洋の東西で「人生100年時代」の問題を提起した2人の対談が実現した(撮影:今井康一)

国を越えて、偶然にも時を同じくして「100年人生」に言及しはじめた2人の対談が実現した。
『ライフ・シフト 100年時代の人生戦略』の著者で、英国ロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏。そして、自民党「人生100年時代戦略本部」事務局長で、『人生100年時代の国家戦略』に500日間にわたる激論の様子がつぶさに描かれた小泉進次郎衆議院議員。
英国の心理学者と日本の政治家という異なる立場から、超長寿化に向かう日本社会の問題点と制度設計について語り合う。グラットン氏は、小泉氏が描くある構想に「ぜひ実現してください」と大絶賛。そのユニークな100年時代の国家構想とは?

「国のかたち」は100年スパンで考える

リンダ・グラットン(以下、グラットン):『ライフ・シフト』を執筆した動機は、テクノロジーの影響を考えながら未来を見ていったとき、100歳生きる長寿社会への到達が、世界的に早く実現すると気づいたからでした。

共著者のアンドリュー・スコット氏は、経済学者として経済的な側面の影響を、私は心理学者としての視点からさまざまな社会状況について調べました。その中で、最も逼迫しているのがやはりこの長寿化でした。しかし、なかなかこの問題が話題にのぼることがないのです。

小泉進次郎(以下、小泉):僕は、政治家として未来を眺めたとき、政治が何をどのぐらいのスパンで考えることが国民の安心につながるのかを考えたんです。80年でも90年でもない。100年生きても大丈夫、そういう発想で政策を考えないと、国民に希望と安心を示すことができないだろうと。そこで「人生100年時代だ」と言い出したら、その直後に『ライフ・シフト』が出版されたものですから、まるで赤い糸で繋がっているような感覚でいますよ。

グラットン:政治家と学者、役割は違いますが、似ていることがあるとするならば、どちらも何らかの物語をつむぎ出したいと考えているところだと思います。小泉さんが、国全体がどうなっていくのかをお考えになったのに対して、学者の私は、将来について研究するなかで、おのずと物語を描くことになりました。

『ライフ・シフト』には、20代のジェーン、40代のジミー、そして70代のジャックという年齢層の異なる3人が登場します。100年の人生、いまの条件のなかで、20代のジェーンの人生はどうなっていくのだろうか。登場人物の暮らしを通して考えるのです。政治家の仕事は、こういったそれぞれの世代の問題に、齟齬なく対応していくことなのかなと思います。

小泉:ひとりひとりの人生が多様化してきていますからね。これまで日本は、20歳ぐらいまでが学生時代、60歳ぐらいまでが現役時代、残りの約20年間が老後の人生というように、3ステージのひとつのレールが敷かれている国でした。


リンダ・グラットン/ロンドン・ビジネススクール教授。人材論、組織論の世界的権威。2年に1度発表される世界で最も権威ある経営思想家ランキング「Thinkers50」では2003年以降、毎回ランキング入りを果たしている。2013年のランキングでは、「イノベーションのジレンマ」のクレイトン・クリステンセン、「ブルー・オーシャン戦略」のチャン・キム&レネ・モボルニュ、「リバース・イノベーション」のビジャイ・ゴビンダラジャン、競争戦略論の大家マイケル・ポーターらに次いで12位にランクインした。組織のイノベーションを促進する「Hot Spots Movement」の創始者であり、85を超える企業と500人のエグゼクティブが参加する「働き方の未来コンソーシアム」を率いる(撮影:今井康一)

しかし今後は、ライフステージによって、いろいろなレールのなかから自ら選択して生きていけるような環境をつくっていかないと、ひとりひとりの希望に対応できなくなる。柔軟性のある、しなやかな、寛容な社会。そのための制度設計をしていく必要があります。国づくりの発想自体が、これまでとは違うものになるでしょう。

グラットン:イギリスでは、政治家はみんなブレグジットの話ばかりしています。100年というスパンでなく、1日のスパンで語りがちなのです。そもそも政治家にとって、長期的な問題には手をつけず、短期的な問題を語るのはとても簡単なことですしね。

私はみなさんに「70歳で引退できませんよ」と言えます。ところが、政治家が有権者に対して、その真実を語りながら選挙に当選するのは難しい。しかし、真実を知る必要はあります。見て見ぬふりをしないのは大切なことだと思います。

小泉:国民はもう気づいているんです。むしろ、将来のことを語ってくれる人を待っていると僕は思います。それがたとえ、直面して気持ちのいいことではなくても。だから日本でグラットンさんの本が売れたんです。意外なことに、僕が「人生100年時代」という言葉を使ったとき、異論を唱える人が自民党内には誰もいませんでした。

希望を示す国家から希望を叶える国家へ

小泉:先日、作家の村上龍さんが「現代に国家は希望を示すことができるのか」というテーマでコラムをお書きになっていました。ひとりひとりに希望が存在するようになり、望むものがあまりにも多様化してきて、国が示す希望に多くの人が共感するのが難しい時代になった、と。

政治家としては悲しいことだけど、僕はこのコラムに納得するところがあるんです。しかし、だとしたら政治がやらなければならないのは、多様な希望が叶うような、柔軟性のある制度設計をいろんなところに入れていくことです。ひとりひとりの希望が叶いやすい、そういった社会に生まれ育った人に「日本に生まれてよかった」と思ってもらえる、そのことが日本にとっての希望になる。そういったことを強く考えさせられました。

グラットン:私たちの仕事は、形は違えど希望をつくることだと思います。100年前に比べると、私たちは素晴らしい特別な人生を歩んでいますよね。課題は、その人生を最大に生かすということ。制度設計によって、産業革命以来の新しい将来に向けた準備をすること、それが政府の役割ではないかと思います。


小泉 進次郎(こいずみ しんじろう)/衆議院議員、自民党「人生100年時代戦略本部」事務局長。1981年生まれ、神奈川県出身。関東学院大学経済学部卒業、米・コロンビア大学大学院政治学部修士号取得。米国戦略国際問題研究所研究員、衆議院議員秘書を経て、2009年に初当選。内閣府大臣政務官、復興大臣政務官、党農林部会長、党筆頭副幹事長などを歴任(撮影:今井康一)

小泉:グラットンさんは『ライフ・シフト』で産業革命について言及されていますが、産業革命後の社会の変化には何十年もの時間がかかっていますよね。しかし今は、それ以上の変化と、スピードを求められている。これはものすごく大きなチャレンジです。

スピードで言えば、国よりも民間企業のほうが圧倒的に速いでしょう。国がやらなければならないのは、利益優先ではなく、超長期にわたっても必ずなさねばならないことはなにか、決して変わらない普遍的な大切なものはなんなのか、そこをしっかりと見極め、認識していくことではないかと思います。

グラットン:おっしゃる通りだと思います。しかし、民間企業だからといってスピードが速いとは限りませんよ。恐らく、一番速く変われるのは個人レベルです。その次に企業、そして政府でしょう。政府ができることは、何よりも、真実の物語を語ることです。

まず、人々に70代の半ばぐらいまで働かなければならないということを知らしめていかなければなりません。そして、そのような生き方を可能にし、促すようなコンテクストをつくっていく。将来に向かって備える準備ができて、しかるべき教育を受けられるような環境整備も必要です。

そして、企業も変わるべきです。日本は、勤続年数の長さに関しては他国に先んじていますが、65歳で退職するのでは、全然足りません。そしてもうひとつ。若い人がアントレプレナー的な能力を発揮できるようにしてあげることです。

小泉:アントレプレナーシップは大切ですね。日本はもともと自営業者がとても多い。街中には小さな企業がたくさんあります。問題は、生み出すものが、世の中に違いをもたらすものなのか。世界に必要とされるサービス、商品なのか。日本に欠けているのはこの点だと思います。

なぜ世界中がiPhoneを使うのか。なぜ世界中がGoogle、Amazon、Facebook、Twitterを使うのか。日本人が当たり前に使っているこの名前が、なぜ日本の会社じゃないんだろう、なぜ日本の生み出したサービスじゃないんだろう、と。

「マイノリティになる経験をせよ」

グラットン:問題は、才能のある若い人たちが、なにをやりたがっていて、どこへ行きたがっているのか、ですね。

小泉:そこです。大企業です。

グラットン:そう、若い人たちは大企業が好きなんですよね。能力の高い人こそ、そうではなく、起業を目指せるようにしてあげたいところです。

日本の若者は、かなり内向き志向ですよね。あまり旅行にも行かない。海外に行かないし、英語がなかなか話せないというのも非常に大きな問題だと思います。政治家の方も英語を話されない方が多いですよね。そうなると、なかなか世界が見えてこないと思います。

たとえばインドを見てください。インフォシス、ウィプロなどいろいろな会社が生まれています。いずれもインドの人々が学生のうちにシリコンバレーに行って、ビジネスのつくり方を学んで、現地で得たネットワークをお土産に母国に戻ってきたわけです。

ロンドンのビジネススクールに通う日本の学生もとても優秀ですよ。しかし、日本人の若者は、日本人どうしでくっついてしまう。ほかの国の学生たちとなかなかネットワークを結べないのです。そして授業中、とても静かなんですね。日本の大学において、うまく質問する、ディベートをするトレーニングを受けていないわけです。


小泉氏のジョークにグラットン氏が大笑いする場面も。対談は終始、穏やかな雰囲気で行われた(撮影:今井康一)

小泉:僕は3年間、アメリカで生活しました。大変だったのは、静かにしていることは、評価されることではないということです。自分自身を変える努力が必要だった。大事なのは、英語がうまいかどうかではなく、自分が何を考えているのかを伝え切る努力をすることでした。そして、手を挙げること。私はここにいるという証明をすることです。

海外留学をして、真の多様性とは何かということも理解しました。僕はよく若者たちに「自分が外国人になる経験をしよう」と話しています。自分が外国人になる。つまり自分がマイノリティになるということです。

すると、いままで当たり前だと思ってきたことが、当たり前ではなくなり、日本の常識や価値観は、ワンオブゼムだと理解するようになる。語学を学ぶ以上に圧倒的に大事なことです。

グラットン:おっしゃる通りです。経験の幅を広げ、他国を知るだけでなく、自分がマイノリティになる、これはとても重要なことだと思います。100年生きるのならばそのチャンスがあります。ぜひ若い人々には旅行してほしいと思います。日本が世界標準のものをつくろうと思ったら、まずは世界を理解するところからはじめなければなりませんから。

「人生100年食堂」? 小泉進次郎流、大学改革とは

小泉:最近、僕は「大学改革」について考えています。だけど、大学が変わるのを、社会の変化が待ってくれない。だったら、学位を取るために海外留学をしたい人は、国がおカネを出して無料化する。そして日本に大切なものを持ち帰ってきて、日本で活躍してもらいたいと。

日本はただでさえ18歳人口がどんどん減っていきます。日本の大学の経営は厳しい。選ばれるようにならなければ、国は、学位を取りたい人を海外へ出してしまうぞと。そのほうが大学も危機感を持ちますから、国内の大学改革につながるし、多様性とは何なのかがわかる人材を育成できる。クレイジーだと思われるかもしれないけれど、そのほうがいいんじゃないかと最近、思っています。

グラットン:大学というのは変わるのが本当に遅いんです。いろんなセクターのなかで、もしかすると教育が一番変化が遅いのかもしれません。ですから、非連続の変化を課さなければなりませんね。

一番わくわくするのが、オンライン学習です。イギリスではオープンユニバーシティが成功を収めています。洗練されたテクノロジーを使っていますし、この1〜2年でかなりオンラインで学位が取れるようになるでしょう。日本の学生さんもそういったものを履修できると良いのではないでしょうか。

小泉:いま、高等教育無償化が議論されていますが、間違ってはいけないのは、全員が無料で大学に行けるようにすればいいわけではない、ということです。

たとえば中学を卒業して丁稚奉公して一人前の寿司職人になった人がいます。最近はお酒にこだわる人が増えて、お寿司屋さんでワインを飲む人も出てきた。こういった状況の中で、自分がお客さんに選ばれるようになるには、もっと専門知識を身につけなければならないと気づく。高校に行って学び直そうとか、大学に行ってみたいとか望みを持つ。

そういった望みを叶えることが、リカレント教育や学び直しの環境整備をするということだと思います。誰もが大学に行くことがいいとは思わないんです。多様な生き方があっていい。そういうことを日本は考えていかないと。

将来、日本には、いまほど大学は必要なくなります。その時に、空いているキャンパスに、保育園、幼稚園、老人ホームをつくってもらいたい。そうすると、学食の景色が変わります。

学生たちが食事をしているところに、おじいちゃんおばあちゃんもいれば、子供たちもいる。まさに人生100年が大学のなかにあるわけです。その風景のなかで、人生100年時代を真剣に考えるようになる。これが、僕が将来、日本で見たい景色なんです。「人生100年コミュニティ」とも言えますね。

グラットン:ユニークなアイデアだと思います! 世界はいま、日本が長寿化の課題をどう乗り切るかを見ていますし、そのアイデアはすぐに手をつけることができますよね。0歳から100歳までの食堂を生涯教育の基地にしていく。そんなことが成功したら、世界が本当に魅了されてしまうのではないかと思います。ぜひなさってください。「人生100年コミュニティ」「人生100年食堂」、夢ではありません。小泉さんならできると思います。

「男だけで意思決定するのが怖い」


グラットン:日本は、特に女性の地位に関して変化がとても遅いと思います。講演を行ったとき、会場の男性たちにこう聞いたんです。「みなさん自分の家族をたったひとりで100歳になるまで養うと考えたら、どんな気持ちになりますか?」って。みなさん苦虫を噛み潰したような顔をしていましたよ。

たったひとりが家族を養うという仕組みは理にかなっていません。日本の企業は、特に女性が権利を持てるように変わらなければならないと思います。はっきり申し上げますと、世界はその点については、日本にとても悪いイメージを持っています。なぜ日本の女性は偉くならないのか? なぜシニアポジションに女性がいないのか? そんな目で見ていますよ。

これについては、政府が果たせる役割もあるのではないかと思います。女性が社会に進出できない理由のひとつは、子育て支援の部分だと思います。そして、社会における女性登用そのものの姿勢。女性が100年の人生で何のチャンスもキャリアも持つことができなかったら、とても悲しいと思います。権利を奪われているようなものですから。

小泉:僕は、「女性活躍」という言葉も本当は変えたほうがいいと思っています。「女性だから」活躍させるのではなく、「その人が価値を発揮するから」活躍してもらう。そのほうが、当の女性にとっても気持ちがいいのではないでしょうか。

僕はいま、なにかの意思決定をするときに、男性だけで意思決定をすることが怖いんです。

本当は気づかなければならない角度から、ものが見えていないのではないか、この中では全員がいいと思っていても、女性がいたら「なに言っちゃってるんですか」ということがあるんじゃないかと。

だから女性の社会参加が必要で、それは女性活躍のためではなく、女性にとっても男性にとっても社会にとっても良いことなんだということを、もっと多くの人が理解しないと根づいてゆかない。そういったことを僕は伝えていきたいと思います。

政治が考えるべきは「便利な社会」ではない


小泉:2018年は明治150年。司馬遼太郎さんは、「この国のかたち」という言葉を使いましたけれど、新しいこの国のかたちとはなんなのか、人生100年時代を視野に入れて、それを示すことができるのかが日本に問われていると思います。

少し激しい言い方になるかもしれませんが、日本に問われているのは、永続国家となれるかどうか。永続できない可能性すら感じるのが現状だからです。最大の課題は少子化です。いくらテクノロジーを使って便利な社会を実現しても、日本の人口は下げ止まらず、結果として日本がなくなっていくことになれば、一体なんのための便利なのか。

政治家としての目的は「便利な社会」ではない。これから何世紀も日本が、次の世代へバトンを渡していける、そのために社会のあり方をどう変えるべきなのかを真剣に議論しなければならないタイミングだと思います。

最近、日本のファミリーレストランが定休日を設けたり、コンビニが24時間続けられなくなったりしてきた。私はいいことだと思いますよ。正月三が日、休めばいいじゃないですか。日本は四季の国、旬がある国なんだから。もっと四季を感じる心を取り戻したほうがいい。24時間動ける人はいないんだから。

東京やロンドンやニューヨークは眠らない街、それはそれでいいと思うんです。でも一方で、夜は暗い、夜は寝る。昼は明るい、昼は働く。当たり前の人間らしい場所も確立しなければならない。

豊かさは、東京じゃないところにもいっぱいある。そこにもう一度価値を見出したい。激変の世界だからこそ、変わらないものにもう一度価値を見出すことが、これからの日本にとってとても大切でしょう。農業、漁業、林業、食にまつわるところは特に大事だと思います。人は食べなきゃ生きていけないのだから。

グラットン:本当に素晴らしいお話をありがとうございます。私は新しい本のなかで、そういった問題について触れているんです。産業革命によって生まれた生活様式、便利さの発展とはなんなのか。小泉さんのおっしゃることは、本当に的確です。


個人として、家族として、企業として、政治家として、その目的、目標はなんなのか。私たちは、なぜこういう暮らしをしているのかを考えなければなりません。

これまでは、家族を破壊するような生活モデルをつくってきてしまいました。日本は特にそうですよね、長時間労働で、子供が成長する様子を見ていけない。そんなことが家族にとっていいはずありません。都市での営み、これはほぼ非人間的といってもいいレベルだと思います。

日本が世界に比べて大きく有利なのは、自分たちの食や伝統を失っていないこと。素晴らしいことだと思います。これは特にアメリカで大きな問題となってくるポイントだと思います。「なぜこうしているのか?」それを特に若い人たちには考えていただきたいと思いますね。「人生100年コミュニティ」「人生100年食堂」、ぜひ実現してください。