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ヒトの皮膚の細胞から培養した豆粒サイズの細胞組織から、人間の胎児に似た脳波を検出することに成功したとの論文が発表されました。

Complex Oscillatory Waves Emerging from Cortical Organoids Model Early Human Brain Network Development - ScienceDirect

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1934590919303376?via%3Dihub

Brain waves detected in mini-brains grown in a dish

https://phys.org/news/2019-08-brain-mini-brains-grown-dish.html

Brain Waves Have Been Detected Coming From 'Mini Brains' Grown in The Lab

https://www.sciencealert.com/brain-tissue-grown-in-the-lab-produces-brainwaves-resemblings-pre-term-babies

Organoids Are Not Brains. How Are They Making Brain Waves? - The New York Times

https://www.nytimes.com/2019/08/29/science/organoids-brain-alysson-muotri.html

Human-like neural activity detected in lab grown mini brains | AFP.com

https://www.afp.com/en/news/15/human-neural-activity-detected-lab-grown-mini-brains-doc-1ju97d1

培養された細胞から脳波を検出したと発表したのは、カリフォルニア大学サンディエゴ校で神経科学を研究しているアリソン・ムオトリ教授らの研究チームです。ムオトリ教授は、京都大学iPS細胞研究所所長である山中伸弥教授が、カリフォルニア大学サンディエゴ校で行ったiPS細胞に関する研究を発展させ、ヒトの皮膚の細胞を一度幹細胞に変化させてから、脳オルガノイドと呼ばれる細胞組織を作ることに成功しました。

生成から10カ月が経過した脳オルガノイド。



オルガノイドとは、試験管内で作成された臓器のことで、実物の臓器よりも小型で単純な組織でありながら、本物にそっくりな解剖学的構造を持っているという特徴があります。オルガノイドをつくり出す技術は、2010年代初めから急速な発展を遂げてきましたが、今回ほど発展した神経細胞ネットワークを持つ脳オルガノイドが試験管内で作られたのはこれが初めてだとのこと。

ムオトリ教授は「今回作られた脳オルガノイドは、脳神経が発達するメカニズムの解明や疾病のモデル化、薬物の試験、さらにはAI技術への応用に至るまでさまざまな分野での活用が可能です」と話しました。

また研究チームは、複数の脳オルガノイドが生成後2カ月を過ぎた頃から爆発的に脳波を放出していることを突き止めました。脳波の信号はまばらなものの、一定の周波数で発せられており、これは発達の初期段階にある人間の胎児の脳波に近いものだとのこと。そこで、研究チームは生後6カ月〜9カ月半の未熟児39人から記録された脳波でAIをトレーニングし、マルチ電極アレイという装置で計測した脳オルガノイドの神経活動を分析させました。

研究チームが使用したマルチ電極アレイ(左)と計測用ロボット(右)



その後、AIに脳オルガノイドの脳波を入力して「発生から何カ月目の胎児か」を答えさせたところ、実際に脳オルガノイドを培養していた期間と高い精度で一致しました。ムオトリ教授はこのことについて、「脳オルガノイドが、人間の脳と同様の成長過程をたどっていることが示唆されています」と話しています。

一方で、実験室で生成した脳オルガノイドは「なぜか9〜10カ月で成長が止まってしまう」という問題も発生しており、その原因はよく分かっていません。ムオトリ教授は、「組織内に栄養を届ける血管新生の問題か、もしくは感覚器官から得られる刺激の入力がないことが原因」だと見て、今後はその両方に関する実験を進めていく考えだと述べました。

ムオトリ教授らの研究チームは今後、脳オルガノイドをさらに改良して、自閉症・てんかん・統合失調症など、神経網の機能不全に起因するとされる疾患やその治療法に関する研究を進める予定だとのことです。



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また、脳オルガノイドから検出された脳波についてムオトリ教授は「脳オルガノイドは非常に単純なモデルなので、本物の脳の様な活動とは無関係だと思われます」と話し、脳オルガノイドが意識を持っている可能性は低いとの見解を述べました。同時に、「脳オルガノイドが本物の脳に近いものになるにつれて、あらゆる倫理的な疑念が噴出することは免れない」との認識を示し、慎重に研究を進めていく姿勢を明確にしています。