今回作製したヒトインターフェロンβノックインニワトリ(写真:AIST発表資料より)

 産業技術総合研究所(産総研)は9日、農業・食品産業技術総合研究機構(NARO)らと共同で、卵白に有用組換えタンパク質を大量に含む卵を産む遺伝子改変ニワトリを作製する技術を開発したと発表した。

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 地上の生物は遺伝子の突然変異で進化してきた。人類も例外ではない。今回の発表は、突然変異に頼らないゲノム編集だ。ニワトリの遺伝子を思い通りに改変し、ヒトインターフェロンβと呼ばれる有用なタンパク質を含む鶏卵を生産。ヒトインターフェロンβは、ヒトの体内でウイルス感染により分泌されるタンパク質の一つであり、抗ウイルス作用を持つ。

 バイオ医薬品など組換えタンパク質の需要は拡大するも、高い製造コストが課題だ。この課題を解決し得る製造技術に遺伝子改変がある。昨年8月には、コスモ・バイオがこの研究を主導する産総研とNAROから、ヒトインターフェロンβタンパク質の製造に関する特許実施許諾を受けると発表している。

 なお、研究の詳細は、7月5日(英国時間)にScientific Reportsに掲載されている。

●ゲノム編集によるヒトインターフェロンβの製造の特長

 ゲノム編集技術の手法の一つであるクリスパー・キャス9法を用いる。設計が容易で、効率が高いことからゲノム編集技術で多用される。細菌など原核生物の持つ免疫系を活用して特定の遺伝子配列を切断。遺伝子を改変する。

 2016年4月には、卵白アレルゲン遺伝子を欠損したニワトリをゲノム編集により作製。今回、ニワトリのオボアルブミン遺伝子座にヒトインターフェロンβ遺伝子を挿入。鶏卵を用いて有用組換えタンパク質を安定に大量生産する技術を得た。

●ゲノム編集(産総研、ヒトインターフェロンβ)のテクノロジー

 ニワトリを生物工場として、高価な組換えタンパク質を低コストで大量生産可能にしたことであろう。ヒトインターフェロンβは10マイクログラム(1/1000ミリグラム)当り約2〜5万円もする。

 今回開発した技術では、卵1個に30〜60ミリグラムのヒトインターフェロンβを含む。単純計算では6,000万円〜3億円分に相当する。製品化には、精製工程の開発が重要であり、コスモ・バイオと、安価な製品を目指した精製工程の研究を行っている。

 細胞のウイルス抵抗性を高め、感染に抵抗するための免疫系を制御するヒトインターフェロンβ。ゲノム編集技術によりアレルゲンの完全除去に目処が立ち、低アレルゲン性卵の生産に道筋がつく。副作用の少ないワクチン生産などに応用が可能だ。

 十分な安全性の確認が必須であるのは共通認識であるが、ゲノム編集による産物をどのように取り扱うかの社会的な取り決めが不可欠だ。金の卵が市場に出回るか否かは、この社会的な取り決めにかかってくるであろう。