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●Apple PayのP2Pでできること

米Appleは6月に開催された開発者会議「WWDC17」において、次期OSアップデート「iOS 11」の新機能として「個人間送金(Person-to-Person Payment、以下P2P)」と「Apple Pay Cash」を発表した。秋頃より利用可能になるこの機能について、改めて概要や今後について情報を整理してみたい。

従来のApple Payでは「オンラインまたは実店舗での決済」のみが可能であり、個人間(P2P)でのお金の受け渡しはできなかった。そこでAppleでは「NFCによる店舗決済」「アプリ上での決済」「ブラウザ上での決済」に続くApple Payの第4の機能として、「個人間での送金(P2P)」を追加したというわけだ。これにより、生活範囲によっては日常の活動で現金をほとんど使わずに済むことも増えてくるだろう。近年、米国でも都市部やチェーン展開している店舗を中心にApple Payによる決済が可能な場所が増えたほか、オンライン注文やUberなどの配車サービスではアプリで決済が完了する。残りは「友人同士でのお金の貸し借り」「レストランなどでの割り勘」などの場面での現金の授受だが、これがP2Pの登場によってデジタル処理で置き換えられる。最終的に、米国ではチップの支払いなど、現金の使用はごく限られた場面にとどまるはずだ。

現在のところ、P2Pの利用はiMessageのインターフェイスを用いることになる。iMessageで送金したい相手を選んで金額を指定し、送金への同意としてTouch IDの認証を行う。これで送金は完了だ。P2Pで送金できるのはiMessageを利用している相手、つまりApple IDを持っている自身のフレンドのみということになる。Appleのエコシステムに閉じたサービスではあるが、P2Pはその性質上、不特定多数を相手に送金を行うものではなく、ある程度やりとりする相手が決まっているものだ。そのため、相手が下記のP2P対応のApple系デバイスを所持していることが条件とはなるが、それほど困るシチュエーションは少ないと想像する。これがもし不特定多数を相手に送金が必要なケース、例えば大人数パーティでの割り勘などでは、「Venmo」や「Facebook」などApple Pay P2Pの競合となるサービスを利用するのも手だろう。

iPhone SE

iPhone 6以降

iPad Pro

iPad (第5世代)

iPad Air 2

iPad mini 3以降

Apple Watch

送金にあたっては、Apple Pay用にWalletアプリに登録したデビットまたはクレジットカードを利用することになる。送金の際に、これら登録済みのデビットカードに紐付いた銀行口座、またはクレジットカードの残高に引き落とし請求が行われることになる。一方で送金を受けた側には、「Apple Pay Cash」というバーチャルカードが作成され、ここにいったんお金がプールされる形となる。Apple Pay Cashにプールされたお金は「キャッシュアウト」という形で引き出せるほか、「Apple Pay」としてそのまま店舗やオンラインでの決済にも利用できる。キャッシュアウトの詳細については本稿執筆時点でまだAppleから説明が行われていないが、おそらくWalletに登録したデビットカードに紐付いた銀行口座、またはデビットカードの残高として処理されると思われる。

同件について報じたRecodeによれば、このApple Pay Cashを含むP2Pの仕組みはGreen Dotという会社の提供しているプリペイド方式の決済サービスを活用したもので、送金手数料についてもクレジットカードの利用は3%以内、デビットカードの銀行口座を使った送金では無料になるという。このあたりの処理フローや手数料モデルは競合他社のサービスにならったもので、Apple Payが特別ということはないようだ。

●P2Pはどのタイミングで利用できるようになるのか? 日本展開は?

Apple Pay P2PはiOS 11でサポートされる機能であり、おそらくiOS 11のリリースと同時に前述のTouch ID搭載のApple Pay対応端末ですぐ利用可能になる。2014年10月に米国で初めてApple Payがローンチされたときや、日本で昨年2016年10月に12カ国目に同サービスがローンチされたときは、それぞれ「iOS 8.1」「iOS 10.1」というOSのマイナーバージョンアップ版の登場を1カ月ほど待たなければならなかった。P2Pの場合はそういうことはなく、おそらく9月中旬から後半にかけてiOS 11の提供が開始されたタイミングで利用できるはずだ。

P2Pそのものは米国でのみ利用可能なサービスであり、それ以外の地域のユーザーは同機能を当面は有効にできない。ただし、裏技的に「地域設定を米国に変更」することで、一時的にP2P機能を有効にできるのではないかと推察する。それでも、P2Pに必要な「米国発行のデビットまたはクレジットカード」が存在しないため、肝心の「送金機能」は利用できない。ここでテクニックとなるが、P2P機能を利用できる米国発行のカードを持つ友人に送金を行ってもらうことで、自身のApple Pay Cashに送金分の金額をプールできるのではないかというのが筆者の考えだ。「キャッシュアウト」はできないものの、この金額はそのまま「(Type-A/B仕様の) NFCによる海外の店舗決済」に利用できたり、あるいは相手にそのまま送金が行える。つまり、本来であれば海外でApple Payの利用できない日本国内在住ユーザーが、Apple Pay Cashを使うことでこの縛りが消えるわけで、非常に面白い仕組みだと言えよう。これが実際に可能かどうか、iOS 11がリリースされたタイミングで改めて検証してみたい。

さて、今回のApple Pay P2Pは米国での既存のシステム(Green Dot)を活用したもので、海外展開にあたっては別途現地の金融機関との交渉やパートナー探しが必要になる。筆者の周囲の動きを見る限り、すでに何らかのアプローチは進んでいるようだ。日本がどのタイミングかはまだ不明だが、早い地域では来年2018年ごろから順次展開が進んでいく可能性がある。なお、P2Pを除くApple Payのサービスそのものも提供地域の拡大が進んでおり、先日8月1日(米国時間)に行われたAppleの同社会計年度で2017年度第3四半期(4-6月期)決算発表会において、新たにアラブ首長国連邦(UAE)、デンマーク、フィンランド、スウェーデンでの2017年内でのローンチが発表されている。日本のサービスイン以降、スペイン、アイルランド、台湾、イタリアに続き、年内にはサービス提供地域が20カ国にまで拡大することになる。

●P2Pの今後と"新型iPhone"での問題

先ほど、P2Pの送金相手の条件が限られている点について「それほど困るシチュエーションは少ない」と書いたが、もしAppleが自社のサービスを既存のエコシステム以外へと拡大したいと考えたとき、これら制限は大きな足かせとなる。例えばFacebookなどであれば、アカウント自体を持っていないユーザーのほうが少ないだろうし、多対多のP2PではどうしてもApple Payは不利となる。必然的に、限られた相手とのやりとり(例えば親が子供にお小遣いをあげるといったシチュエーション)に終始し、「身内では使ってるけど便利なサービスだよね」という評価で閉じてしまう。

また利用開始のハードルが低い(登録が簡単)な一方で、積極的に使いたいというモチベーションを喚起する仕掛けに乏しい点も気になる。例えばVenmoでは、フレンド登録した友人らのお金の動きを観察するためのソーシャルタイムラインが逐次活用できるため、これをきっかけにさらにサービスを利用するための仕掛けとして機能している。パーティ好きな若年層であれば、友人らが集まって楽しい何かをやっているという情報には目がなく、次回の参加を希望することだろう。当然ここでは各種の予約サービスやケータリング、割り勘サービスが有効に機能し、さらに経済圏をまわしていくことが可能となる。現在のApple Payや周辺のシステムはこういった視点が欠けており、あくまでプラットフォーム提供者というスタンスにとどまっているのはやや残念な印象を受ける。

また、インターフェイスがiMessageに閉じているというのもやや残念な部分だ。FacebookなどでもMessengerが送金の基本インターフェイスではあるが、送金したいシチュエーションというのは他にもさまざまな場面である。例えばレストランでの複数人での食事やパーティでのピザ大量発注のケースでも、OpenTableのような予約サービスやピザ屋さんの注文アプリでそのまま割り勘処理ができれば便利だ。Webサイトやソーシャルサイトを通じて寄付や小口送金を相手に行いたいというシチュエーションはあるだろう。現在はPayPalなどがその役割を担っているが、将来的にはこれをApple Payで代替することも可能だ。実際、一部アプリデベロッパーを対象にApple Pay P2Pのインターフェイス開放準備を進めているという話も筆者の耳に入っており、この仕組みを使ったAppleの今後に期待したいところだ。

そして最後に、「"Touch ID"を持たないiPhone」が今後登場したとき、どのようにP2Pを含むApple Payが処理されるかが気になる。次期iPhoneの有機EL (OLED)搭載モデルではTouch IDが搭載されない可能性が非常に高く、ここでは3Dカメラを使った顔認証や虹彩認証がサポートされることになる。「顔認証(または虹彩認証)を済ませてから端末をリーダーに(一定時間以内に)タッチする」ことで店舗でのNFC決済は対応できるが、アプリやブラウザでのオンライン決済やP2PではTouch IDそのものが決済実行のトリガーとなっているため、この新型iPhoneではどのタイミングで処理を行うのかがわからない。詳細については9月に実施されるとみられるAppleの新製品発表イベントで明かされることになると思うが、このApple Payにまつわり処理フローが大きく変更される可能性が高く、筆者も注視している。