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携帯電話の2年契約を途中で解約する時の違約金を、1,000円以下にすることを政府が検討しているとの報道がなされ、話題となっているようだ。俗に”2年縛り”とも呼ばれる2年契約による携帯電話料金の割引サービスだが、より昔にさかのぼると、実はそこまで厳しいものではなかった。それがなぜ今日では、ここまで厳しい”縛り”へと変化していったのだろうか。

○かつて「縛り」は期間が短かく違約金も安かった

日本政府は最近、携帯電話の料金と端末代金を明確に分けた「分離プラン」を実質的に義務化し、携帯電話料金を原資としたスマートフォンの大幅値引きをできなくするなど、業界の商慣習の大幅な見直しに力を入れている。その政府が、新たな見直し対象として検討を進めているのが、2年間など一定の年数の契約を前提に携帯電話料金を割り引く、俗に”2年縛り”とも呼ばれる期間拘束型の割引サービスだ。

こうした割引サービスを行政側が問題視している理由は、途中で解約した時の違約金が高額で、消費者が携帯電話会社を乗り換える上で大きな障壁になっているというのが1つ。さらにもう1つは、期間拘束がない料金プランも一応は用意されていたものの、そのプランはあまりに料金が高いためほとんど機能しておらず、実質的に期間拘束ありの料金プランしか選択肢がない状況にあるためだ。

しかも携帯電話大手は、今なお2年縛りの見直しには消極的な対応を取り続けている。実際、NTTドコモが分離プランを採用した新料金プラン、「ギガホ」と「ギガライト」を発表した際にも、提示された料金は2年間の期間拘束が必要な”2年契約”を適用した場合のものとなっていた。”縛り”の仕組みは大きく変えたくない様子なのだ。

そうしたことから行政側は、以前から2年縛りに関して強い問題意識を持っていた。そして今回、政府が2年間の期間拘束による割引サービスの違約金を、現在の10分の1近くとなる1,000円以下にすることを検討しているとの報道がなされことから、期間拘束の割引に関する見直しが今後、大きく進むのではないかという見方が広がっている。

ところで携帯電話の料金の歴史を振り返ると、期間拘束を前提とした割引サービス自体は古くから存在しているものでもあったりする。1年以上の利用を約束してもらうことで、契約年数に応じて基本料を割り引く“長期契約割引”がそれに相当し、NTTドコモの「いちねん割引」「(新)いちねん割引」やKDDI(au)の「年割」(後に「1年契約」に名称変更)などが存在していた。

だがそれらはいずれも、拘束期間が1年と現在よりも短く、また中途解約時の違約金も3,000円と安かった。その期間拘束が現在のように2年に伸び、違約金も高額になったのはなぜだろうか。

○2年縛りの容認につながった「MY割」

そのきっかけとなるのは、英ボーダフォンが日本テレコムを買収して日本市場に参入した2003年に提供した「ハッピーボーナス」である。これは2年間の期間拘束を前提とする代わりに、基本料金を15%割り引き、さらに契約初年度は13カ月目、それ以降は10カ月毎に、2カ月間の基本料を無料にするという割引サービスである。

だがその代わり、途中で解約すると1万円の違約金がかかるという厳しいペナルティが課せられていた。そのため提供当初はハッピーボーナスに対して批判的な声が少なからず挙がり、積極的に受け入れられた訳ではなかった。

その“2年縛り”の普及が進んだのは、2006年にauが提供した「MY割」の影響が大きいといえる。当時の携帯電話の割引サービスには主に長期契約割引のほか、家族で同じ会社に契約することで適用される“家族割引”の2つが存在した。そしてこれらの割引サービスは、契約期間や複数契約の約束によって契約者を“縛る”代わりに料金を下げることで、短期間での解約を防ぐという目的があったのだ。

だが家族割引は単身者に適用しづらいため、特に若い単身者は他社に流出しやすい傾向にあった。そして当時auは若い世代の獲得に力を入れていたことから、家族契約に匹敵する“縛り”として、2年間の契約と中途解約時の違約金9,500円を条件に設定、その代わりに単身者でも家族割引と同等の値引きが受けられる「MY割」を提供したのである。

MY割は単身者向けという明確な目的とメリットがあったことから、期間拘束が長くてもターゲットとなる若い世代に受け入れられた。そこでauは2年間の期間拘束が消費者に受け入れられると判断、2007年にはMY割をさらに強化し、2年契約を前提に、家族割引に加え長期契約割引の最大年数分が適用される「誰でも割」を提供したのである。誰でも割は、適用すると契約初年度から基本料が半額になるというインパクトがあったことから、これまた消費者に受け入れられたのだ。

さらにその後、NTTドコモが同種の割引サービス「ファミ割MAX50」「ひとりでも割50」を提供するなど、他社が追随したことで、2年間の期間拘束を前提とした割引サービスが定着するに至っている。それに加えて2006年に、ボーダフォンの日本法人を買収して設立されたソフトバンクモバイル(現・ソフトバンク)が、2年間の割賦払いを前提に料金を値引きする、携帯電話の買い方プログラム「スーパーボーナス」を提供したことで、“2年”という縛り期間が定着していったのである。

つまり2年縛りには元々明確なメリットが存在し、そのメリットを消費者が選んだ結果が、現在の状況を生み出したともいえる。従って、分離プランの導入によってスマートフォンの値引きが減り、高額なハイエンドモデルが買いづらくなったように、2年縛りが弱まれば何かしらのデメリットが生まれる可能性があることも、消費者は覚悟しなければならないだろう。