偽ブランドが流通しないための対策を、日本は進めていかなければならない(筆者撮影)

今年1月、東京・表参道にオープンしたティラミス専門店「HERO’S」の商品が、シンガポールの人気商品をパクったのではないかと騒ぎになっている。

マントを身につけたネコのキャラクターが描かれた瓶入りの商品は、2012年にシンガポールで創業した「ティラミスヒーロー」そっくりで、名前も類似。そのシンガポールからは「私たちのオリジナルブランドがコピーされ、日本で使用できなくなってしまった」との声明が出されたのだが、これは日本の「HERO‘S」が「ティラミスヒーロー」を商標登録したことで、仕方なく日本向け商品を「ティラミススター」と改名することを余儀なくされたからだ。

これには日本の人々からも「悪質な商標取得」との批判が巻き起こっており、中国でよく行われる本家を出し抜いての商標取得問題が引き合いに出されている。

日本はパクリ業者にとって格好の的

中国では過去、無印良品の商標が別の業者に取得され、ベッドカバーやタオルなど一部の商品類について本家の日本企業が商標権を取り戻すため長年、裁判で争ったことがある。ただ、この係争中に本家でも商標取得者でもない、第3の「無印良品」ショップが出没するなど、状況は混乱。そもそも中国では社会が商標を守って商売をする土壌にない。

逆に言えば、日本は皮肉にもパクリ商品がちまたで横行しないまっとうな社会であるから、パクリ業者が商標を保持するメリットも大きいといえる。中国や東南アジアのように商標おかまいなしにパクリ商品が横行していれば、商標を取っても商売の旨味は半減するが、日本ではシンガポール企業は律儀に商品名を変えなくてはならなかった。

昨年、韓国のサムスン電子は中国でパクリ企業とのコラボレーションを自慢げに発表して世界の失笑を買った。

ネット接続を進化させたスマートテレビやAI(人工知能)音声を活用した冷蔵庫など、最新技術での市場攻略に弾みをつける韓国サムスン電子だが、昨年12月、中国法人がスマートフォンの新機種「Galaxy A8s」を発表した際、ファッションブランドの 「Supreme」(シュプリーム)とのコラボを宣言したところ、その相手はまさかのパクリ業者だった。

提携したのは1994年に本家アメリカで設立された「Supreme」とは異なるイギリスのパクリ企業「Supreme Italia」なのであるが、このパクリ企業はイタリアやアジアでは商標権の訴訟で本家に勝った逆転現象で、地域によってはこちらが堂々と商品を販売してきたのである。

「Supreme」は若者に人気の世界的なストリートブランドで、他ブランドとのコラボが有名。ナイキやリーバイス、ルイ・ヴィトンなどとロゴを並べての商品が期間限定で発売され、中には数十万円のプレミア価格が着いた古着もある。今回のコラボはそこにサムスンが加わったというニュースになるはずだったが、発表直後に本家アメリカの「Supreme」が提携を否定し、サムスン電子は大恥をかいてしまった。


雑然と売られていたスマートフォンケースには、「Supreme」のロゴが印刷された(筆者撮影)

ややこしいのは、中国で「Supreme」の商標を取得していたのは、そのパクリ企業ではなく、これまた別の中国法人ということだった。さすがにサムスン側は「コラボは本社とは別に行われたもの」と苦しい弁明をしながら提携中止を発表するしかなかったが、中国・上海に飛んでみると、そもそも現地では安い偽コラボ商品がゴロゴロと売られていた。

パクリ商品であふれる上海のショッピングモール

上海市内、ロレックスやコーチなど高級ブランドの公式ショップが並ぶデパートには見当たらずとも、一般庶民が買い物をするショッピングモールにあるスマホ関連グッズを売るショップでは、労せずして「Supreme」ロゴの入ったスマホカバーや充電器などを見つけた。サムスンの機器用のものの中には、「SAMSUNG」のロゴが印刷されているものもあったが、両企業の商標に許可を取ったものではない。


無法地帯の衣類。「クレームが来たことは1度もない」と店側は言うが…(筆者撮影)

上海では以前から、粗悪な材質の「Supreme」ブランド衣類がたくさん並べられている。本物であれば6000〜8000円の値札を付けるようなトレーナーが、そこではわずか1000円程度。Tシャツに至っては400円の商品もあった。中には店頭に「Supreme」のロゴを看板に入れて、まるで公式ショップのように見せている店もあるが、「撮影禁止」の看板を付け、店側のやましさを感じさせている。その店員に話を聞くと「このあたりで出回っているSupreme商品に本物などない」とあっさり言いきっていた。

「ナイキやアディダス、アンダーアーマーなんかも同じ。でも、本物を作っている工場から流れてきた横流し品とか、その工場にあった中古機械を手に入れて作った模造品もあるから、本物と変わらないものもあるよ。買う人は本物かどうかなんて気にしないから、クレームが来たことは1度もないけどね」

この店で売られていたのは、一目でわかる粗悪コピー品ばかりで、アメリカの「Supreme」シャツは中米の自社工場で製造されたアメリカンコットンによる素材が多いが、こちらはペラペラの薄い生地で、中には「Supreme」シャツなのに、タグが「NIKE」になっているマヌケなものまであった。

バンコクやクアラルンプールなども見て回ったが、東南アジア諸国でもこうした状況に大差はなく、ブランド企業が正しく商標を取得していても、市場で安い偽物が出回っていることで、ほとんど商売にはならない状況がある。もちろん公式品には公式品としての価値はあるが、街行く人々が着ているもの、持っているものに目をやると偽物と思われるものが大半で、むしろ本物を持っていても本物には見えないだろう。それこそ、こっちのほうが商標問題より深刻に見えてくる。

ソニーの粗悪品が堂々と通販サイトに

冷蔵庫や掃除機など模倣が難しい家電商品の偽物はさすがに見られないが、たとえば、東南アジアで人気のヘッドフォンメーカーにはアップルと並んで日本のソニーがある。ちまたではパッケージまでそっくりに作った偽物ソニー製品がかなり出回っている。見た目は似ていても、性能の差は大きく、偽物は音質が劣悪で、プラグの接続具合まで不安定だったりする。


一見、正規品に見えるソニー商品(筆者撮影)

こうしたものが治外法権的な露店で売られているうちはいいが、いまや東南アジア版のアマゾンともいえる通販サイト「LAZADA」などでも堂々と販売中なのである。商品型番で検索すれば、その価格相場は本物の10分の1ぐらいである商品がたくさん出てくる。こちらは衣類よりも購入者が本物と思って買った可能性も高まりそうだ。

そこで販売者のLAZADAに取材をしてみたところ、「違法商品は販売できない規約になっていて、販売業者は製造元の企業もしくは代理店などから仕入れているはずだ」との回答だった。しかし、商標を不当に取った企業のみならず、無数のパクリ業者が横行している中では、実質的に厳しく正規の商品を流出させているようには見えない。

実はいま、こうしたパクリ商品を「正規品」として日本に輸出する業者も増えている。例えばUSBメモリーやSDカードを販売するアメリカのサンディスクの関係者によると、「中国や東南アジアで類似名の現地企業が存在し、パッケージまでそっくりの偽物を堂々と製造、AMAZONや楽天など日本の通販サイトなどを通じて大量販売している」という。例えばバンコクには「SANDISK ASIA」なる業者があるが、これは本家とは無関係のパクリ業者である。

しかし、大量の同社商品を周辺国の企業に卸している。日本ではそうした品を日本の通販業者から手に入れた人が、「偽物ではないか」という報告を続々しているが、日本の販売業者や消費者の多くは性能の劣る商品に気づかないままだったりする。なにしろ大手サムスンですら騙されたほど、ブランドに関連した国際取引はまだまだ未成熟で、それは中国やアジアのみならず、イタリアやフランスでも見受けられる現象だ。商標整備と社会流通の双方がそろって正常化するにはかなりの時間がかかるだろう。