大坂がまさかの初戦敗退。「勝たなければ」という思いの強さが落とし穴に

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敗れた大坂なおみは「彼女が本当にうまくボールを交ぜてきた」と話した。勝ったユリア・プティンセバ(カザフスタン)は「できるだけ彼女に気持ちよく打たせないようにした」と振り返った。「どうやってそれを?」と記者に聞かれると、「彼女は動かされるのは好きではないと思ったので、それを心がけた。また、いろいろなボールを交ぜていった」と答えた。

 勝者と敗者の見方が一致した。プティンセバはバックハンドのスライスやフォアハンドのループなど遅いボールを交ぜ、大坂の力みを誘った。あえて遅いボールを使い、相手のタイミングを外すのは、テニスの醍醐味だ。そこに、ときおり強打やドロップショットを交ぜる。大坂はこの「ミックスアップ」に苦しんだ。


 相手がこの戦術で挑んでくるのは分かっていたはずだ。これまで2戦していずれも敗れている。そのうち一つはこの6月、芝コートで行われた前哨戦のバーミンガム(イギリス)で喫した黒星だった。相手が再びこのプレーで挑んでくることを想定し、事前に練習を行っていた。その練習では「調子は悪くなかった」という。実際、序盤に相手のサービスゲームをブレーク、3-1としたところまでは順調だった。ところが、第6ゲームでブレークを許したあたりから、雲行きが怪しくなる。


 相手の遅いボールを力任せに叩き、それがミスになった。足が止まり、気持ちばかり焦るから手打ちになってショットの精度が落ちたのだ。


 ラリーでのアンフォーストエラーは38本に達した。一方のプティンセバは7本。ウィナーは大坂が34本と相手の15本を大きく上回ったが、ミスの内容が内容だけに、最後までリズムに乗れなかった。


 大坂はプティンセバの蜘蛛の巣に捕らえられ、もがき続けた。


 試合後の大坂の記者会見は5分足らずで打ち切りとなった。司会者に「もう泣いてしまいそう」と助けを求め、大坂は会見場を去った。


 したがって、プレー内容から推測するしかないのだが、3回戦で敗退した全仏と同じように、重圧に押しつぶされたと見るべきだろう。スライスはまだまだ質が低く、直線的なスイングからの強打をことごとくネットに掛けたことなど、技術的な課題も挙げられるが、苦戦の第一の原因はメンタル面にある。


 開幕前には「今回はランキングを守ることは考えなくていい」と、1位の座から陥落したことをプラスにとらえるコメントもあったが、当然、四大大会のタイトルへの思いが薄れたわけではない。また、全米、全豪の女王として、背負うものは大きかったのではないか。


 四大大会で優勝した選手は、その後、「勝たなきゃいけない」という思いにとらわれて苦戦する例が多い。周囲の、そして自分自身による期待の大きさに苦しめられるのだ。


 あのノバク・ジョコビッチ(セルビア)でさえ、2008年の全豪で四大大会初優勝を果たしてから、2度目のタイトル、すなわち11年全豪の優勝まで、丸3年も栄冠から遠ざかった。昨年の全米で四大大会初優勝を飾ると、次の全豪も取った大坂は、むしろよく重圧を制したと言える。


 ロジャー・フェデラーは前哨戦での記者会見で、今の大坂について「自分も同じような状況に陥ったことがある。慣れていくしかない」と理解を示した。


 簡単に苦境を脱することができれば一番だが、案外、今、苦しんでおくことが今後の飛躍につながるのではないか。


「だれもが通る道ではないか」と大坂を思いやるのは、日本テニス協会の土橋登志久強化本部長だ。確かに、王者、女王と呼ばれるのは、こんな苦境をくぐり抜け、ひと皮むけた選手たちだ。


 大坂にとっては、本当の女王になるための試練と見ていい。


(秋山英宏)


※写真は「ウィンブルドン」での大坂なおみ
(Photo by Shaun Botterill/Getty Images)