Appleは、新しい機能の追加により、iPhoneを独立したウォールド・ガーデンに変えようとしている。その機能が使われるようになれば、企業がモバイル機器を通して人々を追跡するのが困難になるだろう。

AppleのiOSモバイルオペレーティングシステムで予定されているメジャーアップデートには、人々の携帯電話から広告主、パブリッシャー、そしてアドテク企業へと流れる情報を制限する新しいプライバシー関連の機能が含まれる予定だ。6月3日にAppleのWWDC(世界開発者会議)で発表された新機能は、今年後半に正式にロールアウトされ、同社のデバイス上でサードパーティトラッキングを制限するというAppleの取り組みが継続することが予想されている。

要点:


Appleのシングルサインオン(single sign-on)機能は、ログインしたユーザーのメールアドレスを収集するアプリやウェブサイトの機能を制限する。
他社のシングルサインオン機能を使用するアプリに、Appleのシングルサインオン機能の採用を強制する。
Appleは人々の位置情報を追跡しているアプリについて人々の意識を高め、その追跡を制限する新しいオプションを提供する。
企業は人々の位置情報を追跡するために、携帯電話のWi-FiおよびBluetooth接続を利用できなくなる。

Appleの「シングルサインオン」機能の仕組み



FacebookやGoogleなどの企業は、FacebookアカウントやGoogleアカウントを使用してサードパーティのアプリやサイトにサインインすることを人々に許可しているため、これら2社はそれぞれのアプリにおける人々の行動を追跡することが可能だ。Appleはこの種の追跡を好ましいとは思わず、独自のシングルサインオン機能を開発した。

FacebookやGoogleのシングルサインオンツールと同様に、「Appleでサインイン(Sign in with Apple)」により、人々はAppleアカウントを使ってアプリにログインすることができる。これにより、アプリのために新しいアカウントを登録することなく(アプリのための新しいパスワード覚える必要もなく)、注文履歴の管理など、アプリ側が人々のアプリ使用状況を追跡することが可能だ。

ただし、Appleのサインオンツールを使えば、人々は自分の身元をアプリ開発者から隠すことができる。注文の確認や宣伝メッセージの送信のために、メールアドレスにアクセスすることをアプリが要求しても、要求された人はAppleに匿名のメールアドレスを用意してもらい、そのアプリに送信することが可能だ。その後、そのアプリがそのランダムアドレスにメールを送ると、Appleがそれらのメールをその人の実際のメールアドレスに転送してくれる。

Appleの「シングルサインオン」機能が広告主とパブリッシャーへ及ぼす影響



Appleのシングルサインオン機能は、アプリオーディエンスを持とうとしている企業にとっては厄介になる可能性がある。実際のメールアドレスを共有せず、Appleアカウントでアプリにサインインすることを人々が選択した場合、顧客との直接的な関係の確立を目的としてメールデータベース構築に自社のアプリを利用することの妨げとなる。特に広告主とパブリッシャーの場合、広告主のメールデータベースとパブリッシャーのメールデータベースのマッチングをして、その広告主の顧客ではないパブリッシャーのオーディエンスメンバーに広告を送るなど、広告の対象になる人々を選定する識別子としてメールアドレスを使用している。

Appleの最新のApp Storeレビューガイドラインによると、アプリが他社のシングルサインオンツールに対応している場合、Appleは同社のシングルサインオン機能を採用するようにアプリに要求するので、この機能はアプリに大きな影響を及ぼす可能性がある。Appleがウェブサイトに対して同様の要望を出すかどうかは明らかではない。その要求により、人々はAppleアカウントでアプリにサインインする可能性が高くなるだろう。

Appleの「位置情報追跡制限」の仕組み



ワシントン・ポスト(The Washington Post)によると、Appleはアプリに対して、人々の情報を収集する基準を引き上げているという。まず、Appleはアプリが人々の位置情報にアクセスしようとするたび、人々がアプリに対して位置情報リクエストを出すように求めることができる、新しい位置情報共有オプションを導入する予定だという。さらにAppleは、バックグラウンドで実行されているアプリが人々の位置情報を継続して追跡しているとき、そのことを人々にはっきり伝えるようにするだろう。そして、Appleは企業が位置情報追跡に携帯電話のWi-FiまたはBluetooth接続を利用することできなくさせるだろう、という。

Appleの「位置情報追跡制限」が広告主とパブリッシャーへ及ぼす影響



すべての企業が人々の位置情報へのアクセスを失うことになる。新しいワンタイム・シェアリング・オプションとバックグラウンド追跡アラートにより、アプリは1度は位置情報の追跡に同意を得ても、その人がアプリを積極的に使っていないときにも、持続してその人の位置情報を監視することはできなくなる。

ただし、より大きな影響は、Wi-FiとBluetoothに基づいた位置情報追跡を無効にするというAppleの動きに起因する可能性が高い。企業は人々の位置を三角測量するために、携帯電話がネットワーク接続を確認するWi-FIネットワークとBlurtoothデバイスを監視している。企業がこの方法で人々を追跡するためには、人々がWi-FiネットワークやBluetoothデバイスに実際に接続する必要はなく、携帯電話がWi-FiまたはBluetoothをオンにして位置情報サービスを有効にしていれば良いだけだ。この方法により、誰かが特定の地域にいるかどうかを確認し、その情報を使用して広告を配信したり、配信された広告の影響を評価することが可能だ。

たとえば、Facebookのような企業は、小売業者の実店舗にBluetoothビーコンを仕掛け、その足跡を辿り、オンライン広告で店舗訪問者をリターゲットにしている。この種の位置情報追跡を無効にすることで、Appleは位置情報に基づいた広告、あるいは少なくともWi-FiとBluetoothに基づいたトラッキングを利用して、オーディエンスセグメントを作成し、広告の影響を測定するアドテクベンダーに深刻な打撃を与える可能性があるだろう。

Tim Peterson(原文 / 訳:Conyac)