8月10日のトゥベンテ戦が、堂安律にとってフローニンヘンでの最後のゲームになった。マイク・テ・ウィーリク主将の退場によって前半終了間際からキャプテンマークを巻いた堂安は後半、無の状況からシュートコースを作り出し、強烈な左足の一発を決めた。結局1−3で試合には敗れたが、2人の退場者を出したフローニンヘン・ファンのプライドを守る鮮やかなゴールだった。
 
 フローニンヘンを長年追う記者は後日、こう耳打ちしてくれた。
 
「キャプテンマークを巻いた堂安のプレーを見たか。彼は責任を負わせると、より実力を発揮するプレーヤーなんだ。わたしたちは彼の英語が上達したことも知っている」
 いま、堂安に必要なものは責任とプレッシャーなのかもしれない。堂安はPSV入団会見の席上ではこうも言った。
 
「ステップアップに一番適したクラブだと思います。ただ、それだけじゃないクラブなので、優勝を狙わないといけないというプレッシャ―も毎試合あるし、ヨーロッパリーグ(グループステージ)進出を決めましたが、チャンピオンズ・リーグでプレーできるクオリティーのあるチームだと思うので、そういうプレッシャーとも戦える。そういう面も、このチームを選んだきっかけになりました」
 
 このチームにはブルマ(24歳)、ステフェン・ベルフバイン(21歳)、ドニエル・マレン(20歳)に加え、コディー・ガクポ(20歳)、モー・イハターレン(17歳)というこれからブレイクが期待される俊足・技術・パワーを備えたアタッカーが揃っている。彼らのコンビネーションとカウンターは芸術的だが、調子に波があるのも否めない。
 
 ヨーロッパリーグの試合もある過密日程が待ち受けるなか、21歳の堂安は、彼らと競争し、共存し、お互いに引っ張り、引っ張られたりしなければいけない。
 
取材・文●中田 徹