反日姿勢を鮮明にすることで、支持率を上昇させたい

現在、日韓関係は過去最悪の状況になっている。これまで、わが国は韓国の一方的な主張を大人の態度で容認してきた。例えば慰安婦の問題、東日本大地震以降の海産物の輸入規制、さらには元徴用工への賠償問題をめぐる問題について、韓国政府は誠意ある態度を示したとはいえない。

今回、政府は、安全保障を理由に韓国への輸出管理手続きを見直した。IT関連の部材に加えて、信頼できる国である"ホワイト国"から除外することが閣議決定された。今後、韓国への輸出が厳格に管理されることになると、韓国産業にはかなり大きな影響が出るとみられる。

写真=EPA/時事
8月2日、日本政府が「ホワイト国」から韓国を除外すると閣議決定したことを受け、韓国の文在寅大統領(左から2人目)は臨時閣議で「非常に無謀な決定」と反発。韓国政府も日本をホワイト国から除外する手続きを進めると発表した。 - 写真=EPA/時事

そうした状況下、韓国では"反日感情"が勢いづいている。この状況は、経済政策の失敗と北朝鮮融和政策の行き詰まりに直面する文在寅(ムン・ジェイン)大統領にとって、むしろ"追い風"といえるだろう。文大統領は反日姿勢を鮮明にすることで、支持の上昇につながっているからだ。

ただ、すでに韓国経済の先行き見通しは悪化している。それにわが国の輸出手続き見直しが加わると、韓国の景気先行き懸念は更に高まる可能性がある。それに伴い韓国世論は、いずれ文大統領の政策の限界を再認識する可能性もあるだろう。

すでに韓国の経済界には文政権の対日政策を懸念する者が多いようだ。わが国は、韓国内外の理解者を増やし日韓政府が本当の意味で問題解決に向けた協議の席につく状況を目指すべきだ。

■日本の技術力を用いて生産性を高めてきた韓国

足許、韓国経済の基礎的な条件=ファンダメンタルズは不安定化している。それに伴い、韓国銀行(中央銀行)は、7月18日の金融通貨委員会(金融政策を決定する会合)で予想外の利下げに踏み切った。

その背景には、韓国の経済成長を支えてきた半導体の輸出が伸び悩み、経済の先行き不安が高まっていることがある。2017年以降、スマートフォンの需要は飽和し出荷台数は減少している。データセンターへの投資も振るわず、世界的に半導体の生産能力には余剰感が出ている。韓国の輸出、設備投資ともに増加する展開は想定しづらい。

4〜6月期、韓国経済の実質GDP成長率は、政府支出の増加に支えられて前期比1.1%成長した。ただ、半導体に代わる成長のけん引役が見当たらない中で、韓国経済が持続的な成長を目指すことは口で言うほど容易なことではない。

韓国銀行はわが国の対韓輸出管理の見直しが、経済の下振れリスクを高めるとの警戒感も示した。特定3品目の輸出管理見直しに加え、わが国が韓国を"ホワイト国"から除外すると、韓国経済には無視できない影響が及ぶだろう。なぜなら、韓国はわが国の技術力を用いて半導体の生産能力を高め、成長につなげてきた側面があるからだ。

■ホワイト国の認定/除外は、他国に干渉されるものではない

理論上、ホワイト国からの除外が決定し、実際に輸出の手続きが変更されると、わが国から韓国に輸出される食料品や木材などを除く1000以上の品目の輸出許可が、包括許可から個別許可に切り替わる。どの品目が対象となるかは、わが国の意思決定次第だ。ホワイト国の認定、あるいは除外はわが国の判断であり、他国に干渉されるものではない。

以上を踏まえると、わが国の制度運用(どの品目の手続きを厳格化するか)によって、韓国企業の活動にはかなりの影響が出る恐れがある。韓国ウォンやソウルの株式市場の動きを見る限り、市場参加者はホワイト国除外への警戒感を高めているとは言いづらい。ただ、楽観は禁物だろう。

■文大統領にとって、反日感情の高まりはまさに好機

ホワイト国からの除外は輸出規制の強化ではない。それは韓国への輸出管理制度を、2004年以前の個別許可制度に戻すことを意味する。個別許可制度の下、輸出手続きには2〜3カ月の時間がかかるものとみられる。

それにより、従来に比べて韓国が半導体製造装置など必要なモノを、必要なタイミングで確保することは難しくなるだろう。これは、韓国企業の生産ラインを混乱させ、経済の下押し圧力を高める恐れがある。なお、EUは韓国への輸出優遇を行ってはいない。

韓国ではわが国の対応に関して、日本が輸出規制を強化し経済を混乱させていると、反日感情がエスカレートしている。企業の反発にあい最低賃金の引上げ公約を撤回せざるを得なかった文大統領にとって、反日感情の高まりはまさに好機だ。

文氏は反日姿勢を鮮明にすることで、支持率を回復させている。2020年4月には韓国で総選挙が実施される。文大統領としては、世論の反日感情の高まりに便乗して支持率をさらに高めたい。

■経済環境の悪化に伴い反日感情は落ち着く可能性

ただ、この状況がいつまでも続くとは考えづらい。韓国の国民性には「熱しやすく、冷めやすい」という特徴があるといわれる。足許、韓国の世論は文政権の経済運営への"失望"から、一転して反日姿勢の"歓迎"へと急速に傾いている。過去の日韓関係を振り返っても、こうした状況は繰り返されてきた。短期的に韓国の反日感情は高まるだろう。

問題は、先行きの経済のリスクが高まっていると考えられることだ。賃金や雇用環境の悪化が鮮明化すれば、韓国の社会心理は再度、文政権への批判に急転する可能性がある。韓国政府はわが国の輸出管理手続き見直しへの対応策として半導体材料や製造装置の国産化を進めるとしているが、韓国の業界関係者さえ、その対応力に疑問を呈している。4〜6月期のサムスン電子の決算を見ても、半導体事業の落ち込みは深刻だ。

その上にホワイト国除外が重なれば、韓国経済はかなり厳しい状況を迎えるだろう。経済環境の悪化に伴い反日感情のテンションは下がる可能性がある。

■韓国の感情的な批判や主張は、丁寧な無視に徹すればいい

わが国が韓国の一方的な主張に対して、感情的に批判することはあってはならない。それは、韓国の反日感情をさらに激化させ、韓国に同情する国が増えるきっかけを作ることになる恐れがある。文政権の反日感情を勢いづかせた結果、国際世論がわが国の対応を不安視する展開は避けなければならない。わが国は韓国の感情的な批判や主張に対して、丁寧な無視に徹するだけでよい。

安倍政権に求められることは、韓国が摯実な態度でわが国との協議に応じるよう、環境を整えることだ。韓国にとって、わが国とスムーズに貿易取引ができる環境は、経済の安定に欠かせない。その意味で、韓国が実利を求め、わが国との協議に臨まざるを得ない環境整備が求められる。

政府は、韓国の経済界や知日派の政治家などとの関係をつなぎ、わが国が文政権下の韓国に対して輸出手続きを見直さざるを得なくなった実情を丁寧に説明することが重要だ。特に、韓国の経済界には対日関係の冷え込みを懸念する声が増えている。彼らが、わが国の対応がやむを得ないものであるとの認識を持てば、韓国の態度は徐々に変化に向かう可能性がある。

■対話を経ずして日韓の関係修復は進まない

それと同時に、政府は迅速に国際世論を味方につけなければならない。韓国国内から相応の認識を引き出しつつ、国際社会においては"数の論理"からわが国への賛同を増やす。それができれば、いつまでも韓国が身勝手な主張を続け、わが国が求めてきた輸出管理に関する協議などに背を向け続けることはできないはずだ。

今後、日韓の関係が更にこじれるなど、紆余曲折が想定される。ただ、確かなことは、対話を経ずして日韓の関係修復は進まないということだ。

日韓の関係がどうなるかは、極東情勢の安定感を左右し、周りめぐってわが国の国力にも影響を与える恐れがある。それを避けるために安倍政権は国際世論や韓国の知日派など、あらゆる方面への働きかけを通して、日韓が冷静に向き合い、協議の席に着くことを目指すべきだ。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫 写真=EPA/時事)