級で今年5月のU−20ワールドカップに出場したFW西川潤(桐光学園/セレッソ大阪入団内定)やガーナにルーツを持つ大型GK鈴木彩艶(浦和レッズユース)がいるものの、ひとりで局面を打開できる選手が少なく、守備でも高さに恵まれた選手が不在。そのため、オフェンスはテンポの良いパスワークとコンビネーション、ディフェンスは組織力に活路を見出してきた。「サッカーへの理解があって、組織的なプレーやコンビネーションプレーが得意な選手が多い」とは指揮官の言葉。彼らの良さを最大限に引き出すためのチーム作りを進めてきたなかで、昨秋のU-16アジア選手権では見事に優勝し、ワールドカップの出場権を最高の形で勝ち取った。

 そのチーム方針は今回のメンバー選考にも現われている。立ち上げ当初から主軸を務めてきたボランチの成岡輝瑠(清水エスパルスユース)や、主将を務めるCBの半田陸(モンテディオ山形ユース)はその代表格と言える存在だ。そこに昨秋以降に台頭した選手をミックス。中盤と最終ラインをハイレベルにこなす技巧派MFの藤田譲瑠チマ(東京ヴェルディユース)、圧倒的な速さを持つFW若月大和(桐生一/湘南ベルマーレ入団内定)、攻撃力が武器のSB畑大雅(市立船橋/湘南ベルマーレ入団内定)など、その個性を組織の中で発揮できる選手をチームに組み込んだ。
 強豪国との真剣勝負は何物にも代え難い。ブラジルで得る経験値は彼らにとって間違いなく財産になるだろう。しかも、今回は死の組に入り、オランダ、アメリカ、セネガルは一筋縄でいかない強敵だ。

 初戦で対戦するオランダ(10月27日)は欧州王者。育成に定評があるアヤックスから多くの選手が選ばれており、将来を嘱望されているタレントも少なくない。U−17ワールドカップの予選を兼ねた今年5月のU−17欧州選手権では圧倒的な強さを示し、決勝でイタリアを4−2で撃破した実力は本物だ。

 2戦目で対戦するアメリカ(同30日)も前評判がすこぶる良く、とりわけ注目は元アメリカ代表の父を持つドルトムントU−19のジョヴァンニ・レイナ。フィジカルと技術を兼ね備えたアタッカーで、簡単には抑えられないだろう。3戦目で対戦するセネガル(11月2日)もアフリカ特有のフィジカル能力があり、昨年6月にホームで戦った際は0-2で完敗を喫している。

 選手たちがそうした相手を向こうに回し、勝利を掴めば、一気に化ける可能性はある。

「この3チームと対戦するだけでもワールドカップに来た意味がある。もちろん、前回大会のラウンドオブ16・イングランド戦は格別だったけど、(相手の強さを考えても)今回の3試合は前回の4試合分ぐらいの価値がある。一発勝負の緊張感を味わいたいし、決勝トーナメントで強いところとやりたい」(森山監督)

 2年前の大会に参加した選手たちはイングランド戦を経て、ステップアップを果たした。世界の強豪とワールドカップで戦えば、大きな財産になる何よりの証だろう。日本サッカー界の未来を担う逸材たちがブラジルの地で何を掴むのか。彼らにとって、未来を左右する大会になるのは間違いない。

取材・文●松尾祐希(フリーライター)