(C)2018 MEMENTO FILMS PRODUCTION - MORENA FILMS SL - LUCKY RED - FRANCE 3 CINÉMA - UNTITLED FILMS A.I.E.

『別離』『セールスマン』で2度のアカデミー賞に輝いたイランの名匠、アスガー・ファルハディ監督の最新作『誰もがそれを知っている』が6月1日(土)よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次公開される。

◆豪華キャストを迎え、異国で挑んだファルハディ監督の新境地

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母国であるイランを拠点に活動しながらも、異国情緒あふれる独自の世界観と普遍的な作風が高く評価され、世界中の映画ファンから熱狂的な支持を集めるファルハディ監督。最新作では、世界的なトップスターであり、実生活では夫婦でもあるペネロペ・クルス&ハビエル・バルデムとの夢のタッグが実現。15年前のスペイン旅行で目にした壁に貼られた“行方不明の子供の写真”に着想を得て以来、ずっと温めていたという念願の企画をついに完成させたのだ。

2018年の第71回カンヌ国際映画祭のオープニング作品として初お披露目された本作は、スペインの片田舎で起きた少女の誘拐事件をきっかけに、次々と露わになる家族の秘密と、それを巡って巧みにあぶりだされる愛憎劇を、刻々と捉えた極上のヒューマンサスペンス。アカデミー賞のみならず、ベルリンやカンヌをはじめとする世界各地の映画祭でも華々しい受賞歴を誇り、既に揺るぎない評価を確立しているファルハディ監督が、言葉の壁を越えて初のオール・スペインロケに挑んだ新境地ともいうべき作品なのだ。

◆誘拐事件をきっかけに露わになる家族の愛憎と猜疑心

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物語は、アルゼンチンで暮らすラウラ(ペネロペ・クルス)が、妹の結婚式に出席するため、幼い息子と思春期真っただ中の娘を連れ、スペインの田舎へと里帰りする場面からスタートする。ワイナリーを営む幼なじみのパコ(ハビエル・バルデム)や家族との再会を果たし、親族や友人らと賑やかに結婚パーティーを楽しんでいた矢先、何の前触れもなくラウラの娘イレーネが失踪してしまう。

やがて何者かから巨額の身代金を要求するメールが届き、失意のドン底へと突き落とされたラウラは、パコとともにイレーネを無事に取り返す方法を必死で模索する。ラウラの夫も急遽アルゼンチンから駆けつけるが、互いに疑心暗鬼に陥った親類縁者の間で、長年隠されていた“秘密”が露わになっていく……。

◆極限まで突き詰めた“リアリティ”がエンタメ性を創出

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ファルハディ監督作品といえば、息を呑むほどスリリングなストーリー展開と、社会や人間に対する奥深い観察眼がもたらす巧みな演出で知られるが、本作が新境地たり得る理由は、ペネロペ・クルス&ハビエル・バルデムという実夫婦がもたらすナチュラルな空気感と、脇を固めるキャラクターを含めた全ての登場人物とともに極限まで突き詰めた“リアリティ”にある。本作の舞台は、日本とは似ても似つかないスペインの片田舎ではあるのだが、劇中で繰り広げられる極めて閉鎖的な“村社会あるある”には、既視感を覚えてしまうという人がきっと多いはず。「誰も知らない」と思っているのは当人だけで、村中の「誰もが知っていた」という恐ろしい現実に、思わず「うわぁ……」と目を覆いたくなるに違いない。一般的にはファンタジーであるほどエンターテインメントの要素が高まることの方が多いのだが、ファルハディ監督の場合はリアルであればあるほどエンタメ性が高められ、これまで以上にストレートに観客の感情に訴えかけてくる。

一番リアリティを感じたのが、ラウラの実家のリビングに親族が集まり、誘拐事件の起こる直前の結婚パーティーを記録した映像を、「一時停止」と「巻き戻し」を繰り返しながら再生するシーン。無意識のうちに身を乗り出して、食い入るようにスクリーンを見つめ、一緒になって犯人捜しをしてしまいそうになる必見の場面!

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さらに、ペネロペ・クルス&ハビエル・バルデムという「誰もが知っている」国際的なスターを主役に起用したことにより、物語への取っつき易さが倍増しているからたまらない。なんといっても、誰もが羨む美貌で知られるペネロペ・クルスが、雨と涙でドロドロに溶け落ちたマスカラで目の下を真っ黒にして、娘を誘拐された母の憔悴ぶりを体現していることに驚かされる。さらに、かつてコーエン兄弟監督『ノーカントリー』(07)で冷酷な殺し屋を演じ、『007 スカイフォール』(12)や『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊 』(17)で悪役を怪演してきたハビエル・バルデムが、事件に翻弄されてなお、自らの信念に従って行動する姿に魅了されてしまうのだ。

◆随所に張り巡らされた伏線と“絡みつく”事件の後味

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村で過去に起きた陰惨な誘拐事件の新聞記事の切り抜きや、教会の鐘つき場の壁に刻まれたイニシャル、互いに交差する不穏な眼差しなど、事件の伏線はところどころに散りばめられている。金や土地を巡る積年の恨みつらみが徐々に明るみになる展開からは人間の業の深さが感じられ、全編にわたってどこかワイドショー的な下世話な雰囲気が漂っているのも、かつてのファルハディ作品にはあまり見られなかった特徴だろう。

事件の犯人は観客に明かされるが、何とも言えない「後味」が絡みつき、複雑な血縁関係や緻密に張り巡らされた伏線を回収するために、何度も何度もリピートしたくなる。言葉や文化を越えて、人間の感情の奥深さや恐ろしさを、思う存分味わわせてくれる珠玉の1本だ(文/渡邊玲子)。

映画『誰もがそれを知っている』は6月1日(土)よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

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