豚コレラの調査捕獲に向けて、わなを設置する鈴木さん。わなは3分で設置できて捕獲率も高い、同市の仲間が作った独自のわなだ(愛知県新城市で)

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 豚コレラの拡大で、岐阜県や愛知県のジビエ(野生鳥獣の肉)関係者に深刻な影響が及んでいる。政府は野生イノシシへのワクチン(餌に混合)を3月から、まずは1年間設置し効果を検証する方針。当該地域の狩猟が規制されるため影響は長期化する見通しだ。狩猟から解体施設、加工所、特産品、地域振興まで及び、裾野は広い。狩猟者やジビエを扱う店からは、一刻も早い終息を願う声とともに「死活問題」「先行きが見えない」など切実な意見も出ている。

遠のく地域活性化の夢


 愛知県新城市作手地区。豚コレラに伴うイノシシの調査捕獲に向け、くくりわなを仕掛けながら、農家で狩猟者の鈴木康弘さん(66)は険しい表情を浮かべる。同市では感染したイノシシは発見されていないが、鈴木さんは「ジビエを核にもうかる地域を目指そうと頑張ってきた中で、大打撃」とうなだれる。

 猟友会の同地区長を務め、後継者育成のため今春にはNPO法人発足も予定する鈴木さん。狩猟やジビエの加工・販売などに取り組む若者をけん引する存在だ。学校跡地を解体場にし、ジビエ肉を販売して旅館や店などで売り出す「ジビエ街道」をつくろうと、2年前から仲間と構想を練ってきた。特産品だけでなく、イノシシを活用したペットフードや皮革製品、都市住民に獣道を案内するツアーもしたいと考えていた。捕獲してもイノシシの大半を捨てていたことから「捨てるものに価値を生む」と夢を描いていた矢先だった。今後、計画を実行するにも風評被害に不安が募る。

 農水省によると、豚コレラに伴うジビエへの支援策は現時点ではないという。このため鈴木さんは「仲間の中には死活問題になっている人もいる。狩猟から特産品まで現場は、これから豚コレラとの長い長い闘いを強いられる」と危機感を募らせる。現場への素早い情報伝達や、影響を受けるジビエ関係者への支援を求める。

風評 既に在庫も売れず


 豚コレラ対策で狩猟が禁止されている自治体は1日現在で、岐阜県42市町村のうち27市町(一部含む)、愛知県54市町村のうち6市(一部含む)。両県ともワクチンを設置する市町村は現在検討中。

 農水省によると、ワクチンを散布する地域では狩猟を規制し、調査捕獲を行う方針だ。調査捕獲したイノシシは全て処分し、食用に回さない考えという。

 岐阜県恵那市の狩猟者、村上誠治さん(68)は2年前、師匠とイノシシ肉の解体や販売などをする「ジビエの里山舎」を立ち上げた。地域資源に育てたいとの思いで貯金を投資し運営してきたが、豚コレラ発生で事実上、運営ができなくなった。「もうかるわけではないが、細々と頑張ってきたのに、どうしていいか分からない。情報が全くなく対処ができない。先行きが見えない」と嘆く。風評被害で在庫分も売れないという。

 狩猟ができていないのに、狩猟税が返金されないことも重い負担だ。総務省によると、災害などの場合、狩猟税の減免ができる条例を地方公共団体が作ることができる。しかし、地方税法には豚コレラに伴う狩猟禁止に関する記載がなく、狩猟税1万6500円(第一種銃猟の場合)などは狩猟者に返金できない。村上さんは「ジビエや狩猟をやめる人が出てくるのは間違いない。狩猟もジビエも長期間、下火になるだろう」と嘆く。

 愛知県豊田市でジビエの解体や販売をする猪鹿工房山恵は、豚コレラの発生を受けイノシシの受け入れを自粛する。鈴木良秋さん(67)は「影響がこれ以上長引けば、つぶれるかどうかの問題になる。経営へのダメージは非常に大きく、何らかの形で支援策を講じてほしい」と切実に求める。