J1リーグのジャッジが、またしても論争を巻き越した。横浜F・マリノス戦と浦和レッズ戦で、判定が二転三転した。

 DAZNの『Jリーグジャッジリプレイ』では松本山雅FC対ジュビロ磐田、サガン鳥栖対サンフレッチェ広島戦のプレーも取り上げられていた。

 松本は0対0の前半7分、左CKの流れから前田大然がネット揺らした。味方のヘディングに素早く反応したいいゴールである。ところが、オフサイドポジションだったとして認められなかった。

 スロー映像で確認すると、オフサイドではない。松本が判定に従ったことで試合は中断することなく、そのまま続行されていった。85分に失点した松本は、0対1で敗れている。
この結果を受けて、松本は勝点17でJ2自動降格圏の17位のままとなった。一方の磐田は18位から16位へ順位を上げ、プレーオフ出場圏へ浮上した。

 前田の得点が認められていれば、その後の展開は変わっていただろう。1対0のまま終盤を迎えていたら、松本の反町康治監督は違った選手交代やゲームプランを用いたはずだ。それ以前に失点をしていたかもしれないが、前がかりになった磐田の背後を突いたり、リスタートを生かしたりして2点目を奪うことができたかもしれない。

 すでに試合は終わっているから、仮定を積み上げることは意味を持たない。ただ、シーズン終了時の松本と磐田が、勝点3差で明暗を分けることになったら──この試合を思い返すファン・サポーターと関係者は多いはずだ。

 鳥栖対広島戦では、0対0で迎えた75分のゴールが論点になった。直接FKに反応してアシストを決めたパトリックのポジションが、オフサイドだったのである。

 残り15分で均衡が崩れた試合は、80分に追加点をあげた広島が2対0で逃げ切った。勝点を上積みできなかった鳥栖は、前節の16位から最下位へ転落した。

 今シーズンのここまでの試合で、磐田と広島がジャッジに泣かされた試合があったかもしれない。彼らだけが利益を得ているとも、松本と鳥栖だけが不利益を被っているとも言い切れない。

 個人的にはミスジャッジも含めて試合であり、サッカーである、と考えてきた。そもそも判定は、グレーゾーンとも言うべき不確実さや不平等さをはらんでいる。

 ただ、VARのようなテクノロジーがすぐ近くにあるなかで、勝敗に直結するミスジャッジが起こっていることには、率直に言って折り合いがつけられない。はっきりとした誤審が例外的なものでなく、毎節のように勝敗に影響を及ぼすのは、不健全と言うしかない。

 当時者たる監督と選手、ファン・サポーターの心理は、やり切れなさで埋め尽くされているのではないだろうか。あるいは、諦めの感情に支配されているかもしれない。

 すぐにできる改善策はないものだろうか。

 審判員を増員すると、人件費が膨らむ。

 J1では主審に12万円、副審に6万円、第4の審判に2万円の手当が支給されている。ゴール脇に立つ追加副審の手当を、第4の審判と同額に設定してみると──1試合ごとにふたりで4万円×9試合分だから、1節で36万円の予算増額となる。交通費や宿泊費もかかる。

 費用より大きな課題となるのは、追加主審をそもそも用意できるのか、ということだ。もし導入となれば、J2やJ3を置いてきぼりにするわけにはいかない。

 いずれにしても、現状維持では審判と選手の信頼関係が回復できないし、深まってもいかない。見切り発車でもいいから、実現可能な措置から始めていくべきではないだろうか。静観や先送りという選択肢は、もはや取れないと思うのである。