レアル・マドリードやバルセロナが属するスペインのサッカーリーグ、ラ・リーガ(La Liga/日本での一般的呼称はリーガ・エスパニョーラ)が米国でメディア事業の拡大に動いている――数年後に控えた、TV/デジタルディストリビューターからの関心と収益増が見込める新たな権利契約の締結を見越してのことだ。

同リーグは昨年、スポーツマーケティング企業レレヴェント(Relevent)とジョイントベンチャー、ラリーガ・ノース・アメリカ(LaLiga North America)を設立。現在、米国でメディア事業の大規模展開を図っている。具体的には、ソーシャルプラットフォームに毎日アップする動画番組、ストリーミングプラットフォームおよびTVネットワークにライセンスする長尺番組、ファンイベント、全米各地のサッカーコミュニティへの支援を計画しているほか、最終的には、リーガのレギュラーシーズンマッチの米国開催まで視野に入れている。

同社は最初の3年間で約1000万ドル(約11億円)を投資し、スポンサーシップ、コンテンツ販売、試合チケット販売、メディア権契約など、多様な収益源を有する、メディア事業の確立を狙うという。

「ラ・リーガの米国進出を手伝いたい」と、ラリーガ・ノース・アメリカのCEOボリス・ガートナー氏は語る。「スペイン国外では、米国はいまや最大のマーケットであり、しかもまだ成長の余地がある。特に2026年には、ワールド・カップ(カナダ、米国、メキシコの共同開催)が控えており、今後大きな伸びが期待できる」。

「自社商品の価値を高めるため」



同社の長期目標は、ラ・リーガの北米メディア権の価値を高めることにある。同国における放映権は現在、ビーイン・スポーツ(BeIn Sports)が保有しているが、あと2年で切れる。米国でのサッカー人気が高まるなか、ラ・リーガが世界屈指の人気を誇る2チームを有する事実は、多くの関係企業にとって魅力的だろう。

無論、2年後の権利価値は定かでない。ウワサによると、NBCスポーツは 2015年、プレミアリーグとの6年契約に10億ドル(約1110億円)を支払っている。米国におけるラ・リーガの人気はプレミアリーグのそれほどではない。だが、レアル・マドリードやバルセロナ、そして(バルセロナのエース)リオネル・メッシはよく知られている。権利関係の契約交渉に先じ、関心をさらに高められるメディア事業を構築しておくのは得策にほかならない、というのが彼らの考えだ。

「権利料が上がり続けてくれと、ただただ祈るのか、それとも、自社商品の価値を高めるために努力するのか。答えは明らかだ」と、ガートナー氏は語る。

レレヴェントは同ジョイントベンチャーに出資しており、利益は両社で等分する。このベンチャーは長期にわたり利益を生んでくれるはずだと、同社は自負する。

6つの番組で、200のエピソードを



ラリーガ・ノース・アメリカのコンテンツチームはまず、スペイン語しか解さない、もしくは英語とのバイリンガルのヒスパニック系にフォーカスする(同チームのリーダーは、元ユニヴィジョン[Univision]幹部エイドリアン・セゴヴィア氏で、米国とメキシコにプロダクションユニットを有している)。続いて、そこを土台にして、英語しか解さないヒスパニック系や一般サッカーファン向けのコンテンツを開発していくと、ガートナー氏は語る。

この戦略の一環として、同社は2019年、毎日および毎週放送の番組を6つ立ち上げ、200エピソードを流す。司会のルイス・ガルシア氏が最新試合のニュース/ハイライトを解説する番組「ラリーガ・セガン・ルイス・ガルシア(LaLiga según Luis Garcia)」や、リーガ・クラブを愛する全米各地のファン/移住者に注目する「ザ・ファンズ・リーガ(The Fans’ League)」は、その代表例だ。ラ・リーガと密接な関係にあるため、試合のハイライトも問題なく放送できると、ガートナー氏は断言する。

こうした番組だけでなく、同社はストリーミングプラットフォームおよびTVネットワーク用の長尺番組の共同制作についても、制作会社3社と交渉を進めている。実際、Netflix(ネットフリックス)とAmazonはいずれも、サッカーのドキュメンタリー番組に高い関心を寄せており、これもまた同社にとって追い風になるだろう。

「ラリーガが所有するIP(知的財産)と権利には、間違いなく高い価値がある」と、ガートナー氏。「我々は今後、(リーグやチーム、選手)との関係さらに緊密なものにし、その実現に手を貸してくれる制作パートナーと提携していく」。

三方良しのマネジメント



ファン向けのライブイベントにも、同社は注力していく。たとえば、3月第1週末のレアル・マドリードとバルセロナによる伝統の一戦(クラシコ)に先立ち、ヒューストンとロサンゼルスでファンイベントをふたつ催しており、見込みどおり、合計5000人以上の集客に成功した。

同社は米国におけるレギュラーシーズンマッチの主催計画にも再び取り組むと、ガートナー氏は語る。今シーズンでの実現も目指したのだが、選手やいくつかのクラブから激しい反発に遭い(後者は長距離移動を強いられる点と、重要なホームゲームの機会を奪われる点に強い難色を示した)、慌てて取り下げた。ガートナー氏いわく、選手、クラブ、管理機関のいずれにも賛同してもらえる試合を実現できるよう、再度交渉に臨むという。

Sahil Patel(原文 / 訳:SI Japan)