2018年9月に発生した北海道地震では、土砂崩れにより各所で道路が寸断されました。これを復旧すべく、道内はもとより本州各地からも、続々と自衛隊の重機部隊が現地入りしました。民間には見られない重機も活躍しています。

道路をひらけ! 各地から重機が続々北海道入り

 2018(平成30)年9月6日の未明に北海道胆振東部地方を襲った震度7の地震の影響によって、震源に近かった厚真町内では各所で土砂崩れが発生していました。北海道知事による災害派遣要請を受けた自衛隊は、人命救助のほかにもそうした土砂崩れの現場へ大規模な人員を投入し、道路に堆積した土砂を撤去する「道路啓開(けいかい)」作業を行いました。そこで活躍したのが、自衛隊が保有する重機たちです。


厚真ダムへ通じる道の警戒作業を行う陸上自衛隊の施設部隊(矢作真弓撮影)。

 今回の地震が発生した4日後の9月10日午前1時30分頃に、筆者(矢作真弓:軍事フォトライター)は民間フェリーに乗って、震源地に近い苫小牧港へ到着しました。フェリーからクルマを降ろした後に一路、厚真町へとハンドルを切りました。

 到着した当初は真っ暗だった空が少しずつ明るくなってくると、周囲の茶色い山肌が見えてきました。見渡すと、あたり一面で土砂崩れが発生していたのです。この厚真町の現場に真っ先に駆け付けたのは、陸上自衛隊北部方面隊の第3施設団の部隊でした。重機を扱う施設科部隊で、油圧ショベル、ブルドーザ、特大型ダンプなどの一般の建築現場でも働く大型重機を保有しています。

 道路が大量の土砂で埋もれてしまうと、物流経路が寸断され、生活に必要な物資が行き届かなくなるばかりか、急患が発生した場合には陸路で搬送するのが困難な状況になります。一刻も早く道路を開通させたい状態であるものの、重機は限られた部隊しか持っていません。第3施設団や近傍の部隊にも対応できる限度があり、民間の建築会社が持つ重機はほかの場所で使用されているので手一杯です。そこで登場するのが、本州に展開する部隊の重機です。


八戸港から苫小牧港へ向かう航空自衛隊入間基地所属の油圧ショベル(矢作真弓撮影)。

厚真町内では、至る場所で土砂崩れが発生していた(矢作真弓撮影)。

厚真町内で土砂崩れの現場で作業する施設部隊の油圧ショベル(矢作真弓撮影)。

 今回の取材で見ることができたのは、茨城県古河市に所在する陸上自衛隊第1施設団隷下の施設部隊の重機と、航空自衛隊入間基地に所属する部隊の重機でした。これらの重機は、フェリーに積載され、続々と北海道に上陸を果たしたのです。

自衛隊だけのレアな重機も

 重機が道路啓開をする現場を見てみると、一番活躍しているのは油圧ショベルでした。そして、そのショベルが取り除いた土砂を積載するダンプも忙しそうに走り回っています。

 そうした作業現場にて、ちょっと変わった油圧ショベルがほかの重機と一緒に作業しているのを発見しました。それが、自衛隊だけが持つ特殊な油圧ショベル「掩体(えんたい)掘削機」でした。


陸上自衛隊北部方面隊第3施設科所属部隊の掩体掘削機。災害派遣のほか、掩体(シェルター)や塹壕を作る際などに活用される。2018年9月13日撮影(画像:陸上自衛隊)。

「掩体掘削機」とは、油圧ショベルのアーム部分に360度回転する機構を備えています。それによって、一般的な油圧ショベルのように内側へ土をかき集める動きに加え、土砂を外側へかき出すことができます。これにより、油圧ショベルの車体が入っていけないような狭い場所や、細かい所の土砂もアームが届く限り掘削することができるのです。

 この「掩体掘削機」はあまり数が多くなく、目にする機会も少ないのですが、自衛隊ならではの装備といえるでしょう。


厚真町内で作業する第3施設科の掩体掘削機。2018年9月16日撮影(画像:陸上自衛隊)。

第3施設科の部隊は幌内地区(北海道三笠市)へも派遣された。2018年9月11日撮影(画像:陸上自衛隊)。

幌内地区にて。右の掩体掘削機がアームの先を回転させている。2018年9月13日撮影(画像:陸上自衛隊)。

 ちなみに、一般的な建築現場で見られる重機が持っていない装備も取り付けられています。それが「管制灯火装置」です。

 この装置は自衛隊車両全般に取り付けられていて、「ロータリースイッチ」と呼ばれる切り替えレバーを操作することによって、通常のライトを豆電球程度の明るさまで落とすことができます。こうすることによって、光が目立ちやすい夜間であっても、敵にコチラの行動を暴露することなく作業することができます。ただし、油圧ショベルや掩体掘削機の場合は、安全管理と作業効率化のために、アームに取り付けられた作業ライトにカバーを掛けて作業します。

新潟の部隊は西日本豪雨に引き続き

 筆者が今回の北海道胆振東部地震において、自衛隊の重機たちが活躍する現場を見ることができたのは9月13日のことでした。厚真町内にあるダムへの道が大量の土砂で埋まっている現場で、自衛隊の施設部隊が懸命に道路啓開作業を行っていたのです。

「施設科部隊」とは、自衛隊のなかにおける建設部隊のことを指します。おもな任務は最前線で活動する普通科(歩兵)や機甲科(戦車)部隊の攻撃や防御に関する支援を行うほか、後方地域では陣地や主要幹線道路を構築するなどします。たとえば、敵の陣地の前に設置された地雷原に通路を作ったり、破壊された橋の横に新たな橋を架けたり、場合によっては浮橋という巨大なイカダのようなものを浮かべて、部隊の移動を支援したりします。後方では、前線までの数百kmにおよぶ道路を構築したり、山肌を切り抜いて陣地を構築したりする部隊なのです。


油圧ショベルを操作する隊員は熟練のベテランオペレーター(矢作真弓撮影)。

 その作業現場で中心となって作業していたのが、新潟県上越市に所在する第5施設群の部隊でした。この部隊は、発災直後に出発準備を整え、新潟からフェリーで北海道入りしたそうです。実は、この第5施設群は、今年7月に発生した西日本豪雨でも現地に災害派遣部隊として派遣されていて、隊員と重機たちは休む間もなくふたつの大きな災害派遣に参加していることになります。

 こうした献身的な活動によって、9月15日には厚真ダム(北海道厚真町)への道路啓開作業を終えたそうです。今回の北海道胆振東部地震では、厚真町を中心として多くの場所で土砂崩れが発生しました。防衛省・自衛隊としては全7877mの道路啓開作業を完了し、被災地の物流網を復活させたのです。


道路啓開作業で発生した土砂を運搬する特大型ダンプ、「7tダンプ」と通称(矢作真弓撮影)。

多くの油圧ショベルが一斉に作業にあたる(矢作真弓撮影)。

道路脇に積み上げた土砂を特大型ダンプに積み込む油圧ショベル(矢作真弓撮影)。

 ちなみに、将来的な研究の一環として、遠隔操縦による作業車両システムの開発も行われています。この技術は化学・生物・放射能環汚染境下における、がれきなどの撤去技術のひとつとして研究されていて、たとえば東日本大震災で発生した原子力発電所事故のような人が容易に近寄れない現場でも、安全に作業できる環境を作ることを目指しているといいます。

【写真】重機も無人化へ、開発中の「遠隔操縦作業車両システム」


遠隔操縦装軌車両の本体、各種のカメラや衛星通信によって操作することができる。写真は、神奈川県相模原市にある防衛装備庁陸上装備研究所にて(矢作真弓撮影)。