ソフトバンクが9月に打ち出した新プログラム「半額サポート+」(記者撮影)

スマホの新たな販売手法に対する総務省からの規制に、携帯キャリア各社から反発の声があがっている。

「ルールの中で創意工夫し、消費者に対してよりよいサービスを提供しようとする企業努力の否定にもつながる」

9月20日に開かれた携帯のルールを議論する総務省の有識者会議で、ソフトバンクの松井敏彦・渉外本部長は不快感をあらわにした。

新販売プログラムに総務省が「待った」

10月から携帯電話の販売や通信契約に関する新ルールが施行されるのに伴い、ソフトバンクは端末の「実質半額値引き」をうたう販売プログラムを9月13日に始めた。auも10月1日から同様のプログラムを実施する予定だったが、総務省から「待った」がかかったのだ。

両社のプログラムは、指定の端末を48回の月額払いで購入し、25カ月目以降にその端末を返却して新端末を買えば、旧端末の残債が免除される仕組みだ。ただ、端末代とは別にプログラム利用料が390円(非課税)かかる。そのため、利用者の負担額は半額にはならない。

両社は、通信契約に関係なく端末を大幅値引きするプログラムだとアピールしていた。しかし、実際には端末にはSIMロックをかけ、他社回線の契約者は端末の購入後100日間は端末を使えないようにしている。そのため、利用者が自社回線の通信契約を結んでいなければ端末を使えず、半額値引きプログラムを使う意味がなくなる、という設計だった。

この手法は、総務省の定めた新ルールには抵触していない。総務省は10月1日から施行される改正電気通信事業法などで、通信契約への加入を条件とした端末の大幅値引きを禁じたが、両社はこれをかわすため、通信契約を直接の条件としない端末値引きの方法をひねり出したのだ。松井氏の言う「ルールの中での相違工夫」はこのことを指す。

しかし、総務省はこれを「実質的な囲い込み」とみて許さなかった。9月20日の有識者会議で高市早苗総務大臣は「SIMロック解除については、今後の方向性について速やかにルールの見直しを進める必要がある」と述べ、ただちにSIMロック解除を義務化すると表明した。総務省は11月にも指針を改正する方針だ。

さらに消費者庁も「半額値引き」とうたうのは消費者の誤解を招くと問題視し、9月26日には消費者への注意喚起を出した。その結果、両社は「半額値引き」のCMや店頭掲示も見直さざるを得なくなった。

「後出しじゃんけん規制」にキャリアの不満

ソフトバンクとKDDIは、総務省のSIMロック解除義務化の方針には従う方針だが、販売プログラムを発表した直後に、後出しじゃんけんのように打ち出される規制に不満を持っている。

ソフトバンクの松井氏は有識者会議で「サービス導入が市場に与える影響を注視する期間すらなく、排除や修正を余儀なくされるとすれば、今後のサービスの発展や企業活動を委縮させる懸念が著しく高い」と総務省のやり方を強く批判。さらに他業界も引き合いに出し、「車の残価設定クレジットやボリュームディスカウント、リピーターに対して安くするというビジネスモデルは一般的なものだ」と述べた。

携帯キャリアが総務省の厳しい規制に異を唱えることは珍しくない。例えば5月の有識者会議でキャリア各社の2年契約の囲い込みが問題視されたことに対し、ソフトバンクはアマゾンの年間契約が割引されることや鉄道の定期券の割引などを挙げ、「長期契約者を優遇して囲うのはビジネス戦略上、普通のことだ」と主張していた。

ただ、通信業界がほかの多くの業界よりも厳しい規制がかけられるのには、いくつかの理由がある。

まず、政治的な背景だ。総務相の経験もある菅義偉官房長官は、通信業界へ高い関心を持っている。2018年8月に菅氏が「携帯電話の料金は今より4割程度下げられる」と発言したことをきっかけに、携帯料金を下げさせるためのルール改正が大きく動き出した。安倍政権の実力者である菅氏がこうした考えを持つ以上、総務省としては顧客の囲い込みにつながるような売り方を認めるわけにはいかないはずだ。

電波の公共性もある。携帯電話事業向け電波の利用権をオークションにしているアメリカなどと違い、日本では事業者に電波利用の金銭的な対価を求めてこなかった。アメリカで2015年に行われた1.7/2.1ギガヘルツ帯のオークションの落札総額は約5兆円にものぼるなど、その価値は巨額だが、総務省は各社が提出する事業計画への評価だけで電波を割り当ててきた。

ただし、その代わりに電波を取得した事業者は、国民の財産である電波を適切に有効に使う責任がある。事業者は、総務省に提出した計画通り、採算の厳しい地方でもしっかりとネットワーク整備を行う必要があるなど別の負担がかかる。こうした高い公共性は、ほかの多くの業界とは異なる。

なお、改正電波法により、今秋以降の5Gの2次割り当てからは、審査の一項目として利用権への入札に近い仕組みが導入される。

インフラなのに、複雑でわかりにくい料金プラン

携帯電話が子どもからお年寄りまで、文字通り老若男女が使うインフラとなっているという事情もある。それにもかかわらず、通信契約や端末を購入する料金プランは複雑で、一般消費者が自分に合う適切な選択をするのは容易ではない。

しかも、携帯電話の世界は技術革新のスピードが極めて速い。総務省携帯料金政策に関わる関係者は「料金プランも端末も、すぐに今とはまったく違う新しいものも出てくるはずだが、囲い込みがあれば合理的な選択ができない」とし、一定の規制は必要だと語る。

また、総務省側はこれまでキャリア側の良識に期待していたが、それが裏切られたことも挙げられる。改正法が議論されていた最中から、有識者会議のある委員は「通信業界を金融業界のように厳格なルールで縛ることはしたくない。自浄作用に期待したい」と語っていた。あらかじめ過度に厳しいルールをつくることは、事業の柔軟性を失わせるからだ。

総務省とキャリアの認識の差が埋まらない限りは、今後も同じようなイタチごっこが続きそうだ。