酸素なしで動く心臓を実現する鍵は「カメ」にあるかもしれない
By mblach
カメが冬眠することはよく知られていますが、その冬眠場所に池の中や湖の下を選ぶことがあるのはあまり知られてはいません。カメは酸素なしでも最大6カ月も生存可能で水の中のほうが安全だというのがその理由ですが、カメの無酸素でも生きられる能力が人間にも応用できる可能性があると研究者は考えています。
Developmental plasticity of cardiac anoxia-tolerance in juvenile common snapping turtles (Chelydra serpentina) | Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences
Turtle study shows hearts can be programmed to survive without oxygen
https://phys.org/news/2019-06-turtle-hearts-survive-oxygen.html
Some Animal Hearts Can Adapt to Survive Without Oxygen, And Scientists Are Intrigued
https://www.sciencealert.com/some-animal-hearts-are-programmed-to-survive-in-the-complete-absence-of-o2
カメは孵化までの環境に酸素が少なければ少ないほど、成体になったときに低酸素でも生きられるようになるということが知られています。マンチェスター大学の研究チームは、そのメカニズムを解析するため、野外から収集してきたカミツキガメの卵を実際に酸素濃度10%という低酸素の状態において孵化させ、成体の心臓を調査するという実験を行いました。この酸素濃度10%の環境とは、巣穴に産み落とされた卵の中で一番底側に置かれてしまった卵の状況を模したものです。また、対照群として酸素濃度21%で孵化させたカミツキガメも用意しました。
それぞれの条件下で生まれたカミツキガメを生後15カ月から24カ月になるまで一般的な大気と同じ酸素濃度の環境下で飼育し、心臓から心筋細胞だけを抜き出して、細胞中の細胞内カルシウム・pH・活性酸素などの低酸素耐性に関係している成分をそれぞれ分析しました。分析の結果、低酸素下で孵化したカミツキガメの心筋細胞は、無酸素の状態でも通常の大気中と同様に動くことが判明。加えて、哺乳類などでは酸素濃度が急激に上昇した場合には細胞組織の損傷がみられることがわかっていますが、低酸素で孵化したカミツキガメの心筋細胞は酸素濃度が急激に上昇しても細胞組織が損傷しないこともわかりました。
By BrianAJackson
研究チームは、低酸素の環境下で孵化したカメのゲノムにはエピジェネティック的な変化が生じるとみています。研究チームのジーナ・ガリさんは、「カメと人間の心筋細胞は解剖学的に近しいため、カメが無酸素でも生きる能力のメカニズムを解決できれば人間にも応用できます」と語っており、「人間の心臓が酸素欠乏に耐えられるようになれば、心臓発作によって心筋細胞に供給される酸素が断たれても問題なくなったり、臓器移植に際して臓器の損傷を抑えることができたりする可能性があります」とコメントしています。