「世界中が利下げ競争している、中国も元安誘導している、米国もさらに利下げしないと、ドル高が進んでしまうぞ」というわけだ。しかし、そんな“異物”を混入すると、米中経済戦争をますます解決困難に導くのではないか。

経済戦争から政治問題へ
 トランプ米大統領は5月に中国が交渉姿勢を大きく後退させたのに怒って「関税引き上げ第4弾」を打ち出した。ところが米国経済界から強い反対が起きたので、6月末に大阪で開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議で何とか「振り上げた拳」の下ろしどころを得た。それなのに、また「第4弾」を持ち出すのはいかなる了見か。大統領の判断には二つのバイアスが働いているのではないか。

 ひとつは「米国は利下げすれば、経済も株価も大丈夫」という判断だ。しかし、ホワイトハウスでは、ライトハイザー氏、ムニューシン氏、ボルトン氏、カドロー氏(経済顧問)らほとんどの関係閣僚が「米国経済への悪影響」を理由に「第4弾」に反対したと言う(WSJ紙)。さらに通貨問題にも戦線が広がったことで、米国では「米中の全面経済戦争」「(保護貿易や通貨切り下げ競争を誘発した1930年の)スムート・ホーリー法の再来」など、憂慮の声が一段と高まった。

 二つ目のバイアスは「米国の制裁関税によって中国経済は悪化しており、抵抗は長く続かない」という判断だ。

 中国経済はたしかに悪化している(貿易戦争だけが原因ではないが)。しかし、今の中国がそろばん勘定だけで譲歩すると考えるのは大きな誤りだ。

 中国の交渉姿勢が5月に急に後退したのは、片務的な合意案や米国のファーウェイ排除に対する共産党内の反発が高まったためと言われる。

 習近平主席が急に「譲れない原則」を強調したり、革命聖地を視察して「新たな長征」を標榜(ひょうぼう)したりしたのは、この反発で軌道修正を余儀なくされたことを暗示する。「柔軟に譲歩して交渉妥結を目指す」路線から、「不当な圧力には徹底抗戦する」持久戦法への修正だ。

 今のままでは没交渉のまま、米国が9月1日をもって第4弾を発動する結果になりそうだ。そればかりか、中国共産党は今、香港で深刻化・長期化している抗議活動も「裏側で米国が扇動している」と確信し、香港政府の抗議活動を収拾できないと判断すれば、「動乱」認定する構えだ(その後には戒厳令が出るだろう)。

 中国共産党の眼からみれば、米国との対立はもはや経済戦争を超えて重大な政治問題に飛び火しつつある。

 トランプ米大統領も習近平主席も全面対決を辞さない構えだと、世界経済は今年後半、いよいよのっぴきならない局面に追い込まれそうだ。逆説的に言えば、とんでもない大異変が起こらない限り、いまの米中対決の基調は転機が来ないのかもしれない。
【略歴】
津上俊哉(つがみ・としや)80年(昭55)東大法卒、同年通商産業省(現経済産業省)入省。96年在中国日本大使館経済部参事官、00年通商政策局北東アジア課長、02年経済産業研究所上席研究員、12年津上工作室代表、18年日本国際問題研究所客員研究員。愛媛県出身、62歳。