国内に1200以上の店舗を構えるほか、アジアやイギリスなど海外にも展開を広げているCoCo壱番屋。「ブルームシステム」という独自ののれん分け制度により、サービス品質を確保しつつ、フランチャイズ店を増やしてきた。写真は六本木店(筆者撮影)

ダイエットをしている人にとって、カレーは御法度の食べ物。食欲を刺激する匂いを漂わせるカレー店の前は逃げるように通り抜ける。もし立ち寄ることがあるとすれば、それは「頑張ったご褒美」。思うさまカレーを堪能するために、満を持して入店する。カロリーなど気にしている場合ではない。

カレーはそもそも、ルーに小麦粉や油が使われているほか、ライスにかけて食べるのが前提だから、カロリー、糖質はどうしても高くなってしまう。だからこそおいしく、満足感があるのだ。

ダイエット中の人でも楽しめる「糖質オフカレー」

しかしこのほど、国内で1265店舗(2018年12月末時点)と最も店舗数の多いカレーチェーン、CoCo壱番屋からダイエット中の人に向けたカレーが発売された。


糖質を従来の半分程度に抑えた「CoCo deオフカレー」690円。トッピングの違いにより、3種類を展開している。写真はほうれん草とフライドチキン3個をトッピングしたAタイプで、糖質量は33.8グラムだ(筆者撮影)

2018年12月1日発売の「CoCo deオフカレー」(以下、「オフカレー」)は、一般社団法人「食・楽・健康協会」のロカボ基準にのっとり、1食あたり20〜40グラムに糖質を抑えた。従来のカレーライスより、糖質が約半分程度に抑えられているという。

同チェーンは1978年に1号店をオープン以後、カレーの辛さや量、トッピングなどを自由にアレンジできるスタイルをいちはやく取り入れ、手軽に、食べたいようにカレーを食べられるショップとしての評価を確立させている。

そうしたカレーチェーンが、なぜわざわざロカボのカレーの発売に踏み切ったのか。また、味やボリュームで満足できるカレーに仕上がっているのだろうか。

「糖質オフのカレーは、『お客様の声に応える』という基本方針の一環として自然にできたメニューです。つまり、当社が今のように商品数を増やしてきたのは、『大盛りにしてほしい』『カツじゃなくてハンバーグはないの?』といった、お客様のご希望を一つひとつ取り入れてきた結果なのです。糖質オフについても、何年か前からお客様からのご要望が増えてきており、開発を検討していました」(壱番屋経営企画室の浅井佳会氏)

量や辛さ、トッピングなどを選べるCoCo壱番屋のスタイルは、いわば、顧客のさまざまなわがままに応える手段として発達してきたものだった。近年では季節限定や地域限定商品なども発売されるようになっており、約40種類のメニューが並ぶ(ただしラインナップは店舗によって異なる)。なお、同チェーンの基本のカレーソースは、さまざまなトッピングに合うよう、あえて“特徴のない味”に仕上げられているという。

今回発売されたオフカレーも、カレーソースは従来のものを使っているそうだ。課題となったのが、ライスの糖質量をいかに減らすかだ。メニューの1つとして提供できる品質まで高めるために、開発には時間がかかったという。

「こんにゃく入りご飯など、さまざまな置き換え食材を検討しましたが、カレーに合う、おいしい食材がなかなか見つかりませんでした。味の面で満足いくものがあったとしても、糖質量の数値的なものが合わなかったり……」(浅井氏)

ライスに代わる最適な食材はカリフラワーだった

いろいろ試したなかで、最適な食材としてたどり着いたのが、カリフラワーだったという。1つには、色が白米に似ていることで、ご飯を食べている雰囲気が味わえるということが大きかったようだ。また、カリフラワーは特有の“ムレ臭”が苦手という人もいるが、カレーと合わせることで気にならなくなるのだという。カリフラワーは100グラム当たりの糖質量が約5グラム(ゆでた場合)と、野菜のなかでは糖質が高いが、白米と置き換えるのであれば大きく糖質を減らすことができる。

具体的には、オフカレーでは、ライス30グラム、カリフラワー120グラムを使用して主食代わりとした。ライス+カリフラワー量・カレーソース量ともに、同チェーンのスモールカレーと同じグラム数だ。なお、標準のカレーではライス量は300グラムあるから、ライスは10分の1に減っていることになる。

ライスを皿の左側にまとめた盛りつけ方も工夫点だ。「カリフラワーとライスを混ぜて食べても、それぞれ別に食べてもよいのですが、右利きの方の場合は右側からスプーンを入れる場合が多いですね。自然に、カリフラワーを先に食べることになり、ベジファーストになります」(浅井氏)

ベジファーストとは、先に野菜を食べてから、ご飯や肉などのメインを後に食べる食事法。食物繊維の働きで糖質や脂質の吸収が緩やかになるほか、かさのある食物繊維によって満腹感が得られるので、ご飯を食べすぎずにすむ。

このように、ダイエット面では大いに期待できそうなメニューに仕上がっているオフカレー。では、もっとも気になる味と満足感はどうだろうか。そもそも「カリフラワーがライス代わり」と聞いて、「おいしそう」と思う人は少ないはずだ。カリフラワー嫌いというわけではなくても、特有のぼそぼそした食感・後味がまず思い浮かぶ。

しかし案に相違し、実際に食べてみると、違和感はあまりなかった。カリフラワーが米粒大にカットしてあるためか、ぼそぼそした食感はない。もちろん白米の味や食感とはまったく違うが、カレーソースと合わせて食べると、サクサクとした歯ごたえからか、「野菜の多いカレー」を食べているような感触がある。味にくせがないので、白米代わりとして、カレーを中和する役割を十分に果たす。また白米と混ぜ合わせても、カリフラワーの味が主張するということはない。

満足感についてはどうだろうか。オフカレーはAフライドチキン&ほうれん草、Bミニハンバーグ&チーズ、Cイカ&ソーセージなど、トッピングをあらかじめ組み合わせたメニュー展開となっている。主食をオフにした分、たんぱく質を多めにしてあるため、食べ足りなかったり、すぐにお腹がすいたりということはなさそうだ。もちろん、希望によりさらにトッピングを増やすことも可能だ。

実際の売れ行きはどうなのだろうか。

「爆発的には売れていません。ただ、感触はよいと思っております。発売前に約30店舗で2カ月間試行販売したときにも、お客様からの厳しい意見はまったくありませんでした」(浅井氏)

糖質制限中の新規顧客を取り込む狙い

特に大々的な宣伝をしたわけではないが、SNSなどでオフカレーの情報を得て、訪れた客は多かったそうだ。その理由として、糖質オフメニューの選択肢の狭さが挙げられる。なかでもランチと言えば、丼もの、麵類などが定番。ランチ時間帯の外食店は“糖質中心”となる。糖質制限中の人にとって、糖質が抑えられるメニューを選択肢として確保しておくのは切実なのだ。

「既存のお客様にオフカレーに移行してもらう、というよりは、糖質制限中の方を取り込むことを狙っています。糖質オフダイエットがブームにもなっておりますので、口コミなどで少しずつ認知度が上がって『じわっ』と広まっていけばと考えています」(浅井氏)

もともと女性を意識したメニューだったが、予想外に男性客からの注文が多いという。

同チェーンでは20〜50代の男性客がメイン層だが、女性客が1人でも入れるような店作り・メニュー展開を進めてきている。2004年に1000店舗を達成、そして2005年にはロゴおよび店舗内外装の変更に着手した。大きく変わったのが座席の幅。日本人の体格の変化に合わせたこともあるが、シックな色合いの内装と合わせて、よりゆったりとできる店へと転換を図ったのだ。スープカレーのように女性や年配者も食べやすいメニューも加えてきている。


2月末までの期間限定メニュー「手仕込豚ヒレ勝つカレー」947円。写真は半熟タマゴタルタルソース(123円)をトッピングしたもの。定番メニューとは異なる皿に盛りつけられ、プレミアム感が演出されている(筆者撮影)

また、近年ではプレミアム感のある商品展開も目立っている。その代表格が「手仕込シリーズ」だ。同チェーンの人気ナンバーワン商品「ロースカツカレー」(774円)は、同社工場で製造した冷凍カツを店舗で揚げて提供している。しかし「手仕込シリーズ」では、肉に1枚ずつ衣をつけるところから店内で行う。オペレーションの負担は増えるが、冷凍に比べ、より肉の食感と手作りならではのサクサク感を味わえる。


とんかつ、ヒレかつ、豚しゃぶをトッピングした「とこトン三昧カレー」1668円(写真:壱番屋)

この「手仕込とんかつカレー」(947円)は2004年に季節限定商品として発売。今は定番メニューとなっているほか、さらに期間限定商品もその都度発売されており、2月末までは「手仕込豚ヒレ勝つカレー」(947円)が販売中だ。とんかつ、ヒレかつ、豚しゃぶをトッピングした「とこトン三昧カレー」(1668円)も人気が高いという。

1号店以来、ハウス食品のカレーをベースに独自の味わいを加えて提供してきた同チェーン。2015年にはハウス食品の傘下に入った。浅井氏は「ライバルはご家庭のカレー」と表現するが、家庭的なカレーを、家族それぞれの好みに応じて気軽に食べられる店として独自性を発揮してきたことが、ここまでの勝因となっている。しかし近年では、1人分を手早く作れるレトルトカレーも充実してきている。むしろこちらのほうが、同チェーンのライバルと言えるだろう。

顧客のニーズに柔軟に対応できるのが強み

そうしたなか、手仕込シリーズのような、より手作り感、高級感が感じられるメニューに客の好みが移行してきているのは興味深い。メニュー数を増やすことによって、ニーズに柔軟に対応することができるのは同チェーンの強みの1つだ。

たとえば2月末までは、全店舗において動物由来の食材を使用していない「ベジタリアンカレー」を発売している。全店舗でベジタリアンカレーを導入するのは同社では初めての試みとなるそうで、客の反応を見て、市場の動向を測りたいという。

ただ一方で、1000店を超える同チェーンの規模において、客の好みに応じてメニューを増やしていくというのは、実はハードルが高い。1品増やすだけでも、食材確保面から始まり、オペレーションの変更や、在庫管理、賞味期限管理などを全店で徹底する必要があるからだ。しかしそのなかで、客の希望をできる限りかなえるという基本方針を維持していきたいという。

そのうえで、同社の独自ののれん分け制度である「ブルームシステム」は、大きな役割を果たす。まず壱番屋に入社し、安定した収入を得ながら店舗オペレーション、人材マネジメント、経営ノウハウなど最低2年学んでから独立する。1265店のうち、一部のFC店を除く1062店が、ブルームシステムによって独立したオーナーが経営する店舗だそうだ。数多くのメニューや複雑なオペレーションに対応できるのも、このシステムによってフランチャイズ店舗のサービス品質が一定に確保されているためだろう。これは、同社が長く育ててきた他社にない強みであり、将来的な市場変化に対応していくための、大きな基盤となっている。