9月1日からANAの特別機内食で提供される米粉パン(写真:コスモバイタル)

全日本空輸(ANA)の機内食に、世界初の米粉パンが登場する。

ANAは9月1日から、食物アレルギーのある乗客などに提供する「特別機内食」で、新しいパンを投入する。27品目のアレルゲンに対応するだけでなく、グルテンも含まない、まったく新しい米粉パンだ。提供するのはANAの全路線・全クラスで、希望する場合は搭乗前に予約(日本出発便は出発の24時間前、到着便は48時間前の予約)が必要になる。

多くの人が食べられる「バリアフリーパン」

グルテンは小麦などに含まれるタンパク質で、アレルギーを持つ人が食べると炎症や体調不良を起こすといわれる。そのグルテンを抜いたグルテンフリー食品は、欧米を中心に健康にいい食材としても認知されつつある。今回のパンは、そのグルテンフリーを、乳化剤や増粘多糖類などの添加物を使わずに、米粉を主成分にして実現した“世界初”のパンなのだ。


ANAのアレルゲン対応機内食の例。メインのトレイの右横にあるのが、バリアフリーパンだ(写真:ANA)

何よりの特長は、添加物を一切使っていないこと。それによって、より多くの人が安心して食べられるパンになっている。

卵や小麦、エビ・蟹などのアレルゲンは、消費者庁が表示すべきとした特定原材料27品目すべてに対応する。そのほか、牛肉や鶏肉、大豆など宗教上の理由で規制がある原料も一切使っていない。乳児に与えるうえでリスクがあるはちみつや、血糖値の上がりやすい上白糖、アスリートにとってドーピングの誘因となる漢方類なども含まれていない。

食品関連ベンチャーのコスモバイタル(東京都豊島区)が開発した米粉パンを、ANAの機内食向けにアレンジした。その米粉パンの名称は「バリアフリーパン」。つまり、多くの人にとって"障害のない”パンということだ。

これまでコスモバイタルはグルテンフリーのパンを展開してきたが、どうしても市場が限られていた。そこで、アレルゲン対応や、ハラール(イスラム教において合法とされるもの)を始めとする宗教上の問題への対応など、あらゆる食の安心に応えることによって市場を広げようとした。その取り組みが、乗客一人ひとりの希望に沿った「ユニバーサルなサービス」を掲げるANAの考えと合致、今回の共同開発に至った。

ANAにとっても導入するメリットは大きい。同社は2017年度に約10万食のアレルゲン対応食を提供したが、アレルゲンの種類や宗教上の理由などによって提供する食材を変えてきた。今後パンに関しては、このバリアフリーパン1つでほぼすべてを賄うことができるようになる。

独自の低酸素焙煎で処理

パンの主成分は米粉と白インゲン豆。ともに独自の「低酸素焙煎」で処理しているため、添加物なしでも柔らかく膨らむ。低酸素常圧で焼く大型オーブンも独自開発し、パンの焼き方にまでこだわった。


生米に独自の低酸素焙煎を施して作られたコメパウダー。これを通常の米粉と配合する。水と混ぜたときに粘性が増し、それが添加物の代わりになる(記者撮影)

記者も実際に食べてみたが、米粉パン特有の“重さ”がなく、思った以上にふっくらしている。ほかに含まれているのは、いちじくとナツメヤシ、オリーブ油、米酢、ドライイースト、塩のみ。コメの本来の甘みもあり、何もつけなくてもほんのりとした甘さを感じた。

グルテンフリーを実現するために、品質管理は徹底している。不純物が混ざらないように素材の仕入れから管理を徹底。コスモバイタルの東京・池袋の本社に無菌ルームを作り、パンを製造・出荷している。現状の生産能力は1日400個だ。

パンの製造・出荷過程では、ANA独自の衛生管理基準が100項目近くある。実は両社は、今回の出荷まで1年半近い歳月を費やしている。管理基準を満たすための環境整備のほか、味の向上のため、大型オーブンも3度作り替えたという。

こうして完成したバリアフリーパンは、ANA機内での展開が中心となるが、池袋で結婚式場やレストランを展開する「リビエラ東京」でも買うことができる。価格は1個300円。「米粉パンはどうしても価格が高くなってしまうが、独自の低酸素焙煎技術で製粉コストを抑えることができる」(パンを開発したコスモバイタルの吉岡久雄さん)。

多くの人が安心して食べられるパンは、訪日客などもターゲットになる。ANAの機内食から、日本発の新しいパンが世界に飛び立つかもしれない。