7月に販売を開始したダイハツの新型「タント」。月間販売目標は1万2500台に設定した(撮影:尾形文繁)

軽自動車人気の中でも、スーパーハイトワゴンとかトールワゴンと呼ばれる、最も車高の高いワゴン系に人気が集中している。中でも抜群の人気を得ているのは、ホンダのN-BOXだ。


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全国軽自動車協会連合会(全軽自協)の通称名別新車販売1〜12月の確報で、2015年から2018年まで連続1位を獲得している。2013年にN-BOXは発売後初の1位を得ていたが、2014年に一度ダイハツのタントに首位を奪還された。前年の秋口に、タントがフルモデルチェンジをしたからだ。

2014年に対前年比160%以上をタントは売り上げ、N-BOXはその後塵を拝した。だが翌2015年には巻き返し、以後N-BOXの独壇場となっている。

N-BOXの強さの秘密とは?

N-BOXは、なぜそれほど強いのか。ダイハツやスズキが軽自動車メーカーとして永年積み上げてきた商品性とは違った、登録車のミニバン的価値観で登場したN-BOXに、多くの顧客は反応を示した。


ホンダ「N-BOX」。販売台数で競合車を圧倒する(撮影:尾形文繁)

技術的には、登録車のフィットなどで採用された車体中央に燃料タンクを配置する手法を最大限に生かした。後席座面のチップアップ機構(着座部分を背もたれ側へ跳ね上げる)を利用した、独創の室内空間や、自転車を後ろに載せやすくする床の低さ(これも燃料タンクが車体中央にあることで実現できる)、車体側面や後ろ端の様子を鏡で手軽に確認できるようにした装備など、これまで軽自動車の利用者が目にしたことのない商品性で魅了した。

ホンダは、軽自動車を開発したことがない人物をN-BOXの開発責任者とし、登録車では当たり前の発想を軽自動車に持ち込み、斬新さを使い勝手で示した。また、軽自動車という概念にこだわらない品質にもこだわった。その結果、登録車からの乗り換えが多いのも強みとなっている。

スーパーハイト系という価値を生み出したのはタントである。しかし2018年に関しては2位を保持することさえできず、スズキのスペーシアにその座を明け渡した。なおかつ3位に日産デイズが入り、4位にまで後退してしまうのである。そうした状況を一気に挽回すべく、今回、待望のフルモデルチェンジを迎えた。

7月9日に行われた新車発表会で、ダイハツの奥平総一郎社長は「タントはダイハツの基幹車種に成長した」と述べ、その重要性に触れた。同時に「軽自動車販売で13年連続ナンバーワンである」(同)と、軽自動車の商品力への自信をのぞかせた。

DNGA第1弾となったタント

その自信は、どこからくるのか。まず、最適な商品をこれまで以上速やかに提供する基盤として、DNGAを挙げる。DNGAとは、ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャーのことであり、その語呂は、トヨタのTNGAに通じる。

しかし3年前にトヨタの完全子会社となったダイハツが、TNGAの手法を単にまねたわけではない。軽自動車開発で培った良品廉価の技術を、東南アジアなど海外展開へも適応できる技術として投入した独自の技術骨格である。


新型タントの運転席の様子(撮影:尾形文繁)

そのDNGA第1弾となったのが、今回発表された4代目となる新型タントだ。当然ながら、通称名別新車販売で、前型タントが2014年にN-BOXを上回ったように、再び1位を奪い返す意気込みであるのは間違いない。

2003年に誕生した初代タントは、子育て家族を応援するクルマとして、ムーヴなどそれまでのハイトワゴンよりさらに背を高くし、室内天井が高くなることで車内での子供の世話をしやすくしたことが人気を呼んだ。

2代目では、スーパーハイトワゴンで不可欠とされるミニバンのような後席スライドドアを、歩道側のみ、前後ドア間の支柱をなくし、ミラクルオープンドアと命名して、これがタントの人気を不動のものとした。この方式は、今日なおN-BOXもスペーシアも採用していない。3代目のタントではこれを、左右両側のドアにも適用した。

スペーシアはかつて、パレットという車名だった。しかしクルマの価値が伝わりにくいとして、2世代前から広々とした空間を印象付けるスペーシアへ車名変更し、タントに対抗した。


スズキ「スペーシア カスタム」(撮影:尾形文繁)

そして現行車では、家族や仲間とワクワクできるクルマを目指し、外観や内装に道具仕立ての意匠を与えている。

また軽自動車としては唯一スズキが誇るマイルドハイブリッドを搭載した。これにより、静粛性や加速の良さなど、走行性能の上質さは他社を超える存在となっている。それらの改良が、2018年にN-BOXに次ぐ2位の販売台数を獲得し、なおかつ対前年比145%強の伸び率を残したといえるだろう。

高齢者に優しいクルマ

初代から、子育て家族を主体に商品力を高めてきたタントだが、この4代目からより幅広い世代の利用者を視野に開発がなされた。免許証を取得して間もない若者から、従来同様の子育て家族、さらには高齢者へも視野を広げている。

従来価値の拡大という側面では、運転席の前後移動量を大幅に増やし、後席まで届くほど後ろへ下げられるようにした。運転席を大きく後ろへ下げられることにより、ミラクルオープンドアを利用しながら子供と一緒に歩道側からクルマに乗り込み、運転席に着座することができる。

車道側で乗り降りしないで済む点は、交通量の激しい通りではより安全につながり、安心をもたらすだろう。また後席に届くほど後ろへ運転席を移動できるため、後席に座る子供の世話もしやすくなる。


助手席ターンシート仕様の新型タント(撮影:尾形文繁)

そして新たに、福祉車両でなくても、販売店の注文装備扱いで、助手席のドアやスライドドアの開閉に連動して車外へステップが自動展開・収納する機能を取り付けることができる。あるいは、前席背もたれの裏側に、後席のための手すりを販売店注文装備で取り付けることもできる。そのように高齢者の乗り降りもしやすくする装備を、福祉車両以外の車種で装着できるようにしている点が目新しい。

高齢者に対する対応策は、地域密着プロジェクトと呼ばれる活動から生まれている。地域密着プロジェクトとは、国内市場において、少子高齢化/国内市場の縮小/電動化や自動運転化に加え使用から利用へという動向に対処するため、ダイハツ販売店と地域が密着し連携を深めていく取り組みである。

これは産官学民で連携し、地域に合ったクルマとの付き合い方を模索しようというコト(利用や使用)づくりである。その成果が、モノ(新車)づくりにも反映され、新型タントの新たな価値創造につながっている。モノとコトを両輪とした開発や販売店の価値創造は、まだ始まったばかりだ。その成果は、新型タント販売の推移からこの先みえてくるだろう。

ダイハツの「Light you up」というコーポレートスローガンは、いかにもダイハツらしい愚直な姿勢で人を愛する様子を伝える標語だ。一方でホンダは、「The Power of Dreams」を永年標語に掲げ、原動機がもたらす夢を追求し続ける姿勢を貫く。そこには本田宗一郎の人間尊重の精神も含まれている。

どちらの標語も、優劣を競うものではない。顧客の嗜好が、より安心を求めるか、夢を求めるかだ。

現状、N-BOXが初代〜2代目と連続して高い人気を維持している背景に、暮らしの中のちょっとした夢を追いかけたい人々の期待が現れているのではないか。新型タントと地域密着プロジェクトの活動は、じわじわと浸透していく価値であろう。

ただし、デジタル通信で情報が瞬時にして伝わり、反射的に価値を判断する時代にあって、ややわかりにくい気がしないでもない。一方で、そうした素早い情報や価値の変化に、疲れを覚えはじめている人もあるだろう。

「安心」という言葉の重要性

N-BOXとタントは、そうした現代の2つの側面を体現し、それに対するそれぞれの自動車メーカーの回答であるともいえる。それは、勝ち負けではない。人生の選択肢だ。


新型タントはNーBOXと違う価値で勝負する(撮影:尾形文繁)

もちろん販売の最前線では成績がすべてである。しかし消費者の目線からすれば、そうした選択肢があることが重要になる。そして一人ひとりの生き方に親身になってくれるクルマを愛用したいという気持ちであるはずだ。

少なくとも、時代は少子高齢化と向き合わなければならない。今、N-BOXに乗って夢を追い続けている人も、やがてはその現実に直面する。ほとんどの軽自動車が安全装備を標準化するようになったことも、数年前には考えられないことであった。それほど人々は、安全や安心に大きな価値を見出している。

1年後の成績はどうか。まだ見通すことはできない。しかし、安心という言葉はデジタル時代が進むほどさらに重要性を帯びていくだろう。新型タントのよさは、人生の年を重ねるごとにしみじみと心の底に浸透していくはずだ。